表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/46

29

夜、鷹峰本家が運営する総合病院。

応接室の扉を開けると、叔父・朱紀あき、叔母・京子、そして従妹の弥生やよいが待っていた。


「丁度良かったわ」

京子がすぐに口を開く。

「私も話があったの。……あんな品のないカフェの女主人とは手を切りなさい。鷹峰の名が落ちるわ」


煌牙は表情を動かさず、黙って席に着いた。

京子は畳みかけるように続ける。

「弥生と婚約すればいいじゃない。あなた達、昔から仲が良かったでしょう?」


その言葉に弥生が深いため息をついた。

「……話があるって言うから何かと思えば……。煌牙はこの前、結婚したばかりでしょ? やめてよ、お母さん」


「弥生……!」

京子の声が尖る。だが弥生は怯まず、毅然と続けた。


「昔からそう。お母さんはプライドばかり高い。

朝紀叔父さんも、父さんも、それぞれ自由に道を選んで、その結果が家を大きくしたの。

私は父さんの跡を継いで医者になった。……結婚は諦めたわ」


重苦しい空気が漂う中、朱紀が深く頭を下げた。

「……煌牙。すまなかった。今後、京子は鷹峰グループの場には連れて行かない。縁を切られるのは……仕方ない」


沈黙の後、朱紀は真摯な目を向ける。

「だが……弥生とは仲良くしてあげてくれ。従兄妹として、それだけは頼む」


煌牙はしばらく黙した後、静かに頷いた。

「……わかっています」


その一言に、京子の顔がさらに強張る。

もう、彼女の言葉に耳を傾ける必要はなかった。


「どうしてよ!」

それでも我慢できず京子の声が甲高く響いた。

「二人とも変よ! あんな野良猫みたいな娘より、うちのほうが上なのよ? ……そうだわ」

口元に不敵な笑みを浮かべ、続けた。

「愛人として側に置けばいいじゃない」


その瞬間、応接室の空気が凍り付いた。


「京子!!」

朱紀の怒声が響く。


「やめなさい」

彼は立ち上がり、京子を鋭く睨みつけた。

「……君が綾子さんに対して対抗意識を持っていたのは分かっていた。だが――やり過ぎだ」


京子は動揺しながらも反論しようとする。

だが朱紀の言葉は止まらない。


「朝紀を“成り上がり”と呼んだことも、忘れてはいない。

……それに――夕樹の時もそうだった。あの子の気持ちを無視して、病院関係のお嬢さんとの見合いを強行したな」


京子の顔から血の気が引いていく。


「もういい」

朱紀の声は低く、揺るぎなかった。

「君とは……離婚しようと思う」


応接室に沈黙が落ちた。

京子は信じられないという顔で朱紀を見つめ、弥生は目を伏せて静かに息をついた。

煌牙は黙したまま、その場の緊張を全て受け止めていた。



重い空気の応接室を出て、長い廊下を抜ける。

煌牙が病院の玄関に差しかかったとき、足音が後ろから追いかけてきた。


「……煌牙」


振り向けば、弥生が立っていた。

白衣を脱ぎ、肩に軽く掛けただけの姿で、どこか疲れた笑みを浮かべている。


「いつかこうなるとは思ってたけどね」

小さく肩を竦めて言った。

「ごめんね、煌牙」


「……大丈夫か?」

従兄弟として、その言葉は自然に出ていた。


弥生はすぐに頷く。

「平気、平気。お母さんのあの性格は、あのくらいされても治らないわ。お父さんも……ずっと限界だったの」


ふっと吐息のように笑い、真っ直ぐに煌牙を見上げる。

「……落ち着いたら、煌牙の奥さんに会わせてね」

瞳にかすかな悔いを滲ませながら続けた。

「ちゃんと謝りたいの。……お母さんのことで」


煌牙は短く頷いた。

「……あぁ。きっと、喜ぶ」


夜風が静かに二人の間を抜けていった。

弥生はもう一度微笑み、背筋を伸ばすと、医師としての顔に戻って病院の奥へと歩き去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ