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月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


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リビングに戻ると、花楓がソファにちょこんと座っていた。湯上がりの頬はまだ赤く、両手でマグカップを抱えている。


「……あっ……」

彼女はワタワタと慌ててキッチンへ向かうと、テーブルにカップを置いた。

「コ、コーヒー入れたから……」


視線は泳ぎ、耳まで赤く染まっている。


煌牙はその様子に思わず口元を緩めかけたが、すぐに真剣な表情に戻った。


「……ありがとう」

そう言って隣に腰を下ろす。


隣に座った途端、花楓の肩がびくりと震えた。

マグカップを握る手に力がこもり、膝の上で落ち着きなく揺れている。


煌牙はその手にそっと触れ、静かに言った。


「……きちんと話す」


花楓は驚いたように顔を上げる。

潤んだ瞳が揺れて、まるで逃げ場を探すようだった。


しかし、煌牙の視線は逃がさない。


契約ではなく、本当の気持ちを――互いに伝える時が来たのだ。


煌牙は花楓の手を取った。


「……あの土地の売買は本当に偶然だ」

静かに、でもはっきりと口を開いた。

花楓の瞳が驚きに揺れる。


「でも、俺もあの店が好きだ。

 あのコーヒーも、あの空気も、全部。

 あのまま残したい。君の大切な場所を守りたい」


花楓は息を呑み、視線を伏せた。

煌牙はその手を強く包み込む。


「君を好きだと気がついたあと、その土地のことを知って……」

喉が詰まり、言葉がかすれる。

「……嫌われたくなかった。君を手放したくなくて、契約結婚なんて言葉が咄嗟に出たんだ。一緒に一番いい方法であの場所を守れる方法考えたい。側にいて欲しい。」


花楓の肩がわずかに震える。

涙が今にもこぼれそうな瞳で、煌牙を見上げる。


「俺は……あんな形を選んだ。けど、本当は最初から――君が欲しかった」


その声は、今まで誰にも見せたことのないほど弱く、でも誠実だった。


花楓の胸に押し込めてきた想いが、そっとほどけていくようだった。


花楓の涙に濡れた声が、夜の静けさに溶けた。


「……もう……離婚したくないよ……」


その言葉は祈りのようにか細く、それでいて揺るぎない想いだった。

俺の胸にじんわりと熱が広がっていく。


「花楓……」

両手で彼女の頬を包み、額をそっと重ねる。

涙の雫がひとつ、頬を伝い落ちて、互いの温もりに混じった。


「……もう、離さない」

囁きは夜気に溶け、彼女の胸へと沈んでいく。


「……離婚したくない……」

小さく、震える声で繰り返す花楓。

その一言が、心の奥で光を放った。


俺は彼女の唇に、静かに口づけた。

深く求めるのではなく、優しく確かめるように。

触れるたび、涙のしずくが甘い味になって溶けていく。


「……離婚なんて、しない。絶対に。やっと…やっと手に入れたんだ。」

唇を離し、目を閉じて囁いた。

「花楓は……ずっと、俺の妻だ」


彼女は答える代わりに、腕を伸ばし、俺を抱き寄せた。その瞳は涙に濡れながらも、どこか幻想的な輝きを宿していた。


二人を包む夜の静寂は、まるで祝福のように柔らかく優しかった。


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