27
浴室の扉が静かに開いた。
湯気を背に、濡れた髪をタオルで押さえながら出てきた花楓。
視線の先には、ソファに座る煌牙の姿。
一瞬で空気が張りつめた。
目が合う。
「…………………」
「……………………」
互いに言葉を失い、数秒が永遠のように長く感じられる。
さっきの告白が頭を離れない。
何を言えばいいのかもわからない。
先に視線を外したのは、煌牙だった。
咳払いをして立ち上がると、低く呟いた。
「……俺もシャワー浴びてくる」
花楓は驚いたように瞬きをした。
けれど、声をかけることはできない。
すれ違いざま、肩が触れそうな距離で。
互いの体温を感じながらも、一歩も踏み込めない。
煌牙はそのまま浴室に入っていき、扉を閉めた。
残された花楓はリビングに立ち尽くし、胸に手を当てて震える鼓動を必死に抑え込んでいた。
シャワーの水音が静かに浴室を満たす。
煌牙は両手で顔を覆い、深く息を吐いた。
「…………はぁ。……何してんだろ、俺」
さっきの自分の行動が脳裏に蘇る。
壁に追い詰め、何度も口づけを重ね、想いをぶつけた。
後悔ではない。
けれど、このまま中途半端なままではいけない。
鏡に映る自分を見据え、低く呟いた。
「……ともかく……きちんと話そう」
契約も、しがらみも、全部を越えて。
自分がどれほど彼女を想っているのか。
彼女の答えを、正面から聞かなくてはならない。
煌牙は水滴を拭い、深呼吸をひとつ。
胸の奥で燃える熱を押し込めながら、覚悟を固めて浴室を後にした。




