25
煌牙の腕に壁際へ追い詰められ、花楓は震える唇を開いた。
「……ちがう……」
かすれた声で否定する。
「だって……だって……これは契約なんでしょ……?」
必死に言葉を繋ぐ花楓の瞳は、涙で揺れていた。
「あなたは……お見合いが煩わしいから……」
胸に手を当て、息を詰まらせながら。
「私は……あの場所を守りたいから……」
唇を噛み、目を逸らす。
「……好きになったなんて……勝手すぎて……」
涙が溢れ、頬を伝う。
「……あなたを困らせる……」
その一言に、煌牙の心臓が強く締め付けられた。
彼女は、自分の気持ちを否定してまで“契約”に縛られている。
それでも――その涙こそが、真実を語っていた。
煌牙は花楓の手首を抑えたまま、震える声で囁いた。
「……困らせる? 俺が……それを望んでたらどうするんだ」
次の瞬間。
「……っ」
煌牙は言葉を遮るように、強く唇を塞いだ。
息を奪うほどの深い口づけ。
拒む間もなく、花楓の背が壁に押し付けられる。
「……っん……!」
かすかな吐息が零れ、抑えられた手首が解かれ煌牙の胸元に触れる。
一度唇を離しても、すぐにまた重ねる。
離しては、また――何度も、何度も。
そのたびに、花楓の瞳が揺れ、頬が紅に染まっていく。
荒い呼吸の合間、低く掠れた声が耳元に落ちた。
「……ふざけんな……」
花楓がはっと息を呑む。
「勝手に……俺の気持ちを決めるな」
その言葉は、熱に震えながらも、確かな想いを叩きつけるようだった。
何度も重なった口づけの熱がまだ唇に残り、心臓は胸を突き破りそうなほど早鐘を打っている。
「……俺は」
煌牙の声が低く響いた。
彼の額が花楓の額に触れ、熱を帯びた吐息が頬にかかる。
「最初から……君が好きだった」
その一言に、花楓の目が大きく見開かれる。
「……っ」
喉が震え、言葉が出ない。
煌牙は視線を逸らさず、さらに続けた。
「土地の話はたまたま偶然が重なった。親族や役員どもにうんざりして……お見合いから逃げたかったのも本当だ。けど―それだけなら、誰でもよかった」
強く抱き寄せ、背中に腕を回す。
「俺が欲しかったのは……君だけだ」
その声は震えていた。
けれど揺らぎはなく、花楓の心をまっすぐに貫く。
「君が笑ってくれるたびに……『客』として接してくるたび勝手に苛立って、でも惹かれて……もう我慢できなかった」
熱を帯びた眼差しが、花楓を逃さない。
その真剣さに胸が締め付けられ、花楓の瞳に熱い雫があふれた。
「……煌牙さん……」
押し殺していた想いが、涙と共にあふれ出す。
「……私は……」
か細い声で零すと、煌牙の腕がさらに強く抱き寄せてくる。
花楓は潤んだ瞳で彼を見上げ、震える唇で続けた。
「……あなたが好き……」
涙が頬をつたう。
「……好きになっちゃった……」
その言葉は、隠していた想いをすべてさらけ出す告白だった。
煌牙の瞳が大きく揺れ、次の瞬間には花楓の唇を深く奪っていた。
涙ごと塞ぎ込むように、強く、熱く。
契約という枷は完全に壊れ、残されたのは――
ただ、互いを求め合う真実の気持ちだけだった。




