18
朝食会翌日の午後の静かな月猫庵。
客足が落ち着き、店内にはコーヒーの香りだけが漂っていた。
テーブルの片隅に腰を下ろしていた学校帰りの昴流が、ふと花楓に問いかける。
「花楓さん……ほんとに良かったの?」
「えっ?」
花楓はポットを持った手を止め、振り返る。
昴流は肘をつき、じっと彼女を見つめていた。
「ぼくはずっと、このお店に来てたから。兄さんと花楓さんのやり取り、最初から見てきた」
その声はいつになく真剣で、幼さを残す顔に影が差している。
「だから……こんな急な入籍、変なことくらいわかるよ」
花楓の胸が大きく波立つ。
(……気づかれてる)
昴流は少し視線を落とし、言葉を続けた。
「姉さんになってくれたのは嬉しいよ。本当に。
でも、無理してない? 兄さんに合わせてるだけじゃない?」
花楓は小さく唇を噛んだ。
昴流の言葉は、核心を突いていた。
契約――その言葉が頭をよぎる。
けれども、彼の真っ直ぐな瞳を見た瞬間、嘘で誤魔化すこともできなかった。
「……昴流くん」
花楓はポットを置き、膝の上で手を握りしめる。
「私は……」
声が震え、言葉が続かなかった。
昴流は一つ息を吐き、少しだけ柔らかい笑みを浮かべる。
「……まぁ、あの人今風に言えばクソが付くほど真面目だし…本気で姉さんを守りたい事だけはぼくにもわかるよ」
その言葉に、花楓の胸は切なくも温かくなった。
――煌牙の想いが優しくて強いことは花楓も数カ月過ごす中でわかってた。
そんな日々の中で伝えてはいけない想いが確かに芽生えているのだと気づかされてしまった……




