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月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


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花楓との日々は穏やかに過ぎていった。

買い物に出かけ、夕飯を共にし、夜は並んで眠る。

そんな平穏な結婚生活が、もっと前から続いていたかのように馴染んでいく。


そんな平穏の中である日、静かな執務室に電話の着信音が響いた。


画面に表示された名前を見て、煌牙はすぐに応答する。


「……お疲れ様です。会長。」


低く落ち着いた声の向こうで、朝紀の声音が告げる。

『今週末の朝食会……花楓さんを連れてきなさい』


胸の奥が一瞬ざわめいた。


いよいよか――。


覚悟を決めた煌牙は短く「……わかりました」とだけ返し、通話を切った。


机の上に置かれたペンを指先で転がす。

視線の先に浮かんだのは、あの日の記憶。


――婚姻届の証人欄。

昼食を共にしながら、父に頭を下げて頼んだ日のこと。


「……どうしてこんな急な話に?」

箸を置き、朝紀は静かに問いかけた。


煌牙は息を整え、真正面から答える。

「あの場所を守りたいのもあります。……でも、それ以上に」


言葉が途切れ、拳がわずかに震える。

どうしようもなかった。

彼女に恋をしていた。

普通の恋人として過ごす時間さえ惜しい。

どうしても――彼女を手に入れたかった。


「愚かな手段だとは、わかっています」

低く吐き出すように言葉を続ける。


沈黙ののち、父は深く頷き、婚姻届にペンを走らせた。


「…………わかった」

重みのある声。

「ただし、一年後。彼女の心が君になければ、約束どおり誠意を持って離婚しなさい」


真っ直ぐな眼差しが、煌牙を射抜く。

「守ると決めたなら――最後まで守り通せ」


インクの跡が刻まれたその瞬間から、煌牙の覚悟は逃げ場を失った。

愚かでもいい。

契約でもいい。

彼女の隣を手放すことだけは、絶対にできないのだから。

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