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月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


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午後二時を過ぎた頃、二人は北山のレストランに入った。

少し遅めのランチは、パスタとハンバーグをそれぞれ注文する。


テーブルに並んだ皿から、熱気と香りが立ちのぼる。

「美味しそう……」

花楓が目を輝かせる。


フォークを手に取った煌牙は、ハンバーグを一口切り分けると、ふと彼女に向けて差し出した。

「これうまいぞ。ほら」


「えっ……」

花楓は戸惑い、頬を染める。

「そ、そんな……子供みたいで……」


「いいから」

低く命じるように囁き、口元へ運ぶ。


赤くなった顔を隠すように、花楓は目をぎゅっとつむり、恥ずかしそうに口を開いた。

フォークの先を受け取る仕草が、あまりにも初々しい。


(……ゾクゾクするな)


煌牙は思わず喉の奥で笑いを噛み殺した。

契約結婚のはずなのに――彼女のそんな顔を見せられたら、ますます手放す気になどなれない。


「……美味しい」

花楓が照れくさそうに微笑む。


その笑顔に、煌牙は心の奥で呟く。

(やっぱり美味そうに食べる…可愛い)


だが――その光景を、不意に誰かが見ていた。


「……社長?」


その疑念混じりの声に、花楓の表情が固まる。


振り返ると、数名の鷹峰グループ役員が立っていた。

ランチミーティングを終えた帰りらしく、驚いたように目を見開いている。


「……!」

花楓は慌てて姿勢を正し、言葉を失った。


対して煌牙は、わずかに口元を緩めただけ。

「……お疲れさまです」

低い声で淡々と挨拶を返す。


役員たちの視線が花楓に注がれる。


ざわつく空気。


誰も言葉にはしないが――「社長が女性と二人で食事をしている」という事実は、もう十分に重い。


花楓の手が膝の上で震えそうになる。

その瞬間、煌牙は迷いなく彼女の手を取った。


「……妻です。今日婚姻届を出した所です」


静かな一言が、すべてを打ち砕いた。

役員たちの目が一斉に見開かれる。


その場に漂う空気は一瞬で変わり、誰も軽々しく口を挟めなくなった。


煌牙はただ彼女の横顔を見つめ、揺るがぬ眼差しを浮かべていた。


その日のうちにランチの一件は瞬く間にフロアに広がった。


「……鷹峰社長、女性と一緒にいたぞ」


「妻だと……? 結婚の話など一度も聞いていない」


「正式な発表もなければ、本人から話もなかったはずだ」


ざわめきは瞬く間に広がり、やがて小さな渦となった。


誰もが「どうなっているのか」と口々に囁き合う。


「……もしや、会長も知らないのでは?」

不安げな声が上がる。


その瞬間――重々しい扉が開いた。

現れたのは、鷹峰グループ会長・朝紀だった。

背筋を伸ばし、柔らかな笑みを浮かべながらも、その存在感は場を圧する。


「知らないはずないだろう。息子の結婚だよ?」


場が一瞬静まり返る。


「証人の欄には、私が名前を書いたんだから」

さらりと告げられたその言葉に、空気が一変する。


「……っ!」

役員たちの顔が次々に強張り、室内に驚きの息が漏れる。

「会長自ら……?」

「承認済み……」


混乱とざわめきが広がったその瞬間、綾子が静かに夫の隣に立った。

柔らかな笑みを浮かべながら、しかしはっきりと告げる。


「ええ。私も立ち会いました。

花楓さんは、もう私たちの大切な娘です」


その一言は、役員たちの最後の抵抗を完全に打ち砕いた。


重苦しい空気の中、朝紀はわずかに目を細める。

「――以上だ。息子の結婚を妨げる理由がある者は、今ここで言え」


誰一人声を上げられず、会議室はしんと静まり返った。


(……契約であろうと、本物になろうと。

お前の選んだ道なら、私は背を押す。頑張れ)


朝紀の胸中には、静かな決意が宿っていた。



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