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その日のうちに、花楓は煌牙の住むマンションに連れられた。
タクシーが停まった先にそびえていたのは、四条でもひときわ異彩を放つ邸宅のような建物。
石畳の街並みに溶け込むように設計された低層の高級マンションだった。
ワンフロアに一部屋だけ。
エントランスには美術館のような静謐さがあり、カードキーをかざすと専用エレベーターが音もなく上昇する。
扉が開いた瞬間、広々とした空間と大きな窓一面に広がる鴨川と東山の稜線。
東京のような摩天楼ではなく、古都の景観を抱きしめる夜景だった。
「すまないが、明日から月猫庵へはここから通勤してほしい。夫婦が別世帯というわけにはいかないから……送り迎えは俺がする」
煌牙は当然のように告げる。
花楓は驚きのあまり口をつぐんだ。
(……部屋は別、だよな。一年かけて……同じ部屋に)
と花楓の部屋を考えていたその時、彼女が恐る恐る呟いた。
「……お部屋、一緒だよね?
誰か来たとき、怪しまれるから……」
その言葉に、煌牙の胸の奥で熱が爆ぜる。
必死に笑みをこらえながらも、視線は自然と彼女に吸い寄せられていた。
「こちらだ」
煌牙が無機質な声で言い、寝室の扉を開けた。
花楓はおそるおそる足を踏み入れる。
そこはホテルのスイートルームのように整然としていた。
壁一面の窓からは、東山の稜線と夜の街灯りが見える。
絨毯は厚く、家具はどれも上質で、無駄なものが一切ない。
だが、目に飛び込んできた光景に――花楓は硬直した。
「……べ、ベッド、一つしかないの?」
広い部屋の中央に据えられた、キングサイズのベッド。
それは圧倒的な存在感を放っていた。
「安心しろ」
煌牙は眉一つ動かさず、低く言う。
「広いから寝ぼけても落ちない。それに……襲ったりはしない。無理やりはな」
「……っ」
花楓の頬が赤くなる。
「ど、同意なんて……するはずない! 好きな人としかしたくない」
その言葉に、煌牙の胸の奥が熱く震えた。
(……“好きな人”じゃなく、“愛してる”と言わせてやる。一年で名実ともに俺の妻にする―必ず)
煌牙はそう心に誓いながら、わずかに唇を吊り上げた。




