第3話:孤独の夜明け
※本作には残酷描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
——あ、死んだ。
徐々に血の巡りが遅くなり、やがて脳も動かなくなるだろう。
光を失う瞬間は、驚くほど静寂だった。
痛みはもうない。
耳の奥で心音が遠ざかっていくのを感じる。
今はただ、冷たい床の感触だけが残っていた。
ああ、すごく眠いな。
僕はもう、死を受け入れるしかないのか……。
朝方頃だっただろうか。
まだまだ暗い街の中、突如現れる一筋の光。
でも彼らは違和感を覚えるどころか、感激していた。
「お恵みだ!
神様ご自身からの賜物だ!」
「おぉなんという祝福!」
人々は光の元に合掌をし、不気味な笑みを浮かべながら、涙を流していた。
老若男女関係なしに。
だけど、僕から見れば皮肉でしかなかった。
人々は歓喜していたが、僕はただただ冷たい目で見ていた。
救いは、叶わない。
祈ったとしても、訪れない。
彼らが神の思惑に気づくのは、一体いつになるんだろうな。
◆◆◆◆
「おい!ちょっと大丈夫か!?」
「……?」
中年あたりの男が、心配そうに駆け寄ってくる。なんだ、どうしたんだ?
「君ずっと、『イロハ……助けなきゃ……でも……』って。
瞬きもしないで、涙を流していたんだぞ!」
そうか——
僕は、死んだんだ。神によって。
……悔しかった。
彩葉を、父さんを助けようと、微塵も思うことができなかった。
「クソッ。クソぉぉぉおおお!」
僕は、地面を思い切り殴った。
けれど、痛みなんて感じられなかった。
「あんた!やめるんだ!
地面を殴っちゃいかん!」
言われてもなお、無我夢中に殴り続けていた。
地面を、無力な自分に重ねるように。
中年男性の服装は、現代の服装と一風変わっている。
まるで神父のような、白い服装。
だから、僕を救おうっていうのか?
ここに辿り着いた瞬間、理解した。
ここは地球じゃない。
空が青すぎる。目が焼けるほど痛い青。
重力の大きさも少し違う気がした。
耳を澄ませば、鐘の音が響いている。
いや、それだけじゃない。
不自然に、動物たちの鳴き声も聞こえてくるんだ。
「何してるんだ!」
遠目で僕を見ていた人も、さすがに止めに入ってきた。もちろん皆、神父やシスターのような格好をしている。
頭を地面に押さえつけられ、動かないように固定された。
その時の目に入ってくる光景に、僕は絶句した。
大体の人が、剣を腰に下げている。戦が当たり前なのか。
人間を奴隷のように扱っている人まで。
この世界は、壊れている。
そう確信できるところが、幾つか目に入ってくる。
「貴方たち、何をしているのですか?」
横目で薄らと見えるのは、10代ぐらいの少女と、後ろに護衛としてつく20代ぐらいの男二人組。
「こんな道の真ん中で、なんということを。
聖職者たる者が、暴力で押さえつけているなんて。」
声は、少し低く落ち着いている。
それに、僕より2つ3つ歳が下に見える。
体は少し痩せていて、髪がさらさらしてる。彩葉もこの世界に連れてこられたのか?
「申し訳ございません。司祭様。
この者が自虐しておりましたので、押さえつける以外方法がなく……。」
「言い訳は必要ありません。まずはこの方に謝罪を。」
僕は、我慢ができなかった。
再び彩葉に出会えた喜びと、知らない地への混乱が、僕を狂わす。
「彩葉……!
僕だよ。お前のお兄ちゃんだぞ。
覚えているか……?」
少女は、戸惑い、後ろに一歩下がる。
一瞬、目を見開いたように見えたが、徐々に表情が薄暗くなっていく。
「誰ですか。あなた。」
頭が真っ白になった。
言おうとした言葉が、喉で止まる。
「互いに名も知らない分際で、私に話しかけないでください。
それに私は貴方が困っていると思い、ここに現れたのです。」
顔を顰めて、僕を見た。
それは、まるで人間ではなく未知な存在を見るような目だった。
「……。」
わかっていた。でも、希望があった。
少しでも、まだ彩葉が生きているって信じたかった。
またあの幸せを貰える笑顔が、見たかったんだ。
「……すみません。人……違いでした。」
二度、失ったように感じた。
仕方がないだろ。
だって……彼女は——
少し暖かい風が、首を撫でるように通り過ぎた。
気づけば、僕を押さえつけていた人々はいなくなっていた。
「そうですか。
ですが、一つ忠告です。
いきなり身内のように、声をかけるのは控えた方がよろしいかと。」
なあ、神。最後に教えろよ。
貴様は、何故。僕の大切な人を、何度も、何度も、奪うんだ。
歯で唇を噛み切り、血が滲み出た。
「……待って。」
「あのですね。
聞いていましたか?」
「せめて、名前だけでも教えて貰えませんか。」
後ろの護衛二人が、武器を構え始める。
彼女の顔が良く見えなくなった。
「無礼者!
司祭様に名を聞くということは、神様に名を聞くのと同様!
その行動がどれだけ愚かなことか、承知しておるのか!」
さっきの中年の男が別人のように、怒りを投げ飛ばしてくる。
「やめなさい!
私の許可なく、貴方達が怒鳴らないでください。」
「ですが……。」
「もう良いんです。」
彼女が軽く咳払いをすると同時に、後ろの護衛がかけよる。
「あの者を『森』に連れて行け。それだけで良い。」
「心得ました。」
「おい、『森』だってよ。」
「不運な奴だよな。」
一部の人々が遠くで、“森"という言葉を聞いてざわめいている。
「それだけでは……。」
彼らの言葉に、彼女の表情はより一層暗くなる。
そして、彼らを蔑むように見た。
「いい加減しつこいですよ。」
待て……
罪、重すぎないか……?
僕はただ、名前を聞いただけなのに。
それだけで『森』に送られるのか。
護衛二人に固定され、町の外へ連れ出そうとしてくる。
もちろん、抵抗しても無駄だ。
町の出口に着いたが、そこには何もない。
護衛は森の入口を指差し、『ここまでだ』と言った。
「……どういうことだ?」
「『出口まで運べ』とアクロム様のご命令だ。」
急にどんな風の吹き回しだ?
頭の理解が追いつかない。
「名前が……。」
「それも許可されている。
アクロム様はあの連中から、貴方を突き放そうとしていたんだ。」
「なんで、そんなことを。」
「それは言えない。……達者でな。」
町とは裏腹に、静かなところで一人になった。
あの少女に、感謝すべきなのか……わからない。
それでも、恨む気にはなれなかった。
彼女——アクロムは、"君"のようだったから。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次回作もよろしくお願いします。




