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かつての旅路1

 

大陸東部、超軍事国家と呼ばれたソルダート帝国は勇者一行の存在を疎ましく思っていた。

 唯一単独で魔王軍と対抗する帝国は魔王軍との戦いに勝利し、今後の人類の動きで有利に進めようとしていた。それによって、勇者が魔王を倒すのは帝国にとって望まない展開だった。

 帝国皇帝は幾度も勇者一行に刺客を送ったが、その悉くが敗北していた。さらに勇者ケイルにより敗北した実力者達が勇者と協調すべきとの声を上げ始めていた。

 その強者の中には、帝国最強剣士アマテラ・ヒールメル、原初の魔族サタナエル、帝国暗部所属ラブ・アンホープなど、帝国が誇る最高の実力者達の姿もあった。

 何より、勇者ケイルは自分を襲撃した者であっても命を助ける優しさや、魔物や魔族討伐による名声が大きい。帝国国内でさえ勇者支持者が増えていく状況にあった。

 最終的には魔王軍との最終決戦前に皇帝と勇者が友となり和解するのだが、その前に皇帝は自身の懐刀を勇者一行に差し向ける。



 ■ ■ ■


 大陸東部にて、とあるパーティーが歩いていた。

 そのパーティの正体は勇者パーティー。ケイル・ダイフ率いる彼らは、極東にある魔王城へと進んでいた。

 四人組の息の合ったパーティーは、道中の魔物を圧倒しながら進んでいく。順調だった彼らだが、森の中に入って暫く、木々が生い茂る中で不自然に木が消えた場所に出た。

 中心には白髪の背の高い女性が立っていた。


 「よく来たわね、勇者一行」

 「友好的では無さそうね」

 「あら、怖い顔するじゃない。アベナル・ルシア。流石は大陸最古の組織シャドウナイツの幹部の一人にして実力者」


 女の言葉にアベナルは警戒心を上げる。シャドウナイツの情報は公にはされておらず、知っている者は限られている。にも関わらずここまで詳細に語る女に彼女は敵意を剥き出しにしていた。


 「できれば揉め事は起こしたくない。魔王軍でも無いようだし、そこを通してくれないか?」


 僕の言葉に、彼女は体を小刻みに震えながら笑う。不気味で何を考えているのか分からない。

 彼女はゆっくりと僕達を見てきた。


 「名乗りましょうか。帝国暗部、皇帝直属部隊〝帝魔の威〟トップ、ウラルエル。皇帝陛下の命により貴方方を排除いたします」


 名乗りと共に彼女の背中から六対の純白の翼が現れた。

 天使。絶滅したと言われていた希少種族の一つ。かつては神の使いと呼ばれ信仰の対象になっていた存在が僕達の前に立ち塞がっていた。

 戦いが始まる。彼女の魔法が変幻自在に襲いかかる。パーティーは分断され、僕とアベナルがウラルエルと対峙していた。

 ウラルエルの魔法が形を変え、ドーム状の空間を創り上げて周囲から隔絶する。


 「やってくれるじゃない」

 「強がりはよしなさい。幾ら強かろうと所詮は人間。私には敵わないわ」

 「それなら勝てるまで挑み続けるだけだよ」


 アベナルは後方から魔法を放ちウラルエルの動きを抑制し、僕はウラルエルと剣戟を繰り広げる。

 金属音が響きながら、僕もウラルエル一歩も譲らない。上下左右から振るう変幻自在の太刀筋を彼女は羽と剣で巧みに防いでくる。

 ウラルエルの剣は決してケイルに届かなかった。こちらは羽も駆使して戦っているのに、自分の手数も物ともしない技術で防がれる。

 (厄介だな。流石は干害のイフルやアマテラと言った強者達を倒してきただけはある)

 ウラルエルにとって、何よりも厄介だったのはケイルの剣では無かった。後方からの魔法。黒と白が混ざった光の魔法は彼女にとっても無視できない威力であり、何よりも、喰らった部位の再生が出来ないのだ。

 傷口が黒く染まり、魔法が阻害される。侵食性が無いのはマシだが、防ぐためには意識を割かなければいけない。

 アベナルの魔法と、ケイルの剣で徐々に動きが鈍ったウラルエルは、先に力を見せた。

 ウラルエルの体が光を帯びていく。白銀の鎧が形成されていき、彼女の体を覆った。

 白光魔法『煌姫』。魔法を反射する白銀の鎧を創り出し、光速移動を可能とする魔法。それを発動したことで、ウラルエルはアベナルの魔法を無視してケイルとの切り合いをはじめた。

 だがそれは、大きな間違いだった。アベナルの魔法が、ウラルエルの白銀の鎧を砕き、貫いた。ウラルエルは全身に奔る痛みに歯を食いしばるが、混乱していた。

 (は?私の鎧を貫いて、反射が効かない!?まさか!?)

 ウラルエルがアベナルを見る。冷え切った眼差しと、冷たい笑みを浮かべる彼女からは、勇者であるケイル・ダイフ以上のオーラを感じた。


 「正解、君の想像通りだよ」


 それは勝てない筈だと、ウラルエルは倒れゆく中で納得した。

 シャドウナイツ。6000年以上も前から存在する組織。その最高幹部である『宵闇』と呼ばれる八人の強者にはその力を由来とした二つ名が付けられていた。

 その中でも広く大陸で知られている三人がいた。〝宵闇〟のアードラス、〝深淵〟のアビス、そして〝未知〟と呼ばれる存在。

 アードラスとアビスは一定の力を持つ存在や、太古から生きている存在なら認知していたが、未知と呼ばれる存在だけは長らく不明だった。だが、今目の前に立っている女こそが未知なのだろう。

 反射の鎧でも、反射出来ず、回復魔法も傷の解析が出来ずに阻害される。正体不明の魔法を扱う女。

 彼女が未知と言うのならば納得がいく。

 倒れる私をケイルは地面に付く前に支える。ケイルは剣先を向けると降伏を促した。


 「命までは取りません、ですので皇帝陛下にご伝えしてください。共に魔王を倒す道を進みませんかと」

 「優しいのね、噂通りあまいわ。フフ、負けたのだからね、従いましょう」


 ドーム状の壁は崩れ去り、森が見えてくる。外にいたパーティーメンバーも合流した。

 ウラルエルを治療すると、彼女は帝国へと飛び去っていく。

 彼女には二週間後、帝国最東端の街に滞在していると伝えておいた。皇帝が応じれば、きっと使者でも寄越してくれるだろう。


 「皇帝陛下が応じてくれたら、きっと魔王にも勝てる」

 「まあこれに関しては皇帝次第だからね。二週間、待ってみましょうよ」


 ケイル率いる勇者一行は、また旅路に戻るのだった。魔王軍の領域に近づくにつれ魔物が強くなる中でも、難なく討伐しながら道を切り開いていくその姿は、辺境の集落の人々を照らす光となっていた。


二日に一度、2話投稿するので見てもらえると嬉しいです。偶に毎日投稿もしてます!

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