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鬼導丸  作者: 杉山薫
第一部 天正伊賀の乱
9/45

 オレたちは伊賀の国に帰ってきた。途中、尾行されている様子もなかった。ただ、気がかりは雷撃を見せた相手に逃げられたことだ。バレたら大目玉だ。


「半蔵からの返事、書状がないということは……」


百地丹波が開口一番に訊いてきた。


「色よい返事はできぬと正確に伝えろと仰せつかっております。どのような意味でしょう?」


オレの問いに百地丹波が渋々答える。


「正式には受け入れられんということだ。お主も上忍候補なのだからそのくらいはその場で聞き分けろ。三河の国の服部の里辺りなら問題ないだろう。問題はあそこまでどうやって女子供を連れていくかだな」


百地丹波の言葉にオレは深く頷いた。


「ところでカヤト、ワシに報告せにゃいかんことはないか?」


ほら、きた。

あのオシャベリくノ一が黙っているはずもない。


「尾張の国で織田家の間者十人と交戦になりました」


「そういうことを訊いているのではない。アレは温存したかと訊いているんだよ」


はあ、やっぱりそれか。


「間者十人相手ではアレを使う以外ないかと……」


「この愚か者が。それで全員始末したんだろうな?」


「少なくても三人逃がしてしまいました。しかし……」


「言い訳はいいと毎度言っているだろアレは安土城すら落とせるこちらの切り札だぞ。何度も敵に見せるな」


安土城とは大きく出たな。

まあ、鬼導丸(きどうまる)だったら全滅に追い込むことくらいはできるがな。


「百地様、本多平八郎という武将はご存知でしょうか?」


「蜻蛉切の平八郎だろ。知っている」


「どうやら鬼導丸(きどうまる)が見えるようです。触れることはできませんでしたが」


「うむ、平八郎なら見えても不思議ではない。それで平八郎にはどのくらい情報を漏らした?」


漏らした前提?

信用ねえなオレは。


「鬼の話くらいです。鬼の角のことばかりでそれ以外は何も」


「アイツらしいな」


そう言って報告は終わった。


 天正七年九月、織田軍は伊賀の国に三方から侵攻してきた。オレは百地砦、雪乃は平楽寺で待機となった。前回はオレも平楽寺で待機だっただけに百地様はオレをあまり味方にさえ晒したくないのだろう。こんなところで待機ではここにわざわざ敵が突っ込んでこなければ戦闘になることはない。そう、戦闘になるはずがなかったのであるが、伊賀衆はくねくねと曲がった地形を巧みに利用し、織田軍を奇襲や夜襲で翻弄した。その結果、織田信長にも重きを置かれる重臣の柘植保重の軍勢が平楽寺攻略の援軍としてこの地を強襲することになった。


「カヤト、ここにはあまり戦力がおらん。お主、鬼瘤峠にて単独で敵の主力を撃破してこい。アレを使っても構わん」


百地丹波の言葉にオレは首を傾げる。


「アレと申しますと?」


「雷撃だ。ただし、使っているところは決して見られるな」


「承知」


オレは百地砦を出撃し、鬼瘤峠へと向かって走っていく。もとより今回は雷撃など使う気はない。鬼瘤峠、鬼つながりで鬼導丸(きどうまる)で全滅させる。鬼導丸(きどうまる)を使える時間がどのくらいなのかも知りたい。


 オレは鬼瘤峠に到着するや否や織田軍と会敵した。まあ、忍び一人と会敵したところで軍勢が止まるはずもなく、オレはおもむろに鬼導丸(きどうまる)を抜刀した。色をなくす世界に無防備に静止する織田家の軍勢。オレは敵兵を一人一人鬼導丸(きどうまる)で斬っていく。敵兵は墨が流れるように地面に吸い込まれていく。七十をこえたあたりでオレの頭に激痛が走る。世界はふたたび色を取り戻していった。


「うぬぬ、妖術使いがおる。気をつけろ」


大将格らしき男が叫ぶ。おそらくこの男が柘植保重。オレは激痛に耐えながら柘植保重に忍び刀を突き刺していった。その瞬間、世界はふたたび色を失った。


そして、一体の鬼が湧き出てきて柘植保重を修復していく。オレは鬼導丸(きどうまる)を抜刀しようするが抜刀できない。おそらく限界をこえてしまったのだろう。しかし、どうやら鬼導丸(きどうまる)を抜刀できないだけで動けるらしい。頭の激痛も治まりつつある。オレは徐々に柘植保重へとふたたび距離を詰めていく。そして、世界にふたたび色が戻った時オレは柘植保重に忍び刀で襲いかかっていた。


「間者などにくれてやる首級(くび)などないわ。この首級(くび)を信雄様に持っていけ」


柘植保重は自らの首を斬ってしまった。オレが呆然としている隙をついて織田軍はその首級(くび)を持ち去って伊勢に向かって逃げていってしまった。


自らの首だぞ。

自らの首を斬って、それを部下が持って逃げる?


狂っている。



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