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鬼導丸  作者: 杉山薫
第一部 天正伊賀の乱
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「百地様がお呼びだよ。すぐに平楽寺に来いって」


雪乃が悪びれることなく言う。


「やっぱり滝川のことか? 地獄耳だな」


オレがそう言うと、雪乃は首を傾げる。


「なんか伊勢偵察の件なんでとにかく急げって」


「伊勢偵察? オレが? なんで?」


「あたしに訊いたって知らんよ。伊勢ってことはお伊勢さんだね。お土産よろしく」


偵察って言ってなかったか?



 平楽寺に到着すると郷士衆の頭たちがずらりと並んでいるところにオレは通された。


「カヤト、早かったのう。して、丸山城は?」


百地丹波がオレに訊く。


「まったく動きはございません」


「ワシに隠し事は?」


オレが答えるとすかさず百地丹波は訊く。オレは腰にさしている鬼導丸(きどうまる)を右手で掴み、前にかざす。


「これが見えますか?」


どうやら誰一人、鬼導丸(きどうまる)は見えないらしいので、オレは続ける。


「今から三年後、某はここ平楽寺で滝川一益と一騎打ちをして敗れました」


郷士衆は騒然となったが、百地丹波が制する。


「三年後と言うたが、我らを謀っているのか?」


「某が今手にしているのは鬼導丸(きどうまる)と申します。滝川一益に敗れ奈落の底に落ちた時に手にした妖刀にございます」


郷士衆はふたたび騒然となるが、今度は植田光次が制する。


「カヤト、それは本当に鬼導丸(きどうまる)か?」


植田光次が訊くのでオレは答える。


「さあ、某は植田様がおっしゃる鬼導丸(きどうまる)を知りません。奈落の底で封印を解いた際にこの妖刀が語りかけただけです。|

この世に蔓延(はびこ)る鬼を斬れと」


植田光次はオレの言葉に深く頷く。


「それ以外は?」


「先の丸山城の戦いの折、総大将の滝川雄利を討ち取った際……」


植田光次は百地丹波に耳打ちをして人払いをした。


「すまぬ。カヤト、丸山城の一件もう一度お願いできるか?」


百地丹波と植田光次の三人になったところで、植田光次がそう言うので、オレは頷き話し始めた。


「滝川雄利が討ち取られてすぐに異変が起きました。まるで墨絵の世界のように周りが静止する白黒の世界になってしまったのですが、三体の異形の鬼が現れ、討ち取られた滝川雄利の身体を修復しているのです。鬼導丸(きどうまる)が震えだしたので某は柄を右手で押さえたのですが、某の右手はそのまま抜刀し、手間にいる異形の鬼を背後から斬り捨てました。残りの異形の鬼が異変に気付き奇声を発したと思ったら目の前に色が戻り皆が動き出したのです。これが某が知る滝川雄利討死のすべてです」


百地丹波は静かに聞いていたが、植田光次は時折厳しい顔をしながらオレの言葉を聞いていた。


「確かに我が家に伝わる伝承と一致する。百地殿、鬼導丸(きどうまる)は危険だ。すぐに封印すべきだと思うが、いかがする?」


植田光次が百地丹波に意見を問う。


「封印すると言ってもカヤトにしか見えぬのだぞ。おそらく触れることもできまい」


百地丹波はオレの右手付近に手を持っていく。


「カヤト、少なくてもお主は三年後までの状況を把握しているのだな?」


百地丹波が訊くので、オレは深く頷いた。


「来年九月、織田軍は大軍を率いて伊賀国に三方から侵攻してきます。我ら伊賀衆は夜襲や松明を用いた撹乱作戦などを用いて各地で抗戦し織田軍を伊勢国に敗走させることになります。ただし、三年後、蒲生氏郷を総大将とする織田軍の大軍が攻めてくるのですが蒲生隊を打ち破って一度は勝利しますが滝川一益の援軍が到着し伊賀衆は壊滅に追い込まれます。申し訳ありませぬ。その後、この伊賀の国がどうなってのかまでは某にはわかりませぬ」


オレがそう言うと、百地丹波は深く頷いた。


「ここ平楽寺が蹂躙されたとあれば壊滅状態に陥ったと考えるのが普通だな」


オレの言葉を植田光次が補足する。


「逆に考えれば三年もあるのだから女子供や年寄りを避難させておくこともできる」


植田光次の言葉に百地丹波がさらに付け足す。


「とりあえず来年九月の織田軍襲来に備えつつ避難する場所を確保していくのが先決だが、鬼導丸(きどうまる)のこともある。カヤト、思い当たることはないか?」


植田光次がオレに訊く。オレはしばし考えてから口を開いた。


「丸山城にて異形の鬼と遭遇した際に鬼導丸(きどうまる)は確かに震えてました。あの後、丸山城の周りを歩き回ったのですが鬼導丸(きどうまる)はまったく反応しませんでした。鬼導丸(きどうまる)は鬼と関係あるのでしょうか?」


オレがそう言うと植田光次は反論する。


「我が家の伝承によれば鬼導丸(きどうまる)は鬼を導くといい伊賀の山奥の祠に封印したということだ。鬼導丸(きどうまる)がその鬼たちを呼び寄せたと考えるのが妥当だな」


「山奥の祠に封印?」


オレは植田光次の言葉に思わず声を荒げてしまった。


「そうだ。山奥の祠に封印したと聞いている」


「ここは山奥の祠でもないですし、某が鬼導丸(きどうまる)を手にしたのはここ平楽寺の下では……」


「では、その奈落の底がここ平楽寺にあると?」


オレの言葉に百地丹波が首を傾げる。その言葉にオレは口をつぐんでしまった。


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