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鬼導丸  作者: 杉山薫
第一部 天正伊賀の乱
3/45

 どのくらいの時間が経過したのだろうか。オレはボロボロになった平楽寺の境内に仰向けになって倒れていた。不思議だ。ボロボロになっているものの平楽寺の境内には瓦礫もなければ死体もない。あれだけの籠城戦をしたのにもかかわらず、ボロボロになっただけの平楽寺。オレの手には奈落の底で手にした妖刀がある。あの時に頭の中に流入してきた記憶、誰かの記憶なのだろう。曖昧な記憶で頼りないのであるが、この妖刀の名は鬼導丸(きどうまる)といい京の都の寺に戻さなければ国を災厄が襲うというのだが、肝心の寺の名がわからない。


とにかく織田軍の侵攻は終わり、おそらく伊賀衆は負けたのだろう。織田軍が終戦の後片付けをして綺麗にしていった。ただ、それだけだ。オレは平楽寺の門に向かって歩いていく。



 オレが平楽寺の前までくると見知った顔の女がこちらに向かって歩いてくる。くノ一の雪乃だ。あの戦いの中でよく生き残ったものだ。


「カヤト、何やってんの? 百地様が捜してたよ。これからここで郷士の会合をするから集合だって」


雪乃がそう言うのでオレは訊く。


「織田軍は?」


「どうやら下山が織田に寝返ったらしいよ。その対応の話をこれからするんじゃないかな」


「下山が寝返ったっていつの話をしてんだよ。夢でもみたのか?」


「カヤトこそ寝ぼけてるんじゃないの。百地様に怒られるよ」


オレは手を横に振りふたたび境内に戻っていった。


オレは夢でも見ていたのだろうか?



 オレは郷士たちを迎えるために本堂に入る。やはりオレは夢でも見ていたのだろうか。滝川一益の刀に弾かれて飛んでいったはずのオレの忍び刀がなぜか本堂にある。しかもしっかり鞘に収められている。オレは忍び刀を手にとり凝視する。いや、夢ではない。忍び刀には一益との死闘の痕跡が確かにある。


「なに自分の刀をジッと見てんだよ」


オレが振り向くと下忍仲間の佐平がいた。オレはフッと笑い刀を懐に入れる。


「てっきり新しい刀でも貰うのかと思ったんだがね。そうでもないのか」


佐平が新しい刀を貰うというのは中忍に昇格して新しい刀を貰うという意味をもつ。


ん?


雪乃も佐平もオレの腰のものについて言及していない。


「佐平、オレは刀を持っているか?」


「おいおいおい、なんだなんだ。トンチか? 今、懐に入れたろう」


オレは鬼導丸(きどうまる)を腰から外し右手に持つ。


「オレは今、右手に刀を持っているが、お主には見えぬか?」


佐平はオレの右手を凝視して、鬼導丸(きどうまる)に触れようとする。


触れようとした佐平の手が空をきる。


「おい、なんだ。そのトンチの答えはなんだよ」


佐平が笑い飛ばす。


鬼導丸きどうまるはこの世に存在しない妖刀ってことか?


 オレは鬼導丸(きどうまる)を腰に戻す。


「だから、トンチの答え教えろよ」


佐平はオレに追求する。


「バカには見えんらしい」


オレはそう言って境内に戻っていった。後方では佐平の怒鳴り声がしている。



 やがて、百地丹波たち郷士衆が平楽寺に集結してきた。下山の寝返りについて郷士十一人での会合を行っている。こんなもん攻めるしかねえだろと思いつつもオレは下忍ゆえ境内で郷士たちの結論を待つ。郷士たちの結論は予想通りのもので滝川雄利率いる織田軍を奇襲するというものだった。



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