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シグルスの章:狭間を生きる騎士・3

 美しき森の民、エルフ。

 彼らはその永い一生を生まれた森の中で過ごすのがほとんどだが、ごく稀に外に出ていく者もいる。

 そして人間と出逢い、時には種族を超えた恋に落ちる……そんなことが起きれば、待っているのは悲劇だという。

 それは二人の寿命差から来る、エルフからすればあまりにも早い別離だとも、どういうわけか二人揃って早逝してしまうからだとも……


 そんな二人の子供であり人間ともエルフとも違うハーフエルフは、不吉の象徴とされている。

 エルフのような尖った耳のないハーフエルフの何よりの特徴は、鮮やかな赤い瞳。シグルスは両親の顔を知らないが、彼の瞳もまた、そんな色をしていた。




「ただ、そう生まれただけなのにな……」


 子供を家に送り届けたシグルスの足取りは、とぼとぼと重たくなっていた。

 あの子はまだ何も知らず、無邪気に尋ねてきただけ。けれども、シグルスへの尊敬に輝いていた目は、ハーフエルフのことを知ったらどう変わるだろうか。


(けど、そんな俺でも態度を変えず接してくれる奴もいる……陛下だって)


 隊長のブルックだけじゃない。ディフェットの王はシグルスの生まれを知りながら、一人の騎士として彼を信頼し傍に置いている。

 剣術大会で揶揄されたようにハーフエルフは半端者。一般的に人間より腕力や体力で劣るのだが、シグルスは王の役に立つべく誰よりも努力を重ね、それを跳ね除けた。


 思考を巡らせながら数歩歩いたところで、ふいにぴたりとシグルスが立ち止まる。


「……あの怪しい男は何者だったんだ?」


 祭の後で屋台や飾りも片付け始めている街中に、道化師の姿はなかった。

 子供に魔物をけしかけておいて、呑気にうろついているとは思えないが、それならどこに消えたのだろうか。


(嫌な予感がする……)


 シグルスの足は城へと向かっていた。

 鉄壁のディフェット内部に易々と魔物を潜り込ませる術を持ちながら、子供ひとり怖がらせただけで終わるとは思えない。


「お、シグルス。どうしたんだよ、怖い顔して?」


 と、曲がり角から歩いてきたブルックとばったり出くわす。

 剣術大会では厳つい鎧姿だった彼は、今は町中でも動きやすく目立たないよう軽装に黒いフード付きのマントを身に着けている。


「これから飲みにでも行くか? なんなら今日は奢って……」

「すまない、また今度にしてくれ!」


 誘いを食い気味に断ったかと思えば足早に城を目指していく部下に、ブルックはきょとんとしながら行場のない手を泳がせた。


「なんだあいつ? 今日は城の見張り当番じゃないだろ……?」


 不思議そうに首を傾げる上司を振り返ることなく、シグルスは夜の王城に足を踏み入れた。

 白を基調にした荘厳な内装。靴越しに伝わるカーペットの感触は慣れ親しんだものだが、城内の空気がおかしいことに気づく。


「誰も……いない?」


 常に交代で守りについているはずの騎士も、メイドも、影や足音ひとつすら。人の気配がどこにもないそこで、思ったよりも響く独り言。

 そんな中で、町で感じた違和感、気配……それだけを濃く感じる。


(あの妙な気配が、王の間に……!?)


 これはおかしい。王は無事だろうか。シグルスの歩調が早くなる。


「ぐおぉっ……!」

「!」


 唯一届いた声は、王の悲鳴。

 階段を駆け上がり、王の間へすぐさま駆けつけたシグルスが見たものは……


「お、俺……?」


 血塗れの剣を提げ、こちらを振り返るシグルスそっくりの男と、倒れ伏す王の姿。


「うぅ……シグ、ルス……」

「陛下っ! き、貴様は……!」

「おやおや、オウサマのゴゼンで剣を抜くなんてブッソウですヨ、ハーフエルフ君? おナマエはシグルス君といいましたか」


 シグルスもどきは、本来の彼とは似ても似つかないニタリとした笑みを浮かべる。


「思ったより早かったのはエルフの血ゆえか……ホンモノが来てしまったのなら、プランを変えねばなりませんねェ」


 次いで、その姿をディフェットならどこにでもいるような鎧の騎士へと変え、すう、と息を吸い込んだ。


「誰かァー! 王が、王様がシグルスにィー!」

「なっ!?」


 シグルスが斬りかかるより先に、城中に響き渡る芝居がかった男の声。

 瞬間、魔法が解けたみたいに城内の照明が一気に明るくなった。

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