35EX:知識は絵の具・1
『35:戦いのあと』以降の話。
女子トリオで各地のことわざについてのちょっとしたやりとり。
「“竜は硬き鱗のみに非ず”かぁ……ドラゴニカのことわざってなんだかドラゴニカらしいわよねぇ」
宿屋で休憩中、ふと思い出したように。女子部屋でのんびり過ごしていたプリエールはそう呟いた。
「ようするに“やられたら倍にしてやり返すから覚悟しろ”って話でしょ?」
『ざっくり言うとそうなるわね。竜騎士たちは血の気が多……誇り高いのよ』
美しき空の覇者、竜騎士。彼女たちの実態をよく知る水竜のミューは、最初に出かかった言葉を咳払いで誤魔化した。
竜は硬き鱗のみに非ず……鋭い爪、獲物を逃さない翼、暴れ回る長い尾。そんな竜に迂闊に手を出そうものなら、無事でいられると思うなという、ドラゴニカのことわざだ。
「ふふ。でもやたらと好戦的な訳ではありませんから。自分から無闇に仕掛けたりはしませんよ?」
「でも手を出されたら倍返しなのよね……」
ミューの隣で淑やかに笑うドラゴニカの王女エルミナことエイミも、奥底にそんな闘志を秘めていることはもはや周知の事実である。
「プリ姉んトコのことわざって、なんだか本のことばっかみたいなイメージあるよね」
と、話題に入ってきたのはベッドで寝そべる明るい義賊の少女サニー。
プリエールがいた魔法都市マギカルーンは彼女をはじめ魔法学者が多く、プリエール自身もよく新しい本を購入しては合間に読み耽っている。
「まぁ、否定しないわ。たとえば“気になる本を見かけたら運命の導きと思え”とか」
『あ、それちょっとわかるかも。新刊で平積みされてる間に買っておかないとすぐ見かけなくなったりするものね』
「そゆこと。その出会いは一度きりの可能性もあるから訪れた機会を大切にしましょうって意味よ」
おおー、と感嘆の声が揃う。素直な声に興が乗ったのか、プリエールも話を続けた。
「ディフェットには“優れた品性と教養は身軽なドレス”って言葉があるそうよ」
「えーと……そのふたつをちゃんと身につけている人は魅力的に見えるってことでしょうか?」
美しいドレスと、品性や教養溢れる人の振る舞いを想像し、エイミはそう尋ねた。
「正解。鉄壁の城塞都市だけあって守ることや城、騎士にちなんだ言葉が多いんだけど、品格も大事にしてるのよ」
「うぇ、なんかメンドくさそう……」
あからさまに顔をしかめるサニーに、プリエールが静かに首を振る。
「上品さとか小難しいマナーとか、そういうことばかりの話ではないのよ。ちょっとした言い回しや態度に気をつけて、他人を不快にしない振る舞い。それならサニーにも心当たりはあるでしょ?」
「な、なるほど……?」
勉強への苦手意識か、サニーの腰がやや引けている。
彼女を見ていると決して頭が悪いわけではないのだが、どうやら机に向かって勉強するといった行為への拒否反応が強いらしい。
「勉強って思うから身構えちゃうのよ。“知識は絵の具”なのよ?」
「ちしきは、えのぐ……?」
またも登場した耳慣れない言葉に、サニーは首を傾げた。




