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プリエールの章:高嶺の花は変わり者・3

 マギカルーンからやや離れた場所にある、古い地下遺跡。

 構造や装飾、風化具合から千年前のものとされているが、当時の時代のこと含めわかっていないことが多く、調査に手を焼いている。


「発見されてから数十年……どのくらいの規模かもまだわかっていないのよね、この遺跡」

「外観から見るに、中がこんなに狭いとは考えにくい。今回の隠し部屋とやらが見つかればまた変わるだろう」


 プリエールは結局、アルバトロスと一緒にこの遺跡に来ることになった。遺跡の謎に興味がある者同士、都合が良かったからだ。


(アルバならあたしが遺跡に夢中になって何時間もいたって文句は言わないわ。傭兵を雇ったって、ひたすら待たせることになっちゃうものねぇ)


 魔物を退けながらここまでせっかく来たのだから、心ゆくまで調べたい。

 そんなプリエールの輝く目やうきうきと上がる口角を横目に、考えていることが手に取るようだとアルバトロスは溜息を吐いた。


「しかし、便利なものを作ったな」

「この腕輪でしょ? 試運転にはちょうど良かったわ」


 酒場で見せた腕輪を使ってプリエールが前衛に出て、アルバトロスが呪文を唱える時間稼ぎをしたおかげで、遺跡まで難なく辿り着くことができた。

 平和になった世の中だが、魔物が完全にいなくなった訳ではない。基本的に非力で魔法の使用に時間を要する魔法使いには、このくらいの装備があった方が良いだろう。


「今度貴方にも作ってあげる」

「……それはありがたいな」


 彼女の腕輪が実用化されれば、魔法使いたちにとって大きな力になるはずだ。

 けれども言葉とは裏腹に、アルバトロスはプリエールから一瞬顔をそらし、目を伏せる。


「アルバ……?」

「見てくれ、エル。こいつが例の仕掛けらしい」


 アルバトロスが指し示す先は通路の突き当たりだったが、どうやら最近崩れたものらしい。その奥に扉と、台座に置かれた水晶のような球体があった。


「周りにヒントらしきモノはなし……このオーブが鍵かしら?」


 プリエールが無遠慮にぺたぺたと珠に触れるも、何の反応もなく。


「もう少し慎重になったらどうだ。未知の遺跡だぞ」

「あら。大丈夫よ。貴方も触れてみたら?」


 やれやれ、とアルバトロスも手を置いてみる。すると……


「……え?」


 ドォン、と重たい音を立て、開かずの扉が開いた。


「なっ何これ、なんで? アルバ、何かした?」

「い、いや、何もしていない……はずだが」


 扉の向こうは真っ暗闇。ごくり、とふたりが息を呑む。

 アルバトロスがおそるおそる足を踏み入れると、狭い通路の両側についた灯りが彼の周りを照らす。

 一歩、また一歩と進めば順番に点る灯は、まるで招き入れるかのようで。


「なんだか、不気味ね……」

「同感だ。だが……ここで引き下がれんだろう?」

「ええ。行くわよ!」


 突然開いた扉も気味の悪い仕掛けも、好奇心の塊である変わり者たちの足を止める理由にはならなかった。


(仕掛けはアルバに反応してるみたいだったけど……あたしと何が違うのかしら?)


 狭いからか長く閉ざされていた場所だからか、魔物が出ない通路をそれぞれ考え込みながら注意深く進む。

 やがて小部屋に出たふたりは、その中央にある台座と一冊の古びた本を見つけた。


「見たことのない本ね……魔法書かしら? なんだか嫌な気配がする……」

「この魔力、普通の魔法書ではない……まさか“禁断の書”では……?」


 緊迫した顔を互いに見合わせ、息を呑むふたり。


「千年前、人魔封断の大戦で人類を脅かした勢力のひとつ……同じ人間でありながら我欲に溺れ、禁じられた術に手を染め、人間界を支配しようとした魔法使いがいた」

「“禁呪の魔法士”……その禁術は無数の隕石を降らせる魔法とも、人の命を一瞬で奪うとも……永遠の命を得られる術とも言われているわ。あの本が“禁断の書”なら……彼が編み出し、遺した禁術が記されているの?」


 もし、そんなものが世に出れば、その魔法使いと同様に欲や野心を暴走させてしまう者が現れるかもしれない。

 千年前の再来……今となっては遠く話に伝え聞くだけだが、多くの血と涙が流れたというそれだけは、避けなければならないのは確かだ。


 張り詰めた空気の中、ぼう、と本が光り、ゆっくりと浮き上がった。

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