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第7話 潜伏

 僕は、使い魔のネズミを使い、周りの部屋の様子を順番に探っていくことにした。

 今度、使い魔にしたネズミは、最初に使い魔にしたドブネズミよりも小さいので、扉の下の隙間から何とか部屋の中に侵入させることができる。


「まずっ」

「大丈夫かい?」

「魔物がいる部屋でした。使い魔を退かせます」


 部屋によっては、魔物が数匹ほど居るところもあり、そうした部屋にはネズミの頭を少し突っ込ませただけで慌てて退散させた。


「あれ、ここは良さそう」


 たくさんのガラクタが置かれた部屋で、空気が淀み、床にはうっすらと埃がつもっている。

 しばらく使われていない部屋らしい。


「良さそうな部屋を見つけました。長い間、使われていないみたいです。たくさんのガラクタが置かれています。いったん、移動して潜みましょう!」

「いいぞ、さっそく出発しよう。背負うからこっちへ来てもらえるかい」


 僕は椅子から立ちあがり、巨人へ近づいて少し遠慮しながらおぶさった。


「しっかりとつかまっていてくれ」

「はい。

 ん、ベルトから下がっているのは剣ですか?」

「そうさ、倉庫の中から見つけてきたんだ。

 本当はロングソードの方が使い慣れていてよかったんだが、ブロードソードでもあってよかったよ」

「ロングソードはいいですね。僕のメイン武器もロングソードなんですよ」

「ハハ、ここを出られたら手合わせしてみようか。

 さぁ、立ちあがるよ。少し忍び足の練習をしてから部屋を出る」


 巨人は僕の太ももの下に手を回して支えて、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、部屋を二、三往復ほど足音を忍ばせて早歩きをしたり、ゆっくり歩いたり、立ち止まったりして動きを確認した。

 意外なほど足音がしなくて、器用だ。

 巨人だから、もっと重厚な足音がドスドスとするのかと思っていた。

 僕は、彼が歩く練習をする間に、使い魔のネズミをこの部屋の近くへ戻して辺りの偵察をさせることにした。


「今なら大丈夫です。使い魔に確認させました。近くに魔物はいません」

「了解。ありがとう、さぁ行こう」


 ガチャリ

 牢屋の部屋の扉を開いて、僕たちは外へ出た。

 使い魔のネズミで確認した通り、通路に魔物はいない。

 僕は、使い魔をどんどん先行させて、先の通路の様子を確認していく。


「ここを右です。次は左です」

「了解」


 僕は巨人へ顔を近づけて声を潜めて耳打ちして、道順を案内した。

 僕がこれまで苦労してたどってきた道を、巨人に背負われてスムースに素早く移動していく。


(あ、あれは僕がリザードマンから隠れるために潜んだ穴じゃないか!

 あんなに苦労したのに、あっという間だ)


 高い場所からキョロキョロと見回しているうちに、僕はだんだん楽しい気分になってきた。

 思わず声を出して笑いたくなってくる。

 まるで、子供のころに鬼ごっこでうまく隠れているときに笑いたくなる気分と同じだ。


(でも、背負ってもらって嬉しくなってはしゃぐのはまずいよね)


「フフフ」


 しかし、なんと巨人のおかし気に笑う小さな声が聞こえてきた。

 たぶん、僕が内心ではしゃいでいることを察したのだ。


「ムっ……、そんなことより、次は右ですよ!」


 ちょっと恥ずかしくなった僕は、照れ隠しに巨人の肩をあごで小突いてから、彼に耳打ちした。

 牢屋の部屋を出てから数分間もしないうちに、目的の部屋の前までたどり着いた。

 できるだけ音がしないように扉を開けて忍び込むと、そこは使い魔で偵察したとおり空気が淀んだ部屋で、部屋の奥の方には積み上げられたガラクタらしきものがぼんやりと見えた。

 僕たちは、石材のようなものに並んで腰を掛けて一息ついた。


「ふぅ、作戦通り、無事来れましたね」

「ああ、お手柄だよ。よくやった」


 巨人は、またしても僕の頭を軽く撫でた。

 僕は照れくさくなって思わず、両手を頭に当てて、巨人の方をみたけれど、巨人は何も言わなかった。

 恥ずかしいから、あんまり頭を撫でないで欲しい。


「さっきと同じように今度は出口を探します。しばらく時間をください」

「うん、よろしく頼むよ、頼りにしている」

「任せてください、上官殿」


 僕はおどけて額のあたりに手をかざして小さく敬礼した。

 巨人は、そんな僕をみて小さく笑った。

 騎士の救助任務の仕事はこんな感じになるのだろうか?


(もし、上官がこんな人ならいいなぁ)


 僕は巨人の方を見上げながら、ここから出た後の仕事のことを考えた。

 ともあれ、この迷宮から無事脱出してからの話だ。

 僕は、再び使い魔のネズミを操作して、今度は出口を探し始めた。


「ん、このあたりは魔物が多いですね」

「そうか、何かあるのかもしれない。周囲を探ってくれ、慎重にね」

「はい、通路の端に沿って移動させます

 あ、先の方に明かりが見えます」

「確認できるかい?」

「見つけました、出口です。幅の広い通路の先から明かりが差し込んできています。

 でも、まわりに魔物の数が多すぎます」

「そうか、それは不味いな。魔物どもが寝静まるのを待つか?だが、この迷宮はヒカリゴケで常に明るくて、いつ寝静まるかわからないな……」


 巨人は少し考え込むような声で答えた。

 せっかく出口を見つけたものの、魔物の出入りが多すぎて、近づくのは難しそうだ。

 もし、一匹でも魔物に気付かれてしまえば、あとは仲間を呼ばれて、僕らは袋叩きにされてしまうだろう。

 それに、相手の数が少なくても僕を背負った巨人では、魔物を振りきれないだろう。

 外へ出れたとしても、そこからも魔物の追撃があるかもしれない。


「すまないが、もう少し周囲を探ってみてくれ」

「はい。

 …………

 …………

 あ、この部屋はいいかも」

「どんな部屋だい?」

「出口の近くに、二つの扉のある部屋があります。一方の扉は出口側を向いています。で、もう一方の扉は、出口とは別の通路側に向いていて、その通路にはあまり魔物がいないみたいです」

「なるほど、魔物のいない方の通路の扉から部屋へ入って、出口側の扉から見張って、近くの魔物どもがいなくなったタイミングで脱出しようというわけだね?」

「その通りです。でも、その部屋は今いるこの部屋ほどは安全ではないかも……」

「多少のリスクは仕方がないだろうね。他に良さそうな手も思いつかないし。その作戦でいこう」

「はい!」


 僕は再び巨人に背負ってもらって、通路へ出た。

 何度か魔物に出くわしそうになったが、使い魔の偵察で早めに察知したこともあり、無事に出口近くの部屋の前までやってきた。

 巨人が慎重に扉を開ける。


「敵はいないようだ」

「ええ」


 この部屋は資材の備蓄倉庫だろうか、木箱やタルらしきものがいくつも置かれている。

 いざとなれば、それらの物陰にかくれられそうだ。

 僕らは出口に近い扉までいき壁を背にして二人で並んで座った。

 あとは、出口の近くの魔物がいなくなるのを待つだけだ!

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

今後とも、よろしくお願いいたします。

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