第3話 部屋の外は?(挿絵付き)
とにかく、部屋の外の様子を確認しよう!
万が一にも、ここが魔物の巣窟であるならば万難を排してでも逃げ出さねばならない。
ところが、僕の足はすっかり萎えてしまっているので素早く動けそうにない。
部屋の外に出て、敵に遭遇するかもしれないことを考えると、危険すぎる。
少しだけ扉を開けて、そこから外をのぞくぐらいしかできないかもしれない。
(何か良い魔法はないであろうか?)
しばらく考えるうちに、ファミリアーの魔法があることを思い出した。
これはネズミなどの小動物を使い魔とする魔法である。
確か、使い魔と視界を共有できたはずだ。
「ファミリアー!」
僕は頭に思い浮かぶ呪文を詠唱してファミリアーの魔法を発動した。
すると使い魔にできる小動物の候補が頭の中に浮かび上がり、部屋の中にネズミがいることがわかった。
このネズミに意識を集中すると、僕の支配下に置くことができた。
「ひゃあ!」
ネズミを操作して僕の目の前に連れてきて、僕はびっくりして声を上げてしまった。
そのネズミは、ずいぶんと大きな奴だった。
ドブネズミというやつだろうか?
尻尾を除いた体長が、僕の足の大きさほどもある大物だ。
こんなでかい奴と同じ部屋にいたのか……。
よくも寝ていた僕をかじらなかったものだと、僕はちょっと怯えてしまった。
ともあれ、今となってはこのドブネズミ野郎は僕の支配下にある使い魔だ!
視界を共有させて、僕の方を見上げさせてみた。
今の僕自身の目の調子よりは多少はましであるものの、このドブネズミの目の性能は低いようで緑がかったぼやけた視界しか得られなかった。
そのドブネズミの中の僕は薄青い着物から細い白い手足を突き出した人間らしきもので、僕が右手を振ると、ドブネズミの視界の中の人物も右手を振った。
僕は、自分の体の状態をしっかり確認したかったが、あいにくなんだか人間らしきものが見えただけだった。
とにかくドブネズミを動かすことと視界を共有させることが確認できたので、こいつを部屋の外へ出して偵察にいかせることにした。
どでかいドブネズミを部屋から追い出すこともできるし一石二鳥である。
実に嬉しい。
善は急がねばならない。
僕は萎えた足に鞭打って、急いで壁伝いに扉の所までいき、少し開けた隙間からドブネズミを外に出してやった。
「ふぅー、せいせいしたー!」
一仕事終えた気分で、僕はドブネズミの操作に集中するために、びょんと跳ねるつもりでベッドの端に腰かけた。
ドブネズミから送られてきた視界は土がむき出しの地面と、ところどころにおかれた石畳らしきものをとらえていた。
壁は石組みのようである。
「まるでダンジョン……いや、砦の中の可能性もあるか……」
僕はまた独り言を言った。
ここが、人間のいる砦である可能性も残っている。
ドブネズミを壁沿いに動かして先に進めさせることにする。
何度か十字路やT字路を曲がって先に進んでいくと、前方に大きな茶色の二足歩行のものがいることに気付いた。
そいつは僕の視界の正面で立ち止まっている。
しかし、次の瞬間にはそいつが僕の、いやドブネズミのほうに向かって急に走って近づいてきた。
最初は二足歩行であったものが四足歩行に変わり、視界一杯に赤い大きな口を開けて急速に迫ってくる!
「うわぁ、リザードマン!」
僕は驚いて声を上げた。
すると僕の支配が緩んだせいか、それともドブネズミが恐怖のあまり僕の支配を弾いたのか、ドブネズミが僕の支配下から外れてしまった。
気付くと僕は両腕を前のほうに交差して突き出して、顔を背けたような姿勢になっていた。
僕は落ち着こうとして、魔法で少量の水で出して、片手を濡らして顔をこすってみた。
「あのネズミ……、どうなったんだろう……。」
僕はうつむいて、腰を掛けたベッドからぶら下げた足を振りながら呟いた。
大きなドブネズミはほんの少しだけ嫌だったのだが、どうなったかは気になった。
もし僕が外へ偵察に行っていたら同じ目にあったかもしれない。
危ないところだった。
とにかく、ここは病院ではないし、魔物がうろうろしていることがわかった。
もちろん、この部屋にいても安全ではないし、うかうかしているとどんな目にあわされるかわからない。
すぐに逃げ出さなくてはならない。
僕はもう一度ファミリアーの魔法を使って、今度は部屋のすぐ外にいた小さなネズミを支配下に置くことができた。
小さなネズミだと、僕も安心である。
別に特に大きなネズミが怖いわけではない。
なんといっても小さなネズミだと、見つかりにくいという利点があるからだ。
僕が立てた作戦はこうだ。
まず、このネズミを偵察役として僕の先に行かせて安全を確認する。
その後を僕が進むというわけだ。
その前にこの部屋から持ち出せるものはないだろうかと見渡した。
ベッドのシーツは盾替わりに使えるかもしれない。
ベッドからシーツをはがして、ぐるぐると左腕に巻き付けてみた。
ただの質の悪い布だだけど、何もないよりはましだろう。
あと、シーツを外すときに鉛筆らしきものがあることに気付いた。
このベッドの近くで、誰かが書き物をしたのだろうか?
右手に鉛筆を逆手に持って、ナイフ替わりにすることにした。
鉛筆のほうは先端が尖っているので武器の替わりになるかもしれない。
ネズミは、先に部屋の外に出して、周りの安全を確認して終わっている。
僕は、壁伝いに扉の所まで行き、部屋の外へ歩みだした。
この小説を読んでいただき、ありがとうございます。