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第2話 見知らぬ部屋

『……牢に囚われていた姫君をやさしく抱き上げて、王様のもとに凱旋するんだ。そして結婚して末永く仲良く暮らすのさ……』


 以前の会話が頭の中で何度も繰り返し響いている。


 長い夢を見ていたような気がする……


 目を覚ますと、灰色の天井が見えた。

 知らない部屋だ。

 きょろきょろと目だけを左右に動かして辺りを見ると、ここは五メートル四方ほどの天井も壁も灰色の部屋で、僕はその部屋の壁際に置かれたベッドの上に仰向けに寝かされている。

 窓一つない妙に正方形じみた部屋、なんとおかしな部屋だろう。


「ここは……どこなんだろう?」


 独り言を言ってみると、ずいぶん長い間しゃべっていなかったように喉が張り付いたような感じがして、少し甲高いかすれた声が出た。

 なにか手がかりがないかと顔だけを動かしてみたが、目の具合がひどく悪くなっており、細かな物の形状は見分けられなくなっている。


 耳元の何かから、ブーンという音が聞こえてくる。

 上半身を起こすと、頭のあたりから紐のようなものが、目の前にぶら下がってきた。

 その紐はノリのようなもので額に貼り付けられているらしく、手で引っ張るとあっさりと剝がれ落ちた。


 手でたどると、その紐は枕元にある金属製の機械の箱のようなものにつながっている。

 先ほどのブーンという音も、その箱からしていたらしい。


 僕は、とても喉が渇いていたので、少し呟いてから、合わせた両手に水を出して飲んだ。

 その後、濡れた両手で顔全体をなでまわしてから、ふぅとため息をついた。

 どうにも手が痺れたような感じで、まるで厚い手袋越しに顔を触ったような感じがする。


「あのあと、どうなったんだろう?」


 確か、ゴブリンライダーと戦っている最中に気を失ったところまでは覚えている。

 僕がまだ生きているところをみると、倒されたすぐ後に巡回中の治安部隊がやってきて助けてくれたのだろか?

 もしそうならば、ここは病院なのだろうか。


 おとなしく待っていればじきに医者や看護師がやってきて僕の容態を説明してくれるかもしれない。

 しかし、ここが魔物の巣窟であるなら連中が戻ってこないうちに逃げ出さなくては殺されてしまう。


「うー、わからない」


 僕は、だんだん不安になってきた。

 ベッドを降りようとして裸足であることに気付いた。

 しかも、服も着替えさせられていて、今着ているのは薄い布地の薄青色のひざ辺りまでの長さのローブのような代物である。

 まるで病院着だ。


 はっきりとは見えないが、足元の床には履物がおかれていないようである。

 仕方がないから、裸足のまま床の上に立ちあがろうとした。

 しかし、足が萎えてしまったように力が入らず、僕はすぐにベッドの上に腰を落としてしまった。


「はぁ、はぁ」


 たったこれだけのことで息があがっている。

 手でふくらはぎや太ももを触ると、相変わらず厚い手袋越しに触っている感覚だが、以前よりも筋肉が落ちてずいぶんと細くなっているようだ。

 あわてて片手でもう一方の腕を握ってみると、同じくずいぶんと細くなっているように感じる。

 これほど手足がやせ細るとは、あの戦いのあと長い間、自分は意識不明の重体だったのだろうか?


「どれだけ時間が経ったのだろう?

 これでは逃げ出すことは、とてもおぼつかないかもしれない……」


 呟いてみると、やはりかすれた甲高い声が出た。

 あるいは耳の聞こえも少しおかしいのかもしれない。


 そこまで考えたところでおかしなことに気付いた。

 先ほど僕は、あわせた両手の上に出した水を飲んだのだが、その水は一体どこから出てきたのか?

 まるで空気中から湧いてきたようではないか?


「僕はさっき何を呟いた……、魔法……魔法か!」


 思い浮かんだ言葉に衝撃を受けた僕は思わず声を出した。

 そのように気付いてみると僕の使える魔法が頭のなかにいくつも浮かび上がる。

 おおよそ初級程度の魔法を一通りを使えるようだ。


 僕の最後の記憶はゴブリンライダーと戦っている最中に昏倒したところまでなのだが、その時点まで僕はまったく魔法を使えなかったはずだ。


 あの戦いの後、魔法の勉強をして身に着けたものの、何らかの事件があって記憶喪失になったのか?

 一生懸命に思い出そうとしたけれど、最後の記憶はゴブリンライダーとの戦いの記憶だし、魔法の修行をしたことなどつゆほども思い出すことができなかった。

 それどころか、ゴブリンライダーとの戦いの記憶もまるで他人の日記を読んだかのように感じる有様である。

 僕は考えをスッキリさせようとして、頭を左右に振ってみた。


「とにかく魔法を使えるようになっているのはついてる。

 なんとか魔法を頼りにして周りを確認しよう!」


 体の自由が利かない不安を打ち消すために、僕はあえて声に出してそう言ってみた。

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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