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第17話 二人の日常(挿絵付き)

挿絵(By みてみん)


「もう満足したでしょ。降ろすわよ。あなたは重いのー!」


 僕は、肩の上に乗っていた猫の頭をすこし撫でた後、その両脇を持って床に降ろした。

 僕が本を読んでいる間、ずっと猫が肩の上に乗っていたのだ。


 この子は四年ほど前に、旦那が実家からもらってきた雌猫で、家に来たばかりの子猫のころは肩に乗られても軽いので全然平気だったけれど、最近はずいぶんと重くなってきたので、僕の細い肩では大変だ。


(猫、太りすぎね、餌を食べさせすぎただろうか?

 ちょっと減らそうかしら、ご機嫌斜めになっちゃうかな?)


 猫はしばらくの間、じっと僕の目の方を見ていたけれど、フイと目を逸らして、新聞を読んでいる旦那の方へ行ってしまった。そして、今度はそのまま旦那の背中を上り、彼の肩の上に収まった。


(僕の肩には重すぎるし、猫が旦那の方へ行っても仕方がないかな)


 旦那は気にせずにそのまま新聞を読みながら、片手で猫の頭から背中にかけてを撫でてあげている。


(あれれ?)


 猫が顎をあげて、僕の方を見下ろしている気がする……

 表情を読みにくいけれど、こころなしか、フフンといった表情をしているような気が。


(ムゥ!そこは僕の居場所なのに!やっぱりダメ)


 僕は、旦那の肩から猫を降ろそうと思って、読みかけの本を広げて置いて、一歩ふみだそうとした。


「ママー、抱っこー」


 そのとき、下から話しかけることが聞こえてきた。

 僕の愛娘がお昼寝から起きてきたのだ。

 僕を見上げて両手をばんざいしている。

 先日、三歳の誕生日を迎えたばかりの、甘えんぼさんだ。


「目が覚めちゃったのー?おいでー」


 僕は、猫のことは後回しにすることにして、子供を抱き上げて頬ずりをした。

 子供の温かいすべすべとした感じが本当にいとおしい。

 この子は、僕と旦那、レン・カーティス夫妻の初めての子供だ。


 子供を抱き上げてあやしながら、ふと気づくと猫は旦那の肩を降りてベッドの方に歩き始めている。

 猫は、いったん立ち止まって僕の方を振り返ってじっと見た後、何かに飽きたようにあくびをし、ベッドの上に登って丸まって眠り始めた。

 いつもは人の肩の上に乗っかると、一時間ぐらいはずっと留まるのにどうしたんだろう。


「………………………………?

  ………………………………!!」


 まさか、旦那の肩に乗ったのはわざと?

 僕が重いとか言いながら、降ろしたせい……、猫にからかわれた?!


(このぉ、誰が毎日あなたのトイレの砂を替えて、お皿に餌を盛ってあげてると思っているの。

 やっぱり餌を減らそう!)


「ママー、今日は午後から公園にいくんだっけ?」

「え、ああ、そうよ。パパも準備をしてねー」


 僕が猫の餌を減らそうと心の中で決めていると、旦那が新聞をたたみながら話しかけてきた。


(そうだった、そうだった。午後から家族で公園にいくんだった。午前中のうちに軽食の準備をしておかなくちゃ。)


 僕は抱き上げた娘に、「いっしょにサンドイッチを作ろうねー」と話しかけながら、おでかけの準備を始めた。


 あの迷宮を脱出してからの話を少ししよう。

 しばらくは新聞や週刊誌が、僕たちの脱出劇を「新人騎士大活躍 連続拉致殺人犯の迷宮から記憶不明の少女を決死の救出」などと報じ、ずいぶんと注目されたのだが、今となってはいい思い出だ。

 しばらくすると、そうした騒ぎもすっかり収まって今は静かなものである。


 僕たちは迷宮を出てすぐに婚約をした。そして婚約から三年の同棲期間を経て、結婚したのだ。今は結婚四年目で、僕と旦那と子供と猫とで騎士の官舎住まい。


 友達からは旦那も妻もレン・カーティスというややこしい一家だとからかわれたりもするけれど、近所でも評判のおしどり夫婦だ。


 こんな風に生活できるなんて、迷宮の中の灰色の部屋で目覚めたときには思いもよらなかった。

 旦那が捕まっていた部屋の扉を開けたのは本当に幸運だったとおもう。


 遠い昔に、街道で行商人の娘に話した、勇者と姫が結婚し末永く幸せに暮らすという夢は現在進行形だ。

 結局、僕の役割はお姫様だったんだけど、今となってはそれで本当に良かったと思う。


(公園には猫もつれていこうかな。家族そろってのお出かけだ。今日は天気もいいし、午後が楽しみだ)


 おしまい

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。


【登場人物設定】

【レン】

 人工授精した人間の受精卵を培養槽で急速育成することにより誕生したデザイナーズチャイルド。運動能力を向上させるために、受精卵の段階で遺伝子操作をされている。


 培養槽から引き揚げられた直後に、脳にレン・カーティス少尉の記憶と別口から調達してきた魔法のスキルを書込まれた。


 作中で、主人公が目覚めて動き始めたのは、脳への記憶書込み後の神経ネットワーク形成のために設けていた養生時間が、錬金術師の予想より短時間で終了したため。


 また、敵が主人公をホムンクルス(人造人間)と呼んでいるが、アンドロイド(人工生命体)ではなく、特殊な生い立ちをもった人間にすぎない。培養槽による急速育成は、十五歳相当まで行われている。


 身長は百五十センチメートル台後半で、少尉より頭一つ分だけ背が低い。

 少尉の記憶を書き込まれているので、記憶の中の自分と今の自分との間で物の感じ方や考え方が異なる点に違和感を持っている。


 主人公が生物的に男であったことは一度もないので、作中で自分の性別が変わったと思ったのは主人公の誤解である。記憶の中の性自認は男なのに、現在は女で、しかも性自認が変化したことを自覚していないというややこしい人。


 なお、クローンではないため、主人公の他に同じ遺伝情報を持つ人物はおらず、エヴァンゲリオンのレイみたいに二人目とか三人目はいない。


【魔族の女錬金術師】

 魔族を用いた受精卵の急速育成や遺伝子操作などの人体実験をおこなったため、魔族の世界の宗教的な禁忌に触れ、魔族の国から追放された錬金術師。


 研究を続けるために、人類圏の人間を捕らえて人体実験を行っている。

 彼女が人体実験に手を染めるきっかけとなったのは、人口減少により魔族が人間から軍事的な圧迫を受けている問題を解決しようと考えたためである。


 半ば発狂しており、狂った正義感と使命感につき動かされているため、残酷なことも平気で実行できる。


【レン・カーティス少尉】

 弱きを救い強きを挫くという、騎士としての使命感に燃えている熱い人。

 年齢は十九歳、身長百八十センチメートル台後半。


 軍大学校を飛び級で卒業するほど、剣術、弓術、体術に長け、学業優秀。出身地では麒麟児と呼ばれていた。

 作中で主人公が少尉を巨人だと思ったのは、主人公が自分の身長を百八十センチメートル後半と思っていたので、少尉のことをそれよりも頭一つ分も大きい、身長が二百二十センチぐらいある人間だと誤解したためである。


 目上や同輩相手の一人称は「僕」だが、庇護対象者相手だと「俺」に変わる。


【三人組】

 高いシーフスキルをもっている。普段はトレジャーハンターとして冒険者活動をしている。モデルは「不思議の海のナディ○」の三人組。


【舞台設定】

【迷宮】

 魔族圏と人類圏の間で戦争が行われていた当時、人類圏側の連合軍の前線基地として作られた大規模な地下壕。人類圏と魔族圏の間の山脈にある銅鉱山の廃坑の一部を改造して建設された。


 戦争終了後に放棄され、忘れさられていたが、魔族の女錬金術師が住み着いて研究所に改造した。広間は、四百名規模の二個中隊を収容することができるサイズである。

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