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第14話 僕の戦い 前半

 あの魔族の女錬金術師の粘りつくような恐ろしい声が聞こえてきた。


「ウフフフフ。

 わざわざ、そちらから戻ってきたのね。

 どこへ行こうというのかしら?」


 まずい、見つかった。

 柱の影に入らなくては!

 僕は急いで柱の方へ向かおうとした。


「悪い子ねぇ。

 ストーンバレット」


 嘲笑うような声がした後、僕の脚を強烈な痛みが襲った。

 小石の弾丸が僕の脚を貫いたのだ。


「ギャッ、ウ、ウゥ……」


 見下ろすと、僕の脚から心臓の脈動にあわせてどんどん血が噴き出している。

 僕は歯を食いしばって、悲鳴をこらえつつ、なんとか転ばずに歩き少尉を柱の影に隠した。

 そして、急いで回復薬を自分の脚に振りかけて、脚の傷を治した。

 二本目の回復薬だ、これで回復薬は尽きた。

 柱の影からのぞくと、廃坑で出会った魔族の錬金術師の女が、たくさんの魔物やホムンクルスを引き連れてこちらへ向かって歩いてくるところだった


「まぁ、恋人を取り返しにくるなんて健気ねぇ。

 でも、装置の出力を倍にして、その男の脳から情報を取り出したわぁ。

 圧力のかけすぎで、脳がぐずぐずになっているかもしれないわねぇ。

 頭を開けて、あなたの脳と並べてみるのが楽しみだこと。

 ホホホホホホ……」


(少尉になんてことを!)


 魔族の言葉に僕は頭に血が上り、目が眩むほどの怒りを覚えた。

 

「嘘だ!

 少尉は必ず目覚める!

 返してもらうぞ。

 お前なんてちっとも怖くないぞ!」


 僕は、服の袖で涙をぬぐいつつ、柱の影からわめき返した。

 僕の実力が魔族より圧倒的に劣ることを考えると、少尉を背負って逃げられそうにない。

 なんとか、魔族に一泡吹かせて退かせるしかない!

 僕は覚悟を決めた。


「少尉、ここで待っていてください。

 奴をなんとかして、すぐに戻ります」


 これで今生の別れとなるかもしれない。

 少尉のひざの上に、彼の丸い楯を置いた後、少尉に頬ずりしてからもう一度口づけをした。


「それじゃあ、行ってまいります」


 僕は少尉に話しかけて頬を撫でてから、顔をあげて右手で腰のホルダーからダガーを引き抜いた。


「エンチャントウェポン……、プロテクション……」


 攻撃力上昇と防御力上昇の呪文で、僕のダガーや防具が魔法の光を帯びる。

 初級呪文とはいえ、僕に切れるカードのうち精一杯のものだ。


「お前の思い通りになると思うな!」


 最悪でも相打ちに持ち込んでやる!

 僕は、魔族に向かって叫びながら柱の影から飛び出した。

 走りながら、エネルギーボルトの呪文を唱えて左手で印を組み、空中に円を描くと、それに沿って四つの小さな光弾が浮かび上がる。


「エネルギー・ボルト!」


 四つの光弾は、横に弧を描くように魔族に向かって飛んでいく。


 パシン、パリパリバリパリ


 すると途中で光弾が弾かれて消滅し、魔族の周囲、半径十五メートルほどを覆うように半球状の光が現れて明滅した。


「やはりバリアーか!」


 前回の戦闘の時と同様に魔法を防ぐためのバリアを展開しているようだ。

 僕は、魔族の目を少尉から引き離すように走りながら、自分の予想が正しいことを確認した。

 奴を倒すためには、近づいて物理的に攻撃するしかない。


「直接、叩いて倒してやる!」


 僕は、魔族にむかってジグザグに駆けて近づこうと試みた。

 すると魔族は、僕を指さすように二度手を振るハンドサインで、周りにいる魔物に僕と戦うように指示をだした。


「リザードマン、ゴブリン、おいきなさい」


 魔族の言葉に呼応して、魔物たちが次つぎと僕に向かって武器を掲げて走り始めた。


「シャー--!」


 魔物の先頭をきって走ってきたリザードマンが、僕に向かって槍を突きこんできた。

 僕はそれを半身を引いてかわしつつ、距離をつめ、その勢いのまま奴の顔に右肘を叩きこんだ。

 さらに、そのままの勢いで左脚で回し蹴りを放ち、周囲の敵を薙ぎ祓う。

 肘を鼻っ面に叩き込まれた、リザードマンは顔を押さえて、周囲の魔物たちを巻き込むようにのたたうち回る。


 奴の取り巻きの魔物どもを倒す必要はない。

 ただ、一時的に戦闘能力をなくさせて、戦意をくじくことができれば十分だ。

 その間に、あの魔族の錬金術師の女に一泡吹かせてやる!


 次にゴブリンが手斧を振りかざして僕を両断しようと迫ってきた。

 僕はその攻撃をダガーで何合かいなし、奴が縦斬りを空振りしたタイミングで鼻っ面に前蹴りを打ち込んだ。

 そして、振り返りざまに呪文を唱えて、エネルギー・ボルトの複数の光弾を生み出し、僕を囲もうとした魔物どもの眉間を射てやる。


「ギャギャギャギャ!!」


 魔物どもは、痛みのあまり顔をおさえてもんどりうって地面を転がりまわった。

 エネルギー・ボルトは低レベルの呪文であり、杖という魔法の焦点具もなしなので、殺傷能力は低いのだが、さすがに顔に光弾が炸裂するとたまらない。

 こいつらも当分、立ちあがれないだろう。

 次だ!


「アハハハハ、素晴らしい、素晴らしい運動能力!

 さすが私が■■■調整したホムンクルスぅ!

 限界値はどこなのかしらぁ?

 さぁ、次のこれはどう?」


 魔族が呪文を唱えると、奴の前にいくつもの火の玉が円を描くように浮かび上がる。

 次の瞬間、それらの火の玉が弧を描くような軌道をとって僕を追い始める。

 僕は火の玉を避けるために必死で走りつつ、僕が走ったあとの場所におとりとして魔法で水玉を浮かび上がらせた。

 火の玉は、次々とそれらのおとりに着弾して破裂した。


「あっ!」


 カラーン、カン、カン、カン


 火の玉を防ぎきれず、僕の右手からダガーが弾き飛ばされてしまった!

 ダガーを拾いに行っている余裕はない。

 僕はマジックバッグの中から杖を取り出した。杖で何とかするしかない。

 次のリザードマンが、僕に向かって走ってきている。奴をいなしつつ、魔族に近づくのは無理だ……


(武器が杖であっても関係あるものか。石にかじりついてでも打ち払ってやる!)

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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