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第12話 迷宮の外と再潜入(挿絵付き)

挿絵(By みてみん)

「う、ここは?

 そうか、魔族にやられて川に落ちたんだ」


 目が覚めると、僕は川岸にいた。

 下半身が水につかったまま、うつぶせで倒れていたのだ。

 まだ、春先なので水がとても冷たい。

 四つん這いになって川から這い上がり辺りを見回すと、木々の隙間から月の光が差し込んできているのに気付いた。


「外だ、僕は迷宮の外にいるんだ……

 やっぱり地下川は出口につながっていたんだ。

 そうだ、少尉、少尉は?」


 元々の目標としていた迷宮を脱出できたけれど、僕のそばに少尉がいない。

 何とか立ちあがり、周囲を探すと川岸に丸い盾が流れついているのに気付いた。


「少尉の盾だ。

 僕と同じように流されてきたんだ。

 少尉のところへ戻らないと」


 僕は少尉の盾を拾って、抱きしめながら上流に向かって歩いて行った。

 すると、山に開いた洞窟から川が流れ出している場所に行き当たった。

 僕はここから流れ出てきたらしい。

 川幅が洞窟の幅いっぱいに広がっているので、歩いて入るスペースがない。


「急ごう、少尉がきっと僕を待っている」


 僕は、洞窟の壁に手をつきながら水の流れに逆らって、奥へ向かって進もうとした。


「す、滑る。うわぁ」


 だが、洞窟の壁はヌルヌルする上に、水は深く、流れが速いので僕は流れに負けて流されてしまった。

 何度も繰り返したが、冷え切った体は全然力が入らず、どうしても洞窟の奥へ進めなかった。


「少し休んだら……」


 とうとう力尽きた僕は、川の近くの大きな木の根元で膝を抱えてうずくまった。

 体力が回復したら、迷宮のもう一つの出口を探そう。

 きっと、森の中のどこかにあるはず。

 出口近くには魔物がたくさんうろついていたけど、運が良ければたぶん入れるだろう。


(寒くてたまらない、魔法の使い過ぎの影響のせいか頭も回らないや)


 僕は、また少尉に背負って歩いて欲しい、話しかけて欲しいと思いながら眠ってしまった。


 ………………………………

 ………………………………

 ………………………………


「姐さん、嬢ちゃんの目が覚めましたぜ」


 目が覚めると、僕は金属製のタル型のストーブの前に寝かされていた。

 少し見回すと、大きなテントの中にいるらしかった。

 テントの中には、僕の様子を見ていた男の人と、それ以外にもう一人の男の人と、女の人がいた。

 この中の、誰かが眠っていた僕を運んでくれたのだろうか?

 掛け布をとって体を起こすと、女の人が温かい飲み物の入ったカップを差し出しながら話しかけてきた。

 姐さんと呼ばれた、少し派手な化粧をした女性だ。


「大丈夫かい?」

「僕を助けてくれたんですか?

 ありがとうございます」


 彼女の声色は心配げだった。

 ちょっときつい眼つきをした人だけど、優しい人柄のようだ。


「あなた、あの迷宮から逃げてきたの?

 私たち、これからあそこに用があるの。

 何があったのか、教えて頂戴」


 僕は迷宮の中であったことを、その女性に話した。

 ただ、魔族の女錬金術師から自分がホムンクルスであると言われたことは伏せておいた。

 自分でも認めたくなかったのだ。

 女性は、リザードマンやゴブリンなどの魔物がいることについてはあまり反応しなかったけれど、魔族がいたことには驚いた様子だった。


「ありがとう。わかったわ。

 私たち、ギルドから依頼を受けてね。今からあそこを爆弾で爆破に行くの。

 街道を襲っている魔物が、あの迷宮から来ていることが分かったのよ。

 国境沿いで軍を動かせないから、ギルドに依頼が来たってわけ」

「えっ、そうなんですか。

 僕も、一緒に連れて行ってください。お願いです!」


 女性の言葉に驚いた僕はすぐに頼み込んだ。

 僕は、少しでも早く少尉のもとに駆け付けたくてたまらなかったのだ。

 彼らは、きっとあの出口の場所を知っているのだろう。

 だけど、女性は僕の言葉に少し困った顔をした。


「ふー、その少尉は生きていない可能性が高いわよ。

 リザードマンは怪力よ。

 あいつらにけさ斬りにされて、頭にも打撃を受けて昏倒したとなると……」

「でも、僕は行きたいんです」


 僕は、これが千載一遇の機会だと思っていたので、既に絶対についていくつもりになっていた。


「あなたを逃がしてくれた少尉の志を無駄にしてはいけないわ。

 このテントには、周囲の光景に同化する迷彩の魔法がかかっているのよ。

 ここは安全よ、ここであたし達の仕事が終わるのを待っていなさい。

 あなたを人類圏に連れ帰ってあげる」

「でも、どうしても少尉に会いたいんです。

 お願いです、連れていってください。

 なんでもします!」

「わたし達には、あの迷宮を破壊する仕事があるの。

 迷宮に入ったら、あなたは一人で行動することになるわよ。

 魔族や魔物に見つかったら、どうなるかわかるでしょ」

「かまいません。僕には魔法があります。

 なんとか、見つからないように工夫します。お願いです。」


 僕は、女性とこんな問答を何度か繰り返し、最終的には僕の同行を認めてもらった。

 三人組は、こうも頑固では仕方がないといった様子で苦笑を浮かべていた。


「はぁー、仕方がないわね。善は急げよ。すぐに出発する。

 お前たち、準備をおし!」

「はい、姐さん」


 僕も、すぐにテントの外へ出ようとしたけれど、男の人に呼び止められた。


「ちょい待ち、嬢ちゃんはこの袋に入ってくれ」

「これは?」

「人が入れるマジックバッグさ。名匠の一品でね。生き物でも入れて、中でもちゃんと息ができる。

 俺たちはシーフ職の忍び足スキルで潜入するから、途中まで嬢ちゃんをこの袋に隠して連れて行ってやろう」


 僕は、生き物が入れられるマジックバッグなんて初めて聞いたのでびっくりしてしまった。

 このマジックバックに入って、本当に息ができるんだろうかと心配になった。

 だけど、連れて行ってもらうためには覚悟を決めるしかない。


 ええい、ままよと袋の中に入ると本当に息をすることができた。

 マジックバッグの中はひどく広く、たくさんの爆弾が浮いていたので僕はすごく驚いた。

 マジックバッグの口から見える外の光景は、少し歪んで見えて、外の音はくもぐっているものの十分聞こえた。


 マジックバッグの中からみていると、三人組はどんどん山を登っていき、やがて迷宮の入口までやってきた。

 彼らは忍び足のスキル、スニーキングを使って、入口から迷宮内へ潜入していく。

 僕は、後で単独行動するときの参考にならないかと三人組の様子を一生懸命に観察した。

 そのスキルは、物影から物影へ、足音を忍ばせて素早く移動するにすぎないものの、すぐそばにいる魔物に気配すらも全く気付かせないという驚くべきものだった。


 やがて、三人組は迷宮内の人けのない部屋に入り、僕をマジックバッグから出してくれた。

 ここで三人組とはお別れだ。

 僕は三人組に礼をいって出発しようとした。


「ちょい待ち、嬢ちゃん!これは姐さんから」

「これは?」

「爆弾さ、何かあったときに、この導火線に火をつけて敵に投げつけてやりな。

 姐さんには俺たちからって言っとけって言われたんだがね。

 あの人はあの見た目なのに、人情噺が大好きでね。嬢ちゃんを心配してるのさ」

「うん」

「で、こっちは俺たち二人から。良く効く回復薬さ。

 一本は嬢ちゃんの少尉を見つけたら使ってやりな。もう一本は嬢ちゃんの命綱用だ。

 うまくやりなよ!」

「うぅ、ありがとうございます!」

「もぅ、何をやっているんだい。早くおし!」

「ヘイ、姐さん」


 見ると女性が少し顔を赤らめてこっちを見ていた。

 たまたま森で拾った僕にこんなに良くしてくれるとは思わなくて、僕は涙ぐみながら深く頭を下げて礼をいった。

 ここまで案内してくれた三人組を見送り、僕は再潜入後の単独行動を開始した。

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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