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第10話 僕は何だ?(挿絵付き)

 『レン・カーティス……』


 そ、それは僕の名前だ……

 そして彼の顔!

 その顔は、僕が鏡で毎日見てきた自分の顔だ!

 僕が二人いる?

 思わず自分の顔や髪を両手でペタペタと触って確認した。


「で、君の名前は?」

「僕の、僕の名前はレンです」

「俺と同じ名前なのか!奇遇だね。姓は何というんだい?」


 僕は答えに窮した。

 自分が何者かわからない、彼は僕の顔と全く同じ顔をしている。

 いや、一体、今の自分の顔はどうなっているんだ?

 なぜ、彼の方が僕より頭一つ分も背が高いのだ?

 まさか僕の方が小さいのか……?

 僕は一体、一体、どうなっているんだ?

 返事をしなくては。

 だが、迷宮に囚われた二人がたまたま姓も名も同じだと、奇異に思われて疑われるかもしれない。


「姓はないんです。ただのレンです」


 姓はないのだと言って、僕は急場をしのぐことにした。

 この国には姓がなく名だけの人々もそれなりにいるので、彼は特に疑問に思わなかったようだ。


「そうか、よろしく、レン嬢」

「レンジョウ?」


 彼は、一体何のことを言っているのだ?

 僕の返事が不審げな響きを帯びた。


「ああ、すまない。特にそういう意図はない。よろしくレン君」

「い、いえ。よろしくおねがいします。ちょ、ちょっと僕は用を足してきます」


 ま、まさか?

 僕は杖にライトの呪文をかけて、支道の物影のほうへ向かった。

 そしてマジックバッグから、曲がり角での確認用の小さな手鏡を取り出して、自分の顔を覗き込んだ。

 そこには、年のころは十五、六歳ぐらいでショートヘアの髪型の、中性的なかわいらしい顔の人物がいた。

 元の僕の顔とは似ていない。

 次におそるおそる自分の股に手を当てる。


「!」


 明らかにない!

 それで、レン嬢と呼んだのか。

 しばらくの間、僕は呆然と立ち尽くした。

 僕のアレはどこに行ってしまったのだろう。


(取り返しがつかないことになってしまった。)


 このような信じがたいことを、一体だれに相談したらいいんだ。

 数分ほどそうやってぼんやりした後、次に自分の胸に手を当ててみた。


「むー、ない?」


 いやあるか?

 あるはずだと思って手を当てれば、あるような気がする。

 今度はなんだか、少しがっかりした。

 アレもなければ、胸もない。なんにもないじゃないか。

 だが、これなら今まで僕が自分の体の変化に気付かなかったのも無理はないと言っていいんじゃないか。

 特に僕の注意力が低いというわけではないはずだ。

 でも、彼は優しいから、これぐらいなら胸はあると言ってくれるのではないか?


(いや、彼って誰のこと?そうじゃないだろう!)


 僕は頭の中で自分に突っ込みを入れた。

 自分で自分がどうしたいのかわからなくなって、なんだか頭が混乱してグルグルしてきた。

 その後、僕は少し足を引きずるようにして彼の元へ戻った


「少し時間がかかったね。なにか問題があったのかい?」

「ないですよ!」


 僕は思わず強い口調で否定する。


「ないならよかった」

「よかぁ、ないですよ!」


 なにせ僕のアレがなくなっているのだ、いいわけがない!

 そのくせ、胸もないのもよろしくない。


「フムン?

 ご機嫌斜めだね。

 レン君、やっぱり何かあったのかい?」


 彼が重ねて聞いてくる。当然の疑問だが何とも答えにくい。


「う……、すみません、カーティス少尉。僕の個人的な話なので気にしないで……」


 僕は個人的なことだといってごまかした。


「あぁ、こちらこそデリカシーに欠けたね。

 ごめんよ、レン君」


 彼は何かを察したような顔をして謝ってきた。

 たぶん、それは誤解だ。

 僕のせいで微妙な雰囲気になってしまった。

 二人で黙って向かい合ったまま、しばらく休憩したのちに、僕たちは出発することにした。


挿絵(By みてみん)


 目の調子がよくなったことを言うタイミングを逸してしまった僕は、相変わらず彼に手を引かれつつ、考え事をしながら歩き続けた。

 次第に周囲の様子が迷宮で見たような石組みの壁へと変わり、その中央にはやがて壁からしみだしてきた水の流れができ初め、進むにしたがって轟轟と流れる地下川へと変わっていった。

 以前よりも強い風が地下川の流れていく先から感じられる。

 その風をうけながら、僕は考え続けた。


『俺の夢は勇者となって竜王を倒し囚われの姫君を救うことだよ…………、牢に囚われていた姫君をやさしく抱き上げて、王様のもとに凱旋するんだ。そして結婚して末永く仲良く暮らすのさ…………』


 これは、僕が魔物に捕まる前に、僕の将来の夢として行商人の子供に語ったことだ。

 ところが僕の役割は、勇者ではなく、お姫様だったというわけだ。

 目の前の男、レン・カーティス少尉は、竜王に囚われた僕を助ける勇者として、僕を背負って魔族からの逃避行を続けてきたのだ。


 ムムっ、すると彼は最初から僕をお姫様と思って、ここまで背負ってきたのか。

 あれは僕の夢でもあるのに、僕も勇者の役をやりたいのに!

 いや、牢屋の鍵を渡して囚われの彼を開放したのは僕なんだから、おあいこかもしれない。

 もし、無事、ここから脱出できたら、彼は僕と末永く幸せに暮らしてくれるのだろうか?

 そこまで考えると、無性に照れくさくなって僕は考えを切り替えることにした。


 しかし、僕という存在は何なんだろう?

 僕にはレン・カーティスとしての記憶しかない。

 魔族の錬金術師が僕に何かをしたのは確実だ。

 一体何をしたのだ?


 魔族に何かをされる以前の僕には別の記憶があったのだろうか?

 その記憶はどんなものだったのだろう?

 幸せな少女としての人生があったのならばいい。

 レン・カーティスとしての記憶しかもたない、灰色の部屋から出てきた少女の形をしたものが、僕だ。

 なんとも奇妙な話だ。

 にわかには信じがたい。


 僕を生み出すのに魔族が関わっている。

 一体、本当に僕は人間なのだろうか?

 なんだか、怖くなってきた。


 ここまで考えたとき、僕は彼にこのことを知られたくないと思った。

 もし、彼がこのことを知ったときに、今のように手をつないでくれたり、背負ってくれたりするだろうか。

 僕を置いて立ち去ってしまうのではないか?


「疲れたのかい?レン君、また背負おうか?」


 彼に話しかけられて、初めて僕は自分が立ち止まっていることに気付いた。

 僕は彼の顔を見られなくて、黙ってうなずいて、おんぶをしてもらうことにした。

 再び、彼は僕を背負って歩き始めた。

 しばらく黙っていたのだけれど、僕はたまらなくなって彼に話し始めた。


「カーティス少尉。これは僕の友達のまた友達の女の子の話なんですけど聞いてもらえますか?」

「なんだい?」

「実はその子には好きな男の子がいたそうなんです。ある日、その子は夢をみたそうです」

「ふむ」

「その夢は、その男の子が過去に経験した全てのことを、男の子の視点で見るものでした。目が覚めた後、その子はなんて奇妙なことだろうと思いました。

 ところが、その後のことです。

 その女の子は、自分自身の過去をどんどん思い出せなくなっていくことに気付きました。

 そしてついには、その女の子が覚えていることは、自分が男の子のことを好きだったことと、その男の子の目線でみた男の子の過去の記憶だけになってしまいました」

「ずいぶんと変わった話だね」

「もし、カーティス少尉がその男の子の立場だったとき、少尉はその女の子と今までと変わらず接してあげますか?」


 僕はうつむいて、祈るような気持ちでカーティス少尉の返事を待った。


「それは、その女の子がそれだけ男の子を想っていたからだろう。

 俺ならそこまで気にしないよ。」


 僕はぱっと顔をあげて、少尉の横顔を見た。

 もし、僕が元々は別の記憶をもった女の子だったことがわかれば、僕にもチャンスがあるのかも。


「じゃ、じゃあ、少尉」


 その言葉を遮るかのように、横合いから僕たちを強烈な光が照らした。

 手をかざして光の方向を見ると、何者かの集団が通路の先の支道から現れた。


「あらぁ、モルモット達、見つけたわぁ」


 通路に女のねっとりとした声が響いた。

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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