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第1話 街道にて(挿絵付き)

挿絵(By みてみん)


Side: レン·カーティス


「僕……いや、俺の夢は勇者となって竜王を倒し囚われの姫君を救うことだよ」


 将来の夢を聞かれたので、少し考えてからそう答えた。


「それから、それからどうするの?」


 小さな女の子が、こちらを見上げて聞いてくる。

 この子は、帰郷のための徒歩での移動中に知り合った行商人の娘だ。


「そうだね、牢に囚われていた姫君をやさしく抱き上げて、王様のもとに凱旋するんだ。

 そして結婚して末永く仲良く暮らすのさ」


 俺は、子供のころに騎士を志すきっかけとなった勇者の冒険の物語を思い出しながら言った。

 まるで子供のようだけど、今だにそんな冒険をしてみたいと思うことがある。

 でも本当のことを言うと、いずれ救出任務をうけることはあるだろうけれど、要救助者をさらうのが悪の竜王となるかどうかは大いに疑問なところだ。


「ふーん、竜王なんてどこにいるんだろう?」

「ひょっとすると、あの山脈の向こうにいるのかもしれないね」


 そう言いながら、見上げた山脈の山頂あたりは黒い雲に覆われている。

 あれは、今歩いている街道の左手側にそびえる山脈で、我々がいる人類圏と魔族が住む魔族圏とを区切る山脈だ。

 なんでも数百年前に人類圏と魔族圏の間で戦争があったとき、あの山が天然の要害となり魔族の侵攻を食い止めたのだという。


 教養として学んだ程度なんだけど、あの山の向こうには緩衝地帯として深い広葉樹林に没した戦場跡地の平野が広がり、さらにその向こうに魔族圏が続いているのだという。


「ところで勇者は魔法を使えるんだよ。

 レン様も魔法を使えるの?」


 女の子に、ちょっと痛いところを突かれて考え込んでしまった。

 騎士学校で剣や弓、体術に特化してスキルを習得したため、魔法は使えないのだ。


 その代わりといってはなんだけど、我ながら剣と弓の腕前はなかなかのもので、優秀な成績で卒業し、騎士として任官されることができた。


挿絵(By みてみん)


 なんといっても、騎士というのはダークブルーの詰襟服、腰の剣帯にはロングソードを下げ、脚にはロングブーツを履き、肩には白い外とうという制服で身を固めたという姿が非常に格好良く、この国の少年たちの憧れの職業なのだ。

 今回の帰郷は、任官されたてのピカピカの新人騎士の姿を、我がカーティス家の皆さまへお披露目するための旅というわけだ。

 ともあれ、魔法かぁ。


「勇者というのは冒険の旅の中で成長するんだよ。

 俺は、まだ新人騎士にすぎなくて魔法はつかえないけれど、姫君を救うための旅の中で魔法に目覚めて勇者になるんだよ。

 もちろん頑張らないといけないけどね」


 そう言ってはみたものの、ちょっと都合が良すぎるだろうか。

 騎士の仕事をしながら、私塾に通って魔法を習得するのはなかなか骨が折れそうだ。

 しかし、いつまでも魔法を使えないわけにもいかないだろう。

 ほとんどの先輩騎士は、魔法を使えるのだ。


「これこれ、そのぐらいにしておきなさい。

 すみません、カーティス様」


 女の子の父親の行商人が、少し改まって俺を姓のほうで呼びつつ、眉根をさげながらそう言った。


「いえいえ、一向に構いませんよ。子供は好きですから。

 故郷にいる弟妹を思い出します」 

「賑やかそうな家族でうらやましい限りですなぁ。

 ん、あぁ、急に曇ってきましたね。

 カーティス様、このあたりの街道の話は聞いておられますか?」


 行商人が、山脈の方から広がってきた黒い雲を不安げに見上げつつ、少し声をおとして聞いてきた。


「ええ、ここ半年ほどで腕利きを含めて何人もの人たちが行方不明になっているとか」


 学校で回し読みした新聞を思い出しつつ、同じく声を潜めてそう返した。

 女の子が、不思議そうな顔をしてこちらを見上げている。

 新聞によると、冒険者ギルドでもランクの高い連中が行方不明になったというのだ。


 このあたりは、季節や時間帯によっては人通りがまばらで、あまり目撃者もいないらしい。

 なんでも、山すその森に引きずり込まれる人をみたという噂がある程度のようだ。


「この辺の治安部隊が巡回を増やしているそうです。

 範囲が広くて大変だとのことですが、いずれ真相が明らかになるでしょう」


 都で小耳にはさんだことを思い出しつつ、行商人を安心させようと考えて、そう返した。


「あぁ、巡回をふやしてくださっているんですね」


 行商人が、少し表情を明るくして言った。


「うわぁぁぁ」


 そのとき、街道の後ろの方から悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると二人の男が、こちらに向かって走ってくる。


「あんたたちも、早く逃げろ!

 魔物がやってくる!」


 男たちは、こちらを追い越しながら息も絶え絶えにそう言って駆けてゆく。

 後ろのほうに目を凝らすと、犬にまたがった緑色の人のようなものが三つほど見えた。


 狼にまたがったゴブリン?

 ゴブリンライダーか……、いや狼にしてはサイズが大きい、あれは魔狼だ!

 魔狼にまたがったゴブリンライダーとなると危険度が大幅に跳ね上がる。


「ゴブリンライダーだ、こっちに来ます。

 二人は先に逃げて!急いで」


 強い口調で行商人父娘に声をかけた。


「レン様は?一緒に逃げようよ」


 女の子が心配そうな顔をして言った。


「俺は後から行くから。」


 女の子の頭を撫でつつ、そう返事した。


「またね……」


 女の子が父親に半ば抱えられるようにして非難してゆくのを見送りながら、どう対応するか考えた。

 彼らを守るためには、相応の逃げる時間を稼ぐ必要があるだろう。


「さて、やることをやりますか!」


 僕はゴブリンライダーたちのほうへ目をやった。

 最初は三体ほどだったものが、今や七体、八体と増えつつこちらに向かって迫ってきている。


 こころなしか、先の二人の男たちを追っていたときよりも速い。

 どういう思惑だろう、わざとか?

 とにかく接敵前に数を減らさなくてはならない。


 急いでショルダーバッグ型のマジックバックからショートボウを取り出し、矢筒を肩にかける。

 矢筒に入った弓は十本。

 ショートボウを斜めに傾けて構えつつ、敵との距離を稼ぐために後退しつつリズムよく十本の矢を速射した。


 うち一本がゴブリンライダーの肩口にあたり、もう一本は他のゴブリンライダーの駆る魔狼の首筋にあたり、ともに魔狼ごともんどりうって転倒した。

 まだ、少し距離があるうちに小盾を左腕に装着し、ロングソードを鞘から抜き放つ。


 目的は、行商人たちが逃げる時間を稼ぐために牽制すること、次に俺が生き残るためにこいつらに諦めさせること。

 なに、全部倒す必要はない、要は時間稼ぎをして、こっちが生き残れればいいのだ!

 ゴブリンライダーは残り六体。先端に金属塊のついた長柄をもったものが三体、先端に鉤爪のついた長柄もちが二体、投網をもったのが一体だ。


 どうやら俺を捕獲するつもりらしい。

 連中は距離をとって左右に分かれ始めた。

 後ろに回り込むつもりのようだ。

 投網をもったゴブリンライダーが最も危険だと判断し、一気に距離を詰め、ロングソードを右から横薙ぎに斬り払ったのちに返す動作で斜め下方から斬り上げる。

 すると、不意を突かれたゴブリンライダーと魔狼とは切り裂かれて、ゴブリンライダーが魔狼から転がり落ちる。


 次いで、その攻撃の隙に左から打ちかかってきたゴブリンライダーの長柄武器を、小盾でパリィした。

 さらにその長柄もちのゴブリンライダーに向かって一気にロングソードを突きこむように前進しつつ、それをかろうじて防いだ奴に向かって前蹴りを打ち込んで、魔狼から蹴り落とす。

 蹴りで骨を砕くことができたのか、転げ落ちた奴は立ちあがってこない。


 残りは四体!

 さらに次のゴブリンライダーに向かって、左右からロングソードを畳みかけるように打ち込み、三合目と四合目でゴブリンライダーと魔狼とを傷つけた。

 負傷した奴は少し後ろへ下がりはじめた。


 残りは三体!

 相手は戦意を失い始めている。

 なんとかなるかもしれない。


 そのように考えたとき、突然、周囲が白い靄におおわれた。

 次に猛烈な眠気がおそってきた。

 後から考えると、あれはスリープクラウドの魔法だったのだろう。

 脳の血流を一気に減らすことで気絶をさせる魔法らしいので、スリープなんて生易しいものではない。

 なんとか抵抗しようとしたけれど、立っていられない。

 次の瞬間に、視界が暗転した。

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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