表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/100

もうひとり

常世編「仲間の在り方]と幕間「万咲希と朔矢の出会い」に関連したお話となります。

未読でも支障はないと思いますが一応お知らせ(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾

 黙りこくる大臣らを前に、民衆の声は一層大きくなった。

 ある者は野次を、ある者は懇願を。

 涙ながらに訴えている者もいる。

 神様はゆるりとその様を眺めてから僅かに顎を引いた。


「裁定する前に、大臣ら3名には事の顛末をすべて明らかにする義務がある。明かしていない事実について、()く正直に述べよ」


 投げかけられた言葉に、大臣らはおずおずと顔を上げた。

 野次と懇願が止む。

 それに急き立てられる形で、熊耳の男が渋々口を開いた。

 

「此度の事は、有限を知る偽神様であれば我々と同じ方向を向いて歩んでいただけると思い、高天原を良くしたいという信念のもと実行した」


 私はその言葉に明確な嫌悪感を抱いて顔をしかめた。

 何が信念だ、と文句を言ってやりたい気持ちをグッとこらえ、口を引き結ぶ。

 硬い声音が、罪悪感のかけらも見えぬまま言葉を紡いでいく。


「長くもどかしい時間を耐え忍び、13年前、ようやく逸材が現れた。その偽神様は当然のことながら神力の量が神様に匹敵するほど高く、そしてなにより心を読む能力を持っていた。あれより最適な依代はいない」


 今まで静かに聞いていた葉月さんがピクリと反応した。

 金の瞳が向けた先に、信じられないものをを見るような目で大臣を凝視する万咲希くんが立っていた。

 その横で、腕を組んだ朔矢さんがどこか納得した表情を浮かべている。


「今の話……」


 万咲希くんがほとんど呟くような声量で言った。

 注目を浴びる気はなかっただろうに、シンと静まり返った南庭では声が必要以上に響く。

 

 多くの視線が万咲希くんに集まるが、彼は怯むことも気にする素振りもなく、何かに誘われるようにして縁側の方へ数歩にじり寄った。


「心を読む能力を持つ妖は(さとり)だけだ。そして覚一族で偽神が生まれたのは過去に一度だけ。しかも13年前……」


 大きく見開かれた瞳がギラギラと怪しく光っている。

 鋭い眼光と感情の読み取れない無表情に、周囲の空気が張り詰めた。


 おもわず身構えてしまうほどの気迫だ。

 危機感を覚えたのか、朔矢さんが万咲希くんの肩を掴み、彼の歩みを止めた。

 

 いつものように宥めるのかと思ったが、朔矢さんはそのまま万咲希くんの前に立つと、険しい面持ちで大臣らと対峙した。


「その偽神は万咲希の弟だな」


 私は「えっ」と小さく声を漏らした。

 万咲希くんに弟がいるというのは初耳だった。

 ましてや、その弟が偽神だったなんて。

 

 驚く私とは裏腹に、大臣らは眉一つ動かさない。

 知っていたというよりも、興味のない話を耳にしたときの反応だ。


 無反応の大臣らに痺れを切らして、万咲希くんが「何か言えよ」と怒鳴った。

 声は刺々しかったが、浮かべている表情は苛立ちとは程遠く、酷く傷ついているように見える。

 神様が「答えよ」と催促すると、仕方がなさそうに熊耳の妖が口を開いた。


「しかり。偽神の親は泣いて縋りついてきたが、覚こそ依代にふさわしい能力を持った妖だ。説得を試みつつ赤子に手を伸ばしたところで、やつらはその能力を使って我々の思惑を知ってしまった。だからこのことを話せば覚一族を滅ぼすと忠告を──」


「なぜ脅す必要があるのです」


 葉月さんが感情を押し殺した声で尋ねた。

 一族を滅ぼされた者としての強い憤りが見えて、私はそっと彼の背中に触れた。

 その背中がわずかに震えているのは、握りしめた拳のせいか、それとも激昂のせいか。


 大臣の背後では、万咲希くんが朔矢さんに支えられながら声を出さずに泣いていた。

 顔を覆っているので表情は見えなかったが、年上相手にも構わず立ち向かう彼が肩を落として涙する姿に胸が痛くなる。


「狐の偽神は脳の発育が悪いのかね。例外をつくると面倒になるからに決まっているだろう。ただでさえ子供を殺すなとうるさいのに、あの家は、あのときは、と騒がれては敵わん」


「嫌がっていると知っていて強要したと」


「言葉尻を捕らえるなどいやらしい。やはり親なしはろくな育ち方をしないな。言葉を慎め下劣な霊狐」


 隣で、葉月さんが言葉を失った。

 反対に私はカッと血が沸騰する感覚に陥った。

 ひとの心を持っていると自称しておいて、よくもこんな酷い言葉を吐けたものだ。

 

 これまで生きていた19年で、これほど感情が高ぶったのは初めてだ。

 気づいた時には、大勢の目があることも忘れて、私は大声で怒鳴っていた。


「誰のせいで葉月さんが家族や一族を失くしたと思っているんですか! あなた方でしょう!? 小さな子供に寄ってたかって襲いかかって、痛めつけて!」


 五百ものひとびとが集まっているというのに、辺りには私の声だけが響いていた。

 反響して耳に刺さる自分の声が、怒りと悲しみによって震えている。


「辛い思いをして、それでもなお他者を思いやるひとに、下劣なんて言葉、ありえない。世の為と言いながら何の罪もない赤ちゃんをたくさん殺したあなた方の方が、明らかに、絶対、下劣じゃないですか!」


 全身で叫び、乱れた呼吸を整える。

 大きな声を出したせいで喉がじわんと熱くなった。

 グラグラと煮えたぎった血潮が聴覚を鈍らせ、一瞬、音が聞こえなくなる。

 少しの沈黙ののち、女の妖が動揺を隠すように意地悪く鼻で笑った。


「わーわー騒いで見苦しい。まったく、常世と関係のない人間は首を突っ込まないでもらいたいね。よく知らないようだから教えてあげるが、霊狐一族が滅びたのは彼らの自業自得だ。気に食わないからと屋敷に野妖を(かどわ)かし、痛めつけ、殺そうとした。野妖はみな抵抗したが、この偽神が惨殺したのだ。しかし我々が危惧していたとおり、偽神は上手く神力を扱えず、結局まわりにいた一族も巻き込まれてしまった。それだけの話だ」


 まだそんなことを。

 怒りも忘れて呆れそうになるが、大臣らに疑いの目を向ける前の民衆が聞けば、危うく信じそうになる話だ。

 しかし、もはや彼らの信用は地に落ちた。

 誰も今の話を信じる者はいないだろう。


 それを分かっていてもなお言いっぱなしは嫌だったのか、人混みの中からタウフィークさんが出てきて、大臣らと葉月さんの間に立った。

 大臣らの目から庇うように葉月さんに背を向け、庭の方へ体を向ける。


「霊狐一族の一件は政府内で緘口令(かんこうれい)が敷かれていて、我々アルミラージ一族にも正確な情報はほとんど回ってこなかった。葉月を引き取ることにしたうちの族長だけが正しく全てを察していて、大臣らよりも葉月のことを信じた。そして一族の者はみな、族長の言葉をなによりも優先させる。だから断言する。霊狐一族が滅びたのは、すべて大臣らの策略によるものであり、大臣らこそが、我々国民の敵である」


 守り屋の副族長がはっきりと立場を示したことで、少なからず群衆にざわめいた。

 困惑によるものではなく、どちらかというと肯定的な空気が漂っている。

 

 やはり大臣らの所業は明星によって大方バラされているようだ。

 頷いている者もいる。

 タウフィークさんはチラリと民衆の方を伺ってから続けた。


「おそらく月夜町のひとびとも何名か察していただろうが、霊狐一族を知らないものは、なぜ霊狐一族が滅びたのかも、どのようにして滅びたのかも知らないだろう。ひとによっては都市伝説だと考える者もいただろう」


 私は話を聞きながら(くだん)という半人半牛の妖である唯太郎さんを思い出した。

 はっきり口にはしなかったが、彼は葉月さんの事情について知っている風だった。


「しかし霊狐一族はひとの手によって滅ぼされたことは、紛れもない事実だ。そして、この霊狐一族の事件も、約4か月前に起こった薬師襲撃事件も、1か月前から始まった世界の崩壊も、すべて大臣らが首謀者だ」


 やはり民衆の表情に驚きや困惑は見られない。

 大臣らも逃げられないと悟ったようで、反論する気配すらない。

 

 タウフィークさんは背筋を伸ばし、ゆっくりと体を神様の方へ向け、膝をついた。

 まっすぐ神様を見据える瞳が、真剣さを帯びて紅く輝いている。


「我々アルミラージ一族は今回の事件について、磐座省によって一切の関与を禁じられてきた。また、参議は大臣らの行いを知っていて黙認していた。よって、アルミラージ一族の副族長の名において、大臣3名のほかに参議と磐座省においても相応の処分を科すことを申し立てる」

 

 声高らかに告げられた言葉に、遠巻きに眺めていた政府のいくらかが息をのんだ。

更新めちゃくちゃ遅くなってしまいました( > < )

そして長台詞も多い。読みにくかったらすみません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ