罪か否か
今日は七夕ですね!
……今年中に完結しますように。(頑張る)
話を終えてすぐに、神様は私達に荷物をまとめるよう言った。
すっかり忘れていたが、よく見ると辺りには硯や御札が散乱している。
急いで道具類をかき集め、各々が背負い籠と薬箱を担ぎ終えると、神様は堂々とした佇まいで手を二回叩いた。
瞬きを終える前に景色がガランと変わる。
薄暗い室内に浮かぶ七変化の几帳を目にし、地上に戻ってきたのだと理解する。
室内にひとの気配はなく、ひっそりと静まり返っていた。
そばには神々しい神様と凛とした佇まいの葉月さん、そして困惑顔の卯槌さん。
なんの前触れもなく転送させられたのだろう。
恩があると言っていた神様と葉月さんの存在に気づかぬまま、困惑顔で辺りを見回している。
「正殿にふたり。天中にひとり。あれはアルミラージのところか」
戸惑う我々などお構いなしに、神様は再度手を叩いた。
瞬きよりも早く、目の前の景色が入れ替わる。
たどり着いたのは、大きな庭の見える広い部屋だった。
訂正。おそらく、大きな庭だ。
簀子縁と呼ばれる広い縁側に佇む私たちのほんの1メートル先から、ぎっしりと多種多様な妖たちが集っている。
それが門まで続いているとなると、もはや元の庭の広さなど分からなくなる。
しかし、おそらく広いのだろう。
ざっと500人は居るだろう庭は、遠近感を狂わせるのに十分だった。
さすがに昨日の早朝に比べたら落ち着いているものの、やはり野次や懇願の声が飛び交っている。
ものすごい声量に圧倒されるのも一瞬で、私たちの存在に気づいた常世の住民たちの声が徐々に消えていく。
どうにか沈静化しようと駆け回っていたアルミラージたちは、住民らの戸惑う様子に気づき、ようやく足を止めてこちらを振り向いた。
「神様だ……」
「神様がお帰りになった……」
喧騒がざわめきに変わったころ、誰かが熱に浮かされるがごとく呟いた。
その声は妙に大きく辺りに響き、ついに最後まで神様の登場に気づかなかった者たちの口を閉ざさせた。
先ほどの騒がしさが嘘のように、耳が痛くなるほどの静寂が訪れる。
神様は視線を一身に浴びながら、ゆったりとした動作で縁側のフチに立った。
「大臣2名、ここへ」
高くも低くもない声が絶対的な力をもって命じる。
けれど、誰も出てくる様子はなかった。
ちらりと神様の表情を盗み見るが、その横顔にはなんの感情も浮かんでいない。
神様は眉1つ動かさないまま庭を見下ろして、ひとこと「出でよ」と呟いた。
それと同時に、寝殿の中から「ひぃっ」と小さな悲鳴が聞こえてくる。
ちょうど部屋の曲がり角にあたるところから、何か強い力に引っ張られるようにして飛んでくる大きな塊がふたつ。
そのふたつの塊は一瞬で神様の視線の先に転がり落ちた。
土埃が舞い、前のめりになっていた周囲の妖たちが慌てて距離を置く。
視界が戻ったとき、そこには人間と同じ見た目の女と頭部に丸い耳を生やした男がひれ伏していた。
どちらも青ざめた顔で震えている。
(人間……ではないんだろうけど、なんの妖だろう。もう一人は熊? 両方ともやっぱり40代かそれより若く見えるなぁ)
まじまじと観察するが、どう見ても200歳を超えているようには見えなかった。
神様は明らかに怯えている2名を一瞥してから「ふむ」と呟いた。
「やはり3名揃えねばいけないね」
温かくも冷たくもない不思議な色の瞳を熊耳の男の隣に向けて、そっと静かに「天音」と呼ぶ。
その名の主の顔を思い出すより速く、狐耳の男が音もなく現れた。
「……は、え?」
後ろ手に縛られていた天音は、目を白黒させてから他の大臣らと同様に怯えと絶望の表情を浮かべた。
少なくとも良くない状況であることは分かったらしい。
自信満々な顔で見下していた姿が嘘のように、天音が小さく縮こまる。
神様はゆっくり瞬きを繰り返し、「さて」と言った。
「ここに集まっている者は、皆こぞってお前たちの行いを重罪であると評している。お前たちはどうだい?」
私は無意識のうちに眉をひそめた。
これではまるで神様自身は許していると言っているように聞こえるではないか。
引っかかりを覚えたのは私だけではないようで、静まり返っていた大衆がふたたびざわつき始める。
そんな中、熊耳の大臣が重々しく口を開いた。
「……我々はけして残虐な行為をしたくて政策を施行したのではない。国を良くしようと、その一心で動いた。国を想っての行為が悪であるがずがない!」
最初こそ弱々しい口調だったが、徐々に自信が出てきたのか、終わりの方は力強く言い切った。
大衆のざわめきが大きくなる。
「なるほど、よくわかった。しかし、正しさとはひとの決めることであって、私の決めることではない。よって、罪か否か判断するのは皆に任せるつもりだ。もし弁解したいことがあれば、私ではなく国民に言いなさい」
神様は力のこもった大臣らの目を見つめてから、諭すようにそう言った。
途端、3名の空気が揺らぐ。
おそらく、神様が味方をしてくれたと勘違いしたのだろう。
動揺を隠せない様子で互いの顔を見合わせた3名は、緩慢な仕草で後ろを振り向き、常世の住民たちに向き合った。
その背中には早くも敗北の雰囲気が漂っている。
少しの沈黙の後、おもむろに天音が立ち上がった。
「神のお考えは必ず正しいわけではありません。むしろ、我々ひとの心を持つ生き物からすれば、共感できないことの方が多かった。これは長くお仕えしていた我々だからこそ、言えることです」
それに続くようにして、人間そっくりの女と熊耳の男が天音の隣に並び立った。
「神は残酷なまでに平等なお方だ。それ故に、正しいさと間違いの区別がつかない。そのように正誤の判断もできぬ者に、どうして国を任せられようか」
女の方がそう言い切った途端、ざわめきが確かな野次となって四方八方から飛んできた。
「だからなんだ! 罪もない子供を殺し、世界を滅ぼすことは、国の為といえば善になるのか? そんな理屈が通ってたまるか!」
「そうだそうだ! これまで殺してきた幼子の顔を思い出しながら、親の目をしっかり見て、正しいことをしたと言えるのか?!」
「このひと殺し!」
「この頭のおかしい犯罪者どもに鉄槌を!」
大臣3名は顔を俯かせたまま固く口を閉ざしている。
その姿は無言を貫いているというよりも、適切な言葉が見つからず途方に暮れているように見えた。
次回、衝撃的な事実が判明します。
頑張ってなるべく早く書きますので、お付き合いいただけますと嬉しいです(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)




