偽神様AとB
今年最初の投稿となるため、挨拶が遅くなり失礼いたしました。
改めまして、新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
卯槌さんに詳しく話を聞いたところ、どうやら大臣らによって脅された霊狐一族の生き残りが、大規模な術を使って神様を封印する儀式を行ったらしい。
潜入していた卯槌さんは神様が封印されかけているところを目にし、アーロンさんの手を借りてこの空間に移動させたという。
「どんな影響が出たとしても、完全に封印される前に隠す必要があった」
そう話す卯槌さんは、神様を助けるという偉業をなしとげたというのに苦い表情を浮かべていた。
言いにくそうに唇を噛んで、それから一息つくように辺りを見回した。
「……ここは高天原の心臓部である天岩戸。神様を隠すのにもってこいの場所だろう」
卯槌さんの視線につられて私も視線を巡らせる。
そして、ようやっと、立っているこの場所が日本家屋の回り廊下によく似ていることに気がついた。
さらに不思議なことに、地下でありながら柔らかい日の光がガラス戸から差し込んでいる。
外には青々とした草花が生い茂り、どこまでも続いていた。
穏やかな午後のひとときという言葉がピッタリな、ゆっくりとした時間が流れている。
しかし、私たちの間に流れる空気は以前として暗い。
その対称的な光景に苦笑する余裕もなく、私は卯槌さんが続きを話すのを待った。
「神様が消滅してしまったと焦った政府は、よく調べることなく全ての五芒星の門を開けた。世界の異変によって自分らの企みが国民にバレることを恐れたんだ」
「なるほど。彼らの計画の杜撰さはここから来ているのですね」
葉月さんが合点がいったとうなずいた。
五芒星の門の位置をろくに調べず、小春さんが門を開ける際も立ち会わず。
極めつけに、頼みの綱としていた月結びの儀式の古文書は霊狐一族の長にしか開けられない、特別な術がかけられていた。
私も世界の存亡がかかっているにしては行き当たりばったりがすぎるとは思っていたが、まさかこんな事態になっているとは想像もしていなかった。
「でも、政府は何のために神様を封印しようとしたんですか? そのひと達からしても、世界が滅びるのは望まない結果だったんですよね?」
尋ねる私に、葉月さんが「そのことですが」と言った。
「結奈さんは屋敷に侵入する前に、どうして政府が依代の力のことを知っているかと聞きましたね」
「えっ、あ、はい」
急に話が飛んで驚いた私は、しどろもどろになりながらも頷いた。
小春さんとともに黄泉比良坂に向かった大臣のひとりが、近いうちに私たちを探しに戻ってくると話していた、あの時のことだ。
葉月さんが言うには、大臣らは何らかの方法で葉月さんが依代の能力を開花させたことを察しているらしい。
問題は、なぜ政府が依代の力について知っているか。
しかし、この答えはよく考えたら予想ができた。
「……言葉を間違えたかもしれません。なぜ、ではなく、どうやって、の方が正しいかも。神様のもとで働いていたなら、当然そういう事情についても詳しいはずですもんね」
どうやって葉月さんが依代の力を開花させたと分かったのか。
そう質問の内容を訂正すると、葉月さんは心得たとばかりに口を開いた。
「最初の質問は結奈さんには少し説明がしづらかったのですが、ある程度整理ができたので、あわせて今お話します。もっとも、まだ憶測の域を出ない、かつ、かなり突拍子のない内容になりますが」
葉月さんはそこで一度言葉を切り、ことの成り行きを見持っていた卯槌さんの方を向いた。
「卯槌さんは私以上に事の次第を把握なさっているのでしょう。話せることだけで構いませんから、私の話の訂正や補足をしていただけませんか」
お願いしますと頭を下げる葉月さんに、卯槌さんはオロオロしつつ了承した。
恩人に頭を下げられるというのは居心地が悪いものだ。
「長い話になるだろう。こちらに移動しよう」
卯槌さんはそう言って、すぐ横の襖を引いた。
彼が寝泊まりしている一室なのだろう。
そこは簡素な畳部屋になっていた。
部屋の真ん中に置かれた座卓へ案内され、慣れない手つきでお茶をいれてもらう。
そうして卯槌さんが話を聞く体制に入ったことを確認してから、葉月さんは静かな口調で言葉を紡いだ。
「事の始まりは約80年前。彼らは現世の政治のあり方を知り、自らの手で社会を築いていくことに憧れを抱きました。しかし、その実現のためには神様に政から退いてもらう必要がありました」
私は一瞬、あの天音とかいう大臣のことを思い出した。
てっきり平安時代の政治体制で認識が止まっているのかと思っていたが、どうやらきちんと現代の政治についても理解していたらしい。
「どのような経緯で神様が封印されかけたのかは分かりません。政から退くことをご承諾なさらなかったのか、あるいは話し合いの場を設けることなく神様を排除する気でいたのか」
そう呟き、しばし黙考した葉月さんは、ハッと我に返って顔をあげた。
「……すみません、話が逸れました。とにかく、そのような経緯を経て、彼らは神様を封印しようと企てたのです」
そこで一度口を閉ざし、金の瞳はちらりと卯槌さんを伺った。
まっすぐな眼差しに応えるように、卯槌さんが首肯する。
どうやら葉月さんの推理は正しかったようだ。
同じように頷き返し、さらに言葉を紡いでいく。
「しかし、世界が滅んでしまうのは彼らにとっても避けなくてはなりません。そこで、依代の力を使うことにしたのです。明確に行動を始めたのは、おそらく10年前のこと。空白の70年弱で、政府は神様や国民に怪しまれないよう、少しずつ手筈を整えてきたのでしょう」
「あの、政府の使おうとした依代というのは葉月さんのことですか?」
葉月さんを「使う」だなんて、厚かましいにもほどがある。
そんな気持ちが顔に出て居たのだろう。
横に座っていた葉月さんが宥めるようにそっと私の頬に触れた
「いいえ。10年前、私はすでに物事の分別がつく歳でした。そんな私を引き入れるよりも、新たに偽神の子を取り込んだ方が早い。従って、ほぼ確実に、私とは別の偽神がいると思われます」
あまりにも予想外な話で、理解するのに少し時間がかかった。
なんとか嚙み砕いて飲み込み、間を埋めるように口を開く。
「……えっと、その偽神様は今も存在しているんですか?」
「はい、おそらく。先ほど彼らが几帳の前で『やはり引き継いだのは霊狐だった』と話していましたが、あれは別の偽神が引き継げなかったことを確認した口ぶりでした。政府が最低限の常識を持ち合わせているのならば、まだ生きているでしょう」
さすが聴力の優れている狐耳だ。
同じ空間にいたはずの私にはボソボソとしか聞こえていなかったというのに。
(……ていうか私の質問、ずいぶんと物騒な意味に捉えられちゃったな。葉月さんの他にも偽神様がいることに驚いて出てきた言葉だったんだけど……たしかに深く考えてみたら、あの政府に用なしだと判断された偽神様の今後が心配だ……)
葉月さんはすでにそこまで考えていたらしく、暗い表情を浮かべている。
部屋に重たい沈黙が流れる。
キーンと耳鳴りがし始めたところで、ふと思い出したように葉月さんが続けた。
「政府側の偽神は、神様の力を引き継げなかった。そしてそのことは政府にとって想定内でした。想定していたからこそ、この10年間、私の存在を消そうと躍起になっていたのでしょう。これらの内情を鑑みて、私は、我々が真っ先に神様を探しにいったことを政府に察知されたと思ったのです」
そう言葉を締めくくる葉月さんに、言葉を見つけられなかった私はただただ深く頷いた。
色々とわかってきたというのに、不安はべったりと心に張り付いたままだ。
気持ちを落ち着けようと両の手で握りしめた湯吞みのお茶は、もうすっかり冷めきっていた。
何度も確認しながら慎重に書き進めましたが、矛盾や分かりにくい所があるかもしれません。
後日調整が入ると思いますが、物語に大きな変更はないと思うのでお含みおきくださいませ(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”




