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なに日和?

 強い日差しから人々を守るように、伸ばした枝葉が広がっている。

 木漏れ日の降り注ぐ小道は、差し込む光によって白くフィルターがかっていた。

 私はその光景を、まるで光のカーテンのようだと思いながら、黙々と歩を進めていた。

 

 時刻は約11時半。

 太陽はほとんど頂点まで昇りきり、捜索隊の面々をいたずらに照らしては、びくびくと警戒する様子を眺めて笑っている。


(……という幻覚が見え始めている結奈であった。なんちゃって)


 額から流れる汗を拭いつつ、私は苦笑した。

 だいぶ暑さに参っている自覚はあるが、さすがに緊張感まで抜けてしまうのはまずい。

 なぜなら、私たちは今、行方不明のタウフィークさんを探すべくムウェズィヌールの森を忍び歩いている最中だからだ。

 

 捜索隊として同行している六番隊は相当警戒しているようで、一時も剣の()から手を離していない。

 私のすぐ隣を歩く葉月さんだって、借り物の剣を腰から提げて臨戦態勢をとっている。


 気楽に歩いているのは、剣術のけの字も知らない私くらいだろう。

 私はふっと短く息を吐くと、緩みかけていた警戒心を律しながら、出発前に聞いた作戦内容を思い返した。


「そういうわけで、六番隊および葉月らが副族長の捜索を、そして一番隊と残りの警備隊2つがミフラブ渓谷の調査に向かうことになった」


 アルミラージが大勢集まった広間でよどみなく状況を説明したのは、守り屋のナンバー3であるハサンさんだ。

 六番隊の隊長から事情を聴いた彼は、わずか数分で隊の配置を決めると、すぐさま全隊員に招集をかけた。

 

 スムーズに事が運んだのは、葉月さんと六番隊であらかじめ大まかな動きを決めていたのも大きいだろう。

 捜索隊と調査隊は簡単な説明を受けたのち、さっさと解散した。

 これが朝の10時を少し回ったところで、各隊はそこからさらに30分を話し合いに費やした。

 

「敵が副族長を監視している可能性もあるから、できればこちらにも戦力を分けてほしかったんだけどなぁ」


 そう不満を口にした隊長だったが、仕方ないということは理解しているらしかった。

 ぞろぞろと連れたって歩くのは目立つし、何より渓谷の方は確実に組織の企みがある。

 守り屋の中で最も腕のたつ集団である一番隊が調査隊に振り分けられたことからも、危機感の差は明白だ。


「さて、最終確認だ。森に到着したら、まずは渓谷の方に向かう。傾斜の緩い場所を見つけ次第、そこから出来るだけ離れた場所を探し始めよう」


 隊長の言葉に頷きつつ、捜索隊の隊員はそろって卓上の地図を覗き込んだ。

 隊員の見守る先で、隊長が地図に書き込みを入れていく。

 


「組織は地位のある副族長を手にかけられないだろうし、するにしても他殺と思われないような細工を施すだろう。たとえば森の中で迷って身動きが取れなくなった。そして空腹に耐えきれず毒性の物を口にした、といったように。そう装うには、彼を"拠点"から離す必要がある」


 私は「なるほど」と呟いて感嘆の息を吐いた。

 最初に傾斜の緩い場所を探すのは、そこからタウフィークさんを運び出した可能性が高いからだろう。

 さすが守り屋。着眼点が違う。

 

 澄々花という少女によって、タウフィークさんが最初に連れていかれた場所がミフラブ渓谷であることは聞いていた。

 それから、偽の拠点を用意して守り屋の目を欺こうとしていることも。

 

 もしも拠点が渓谷にあると思い込んだまま突入し、その先の森でタウフィークさんの亡骸を発見したならば、組織の思惑どおりに解釈してしまっていただろう。


「しかし、さっきも言った通り、敵が副族長を見張っている場合も想定できる。警戒を怠らず、常に周囲に目を向けるように」


 そう締めくくった隊長に、私を含めた全捜索隊隊員が力強い返事を返した。

 こうしてアルミラージの本屋敷を出た私たちは、ムウェズィヌールの森に到着し、作戦通り傾斜から離れた場所に向かっていた。


「右、クリア」

「左も同様」

「後方、クリア」


 時折このような短い報告だけして、隊員は口を閉ざす。

 不審な音を聴き漏らさぬよう、足音さえもほとんど立てずに進んでいる。

 ご察しの通り、私は戦力外だ。


(まあね、戦力外にも戦力外なりのプライドがありましてね。……意地でも倒れないぞ! 頑張れ、私! 暑さに打ち勝つんだ!)


 溶けかけた脳で自身を励ませば、体は素直にアドレナリンを放出してくれる。

 無駄に力が沸いてきたところで、突如前を歩いていた隊員が手を挙げてストップをかけた。


「前方、動きあり」


 囁くような声量が、耳を通して心臓に響いた。

 隊の取り巻く空気がピンと張りつめ、緊張感が急速に増していく。

 

 じっと進行方向に目を凝らした私は、少し離れた木の下に人影が映っていることに気づいて息をのんだ。

 木に寄りかかっているようで、一見(いびつ)な幹の形に見えるが、肩で息をしていることが見て取れる。

 おそらく慌てて身を隠したのだろう。


「左右に異常なし」


「前方、クリア」


「後方もクリア。対象はひとりと思われます。隊長、ご指示を」


 慎重に辺りを見回してから、隊員が口々に報告する。

 指示を仰がれた隊長は、しかし口を噤んだまま動かない。

 じっと一本の木を見つめる上司に戸惑いつつ、隊員も動かない。


 膠着状態に陥った捜索隊と人影の間には、言い知れない空気が漂っていた。

 どうする、どうしよう。

 全員の心の声が聞こえてきそうなほど辺りは静まり返っている。

 

 立ち尽くす私の足元に、一滴の汗が頬を伝って流れ落ちた。

 そのとき。

 木の陰からチョコレートオターのウサギ耳が、勢いよく飛び出した。

 私たちのいる方とは反対側に向かって、人影の正体が全速力で駆けていく。


「あっ、こら待て!」


 どうやら鬼ごっこのほうだったようだ。さすが師匠。

 今朝の葉月さんとの会話を思い出しながら、私は他の捜索隊とともに走り出した。

加筆修正箇所(2023.02.03)

私は「なるほど」と呟いて〜組織の思惑どおりに解釈してしまっていただろう。


拠点について「ミスリード」での内容と齟齬があったため、書き足しました。大変失礼致しました。

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