接触
窓から差し込む眩い太陽の光に誘われて目が覚めた。
ベッドとともにジリジリと焦がされていた足をタオルケットの中に戻しつつ、ゴロリと寝返りを打つ。
その拍子に、大量に置かれていたクッションのいくらかが音を立てて落ちた。
「うあー、このまま寝ていたい……」
自分でも呆れるほど怠惰な本音が飛び出すけれど、誰が見ている訳でもないので気にしない。
昨夜遅くにアルミラージの本邸に着き、夜食を食べ、床に就いたのは夜明け近くだった。
さすがに眠い。
しかし、いつまでも寝ているわけにはいかない。
澄々花と名乗る少女から聞き出した話を元に、アルミラージ一族の裏切り者を見つけ出さなければならないからだ。
一族に内通者がいるかもしれないと知っているのは、昨日馬車にいた面子だけ。
そうなれば当然、探りを入れられるのも私たちだけとなる。
ダラダラと身支度を整えた私は、とりあえず朝食をとりにダイニングへ向かった。
ダイニングといっても一般家庭にあるようなものではなく、長方形の巨大なテーブルと立派な椅子がズラリと並んだ、豪華な食堂だ。
途中で葉月さんと合流し、二人揃って食事を始める。
アラビアパンにフムスと呼ばれるヒヨコマメのペーストを塗って、アボカドやトマトと共にサンドしたものが、アルミラージ一族で人気の朝食メニューらしい。
「おお、異国の味がする!」
思わず声を上げると、近くに座っていた美女が目を細めて笑った。
慈愛のこもった眼差しが、まるではしゃぐ子供を見る母親のようで、恥ずかしくなった私は慌てて口を閉ざす。
ゴホンと咳払いをすると、隣で笑うまいと口元を抑えている葉月さんに向けて「美味しいですね」と微笑んだ。
ここまで来たら開き直るのが一番手っ取り早い。
顔が熱いのは、きっと気のせいだ。
そんなこんなで、美味しく朝食をいただきつつも他愛のない会話を続けていく。
けれど、私たちの視線はわずかに外れていた。
(うーん、全員怪しく見えてくるなぁ)
昨日の会話のせいで、ついつい犯人探しをしてしまう。
それは葉月さんも同じようで、ふと視線が交差して苦笑する。
誤魔化すように食後のミントティーに手を伸ばすと、その動作すら被ってしまって、私たちは耐えきれず吹き出した。
「今日はどうしますか?」
周囲に探っていることを気取られぬよう、笑いながらも慎重に話を振っていく。
葉月さんは少し考えて、それから悪そうな笑みを浮かべた。
「ハサンには好きに過ごして良いと言われていますし、屋敷内の探索なんてどうでしょう」
「いいですね。かくれんぼ……いえ、探検ごっこみたいで面白そうです」
「もしかしたら、鬼ごっこかもしれませんよ」
私たちは「ふふふ」と気味の悪い笑い声を漏らしつつ、食堂を去っていく。
空腹を満たして気分は上々。
照り付けてくる太陽は鬱陶しいが、絶好の内通者捜し日和だ。
「まずはどこから向かいますか?」
嬉々として尋ねると、葉月さんは迷いなく天井を指さした。
正確に言うと、天井の先にある1つ上の階だ。
「二階には各隊の執務室があります。昨日の話からして、最も怪しいのは虚偽報告の疑いがある六番隊です。まずはそこから行きましょう」
そういうわけで、優秀な薬師とその弟子は迷いなく二階に続く階段に足をかけた。
自分たちが部屋に入ったとき、中に居たうちのひとりが顔を強張らせるであろうことを予見して、ほくそ笑みながら。
(……あれ。もしかして、私たち一歩遅かった?)
六番隊の執務室をノックして、部屋の中を覗き込んだ私は、目の前の光景に圧倒されていた。
浮かべていた不敵な笑みを引っ込め、ただ立ち尽くす。
「何の用か知らないが、他の警備隊を当たってくれ。うちは今、それどころじゃないんだ」
リーダーらしきダンディーなウサギ耳の男性が、資料をめくる手を止めずに言った。
視線をこちらに向ける時間さえ惜しいらしい。
私と葉月さんは、顔を合わせて互いの瞳を探る。
やがて自身の推測が当たっていると悟った私は、見事一発で正解を引き当てた葉月さんに拍手を贈った。
「用件は裏切り者について。依頼場所はここで間違いないでしょうか」
葉月さんの声に、リーダーを含めた全員がピタリと手を止めて顔を上げた。
乱暴な口調で論争を繰り広げていた口を閉ざし、赤い瞳を驚愕に見開く。
数秒後、リーダーの男性が表情を改めた。
「あぁ……間違いない。うちの案件だ」
次いで放たれた声は、動揺も焦りも感じさせない、とても平坦なものだった。
キリが良かったので、短めですがここで一旦切ります。
次回は長くなるかも。




