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ミスリード

 静まり返ったオアシスの一本道を抜け、私たちはようやくハサンさんの指定した合流地点に到着した。

 行きと違う点は、猫耳の可愛らしい少女がメンバーに加わったことだ。

 迎えの馬車はすでに来ていて、ハサンさんがキャビンに寄りかかりながら待っていた。

 

(さすがアルミラージ一族。立ち姿が胡散くさ……様になっているね!)


 夜遅くにわざわざ出向いてくれたひとへの感想ではないと思い直し、すんでのところで飲み込む。

 いや、様になっているのは本当だ。

 ただほんの少し芝居くさいだけで。


 そんな失礼なことを考えている間に、私たちの姿を目ざとく見つけたハサンさんが身を起こした。

 片手を上げて言葉を発しようとした彼は、私と葉月さんの後方に目を向けて眉を寄せる。


「ん? その子は?」


 尋ねながらそっと提げた剣に手を伸ばす。

 すぐに警戒態勢に入るのは守り屋の癖なのだろう。

 苦笑いを浮かべつつ、葉月さんが慣れた様子で制した。


「彼女は大丈夫。説明は移動しながらするから、とりあえず彼女も一緒に乗せてほしい。いいかな」


 私たちの真剣な表情を見て、ハサンさんはゆっくり頷いた。

 乗り込む私たちを尻目に、彼は御者台のアルミラージに遠回りして帰路に就くよう指示を出す。

 全員が乗り込み終わると、馬車はゆっくりと発進した。


「……で、もう一度聞くけど、彼女はいったい何者なんだ?」


 座るのに邪魔だったのか、剣を腰から抜きながらハサンさんが問う。

 それを戸に立てかけようとして、一瞬迷う素振りを見せたあと、彼はおもむろに膝の上に置いた。


「これから詳しく聞くところだけど、例の組織にいたことは確かだよ」


 サラリと返す葉月さんに目を見開き、ハサンさんは信じられないものを見るような目で少女に視線を移した。

  

「タウフィーク……アルミラージの男を見なかったか!? 赤い目に黒髪のやつだ」


 真剣そのものの表情に気圧されつつ、少女はそれすらも取り繕うように背筋を伸ばした。

 口角をわずかに上げ、見下すように目を細める。


「アルミラージ一族の男のひとを探しているの? それなら残念だったわね。あなたの探しているひとは、組織の上層部にいるんだもの。帰って来やしないわよ。裏切られたのね」


 その言葉を真っ先に否定したのは、やはりハサンさんだった。

 軽く鼻で笑うと、腕を組みながら「まさか」と言った。


「本当よ。茶髪だったけど、きっと色染めしたんだわ。それより、彼女の心配はしてあげないのね」


「彼女? 誰のことだ」


 刺々しい声の応酬に、私と葉月さんは揃って肩を縮めた。

 敵視し合っている二者の間に挟まれて、正直めちゃくちゃ居心地が悪い。

 しかし、馬鹿にされてムッとしたらしい少女が全て素直に話してくれそうなので、流れをとめないよう黙って会話を見守る。


「アルミラージの特徴を持った女性が組織にいたの。何をやらかしたのかわからないけど、幹部に目を付けられてた。彼らが何度もしつこく、その女性と交わした会話の内容を聞いてくるから、なんだか私、怖くなっちゃって」


 そこまで言って、少女はバツが悪そうに肩をすくめた。

 

「全部話しちゃったの。そしたら彼女、その翌日に無理やり組員に連れていかれて、それっきりよ。もう訳が分からなくて……」


 本当に混乱しているようだった。

 憔悴しきった表情に、少しだけ同情する。

 けれど、彼女を純粋に心配するには、浮かぶ感情が複雑すぎた。

 

 なにしろ、彼女は出会ってそうそうに、大好きなひとに向けて「死んで詫びろ」と吐き捨てたのだ。

 彼女への罪悪感とは別に、憤りやもどかしさでモヤモヤする。


「それで、なんとか組員の目を盗んで地揺れに乗じて逃げてきたの」


 悪行をバラす子供のように小さな声で告げる少女を、ハサンさんがじっと見据える。

 探るように少女の目を見てから、彼は盛大に顔をしかめた。


「一族で行方不明になっているのは、タウフィークだけのはずだ。そのひと、本当にアルミラージか?」


「彼女はそう言っていたわ。名前はザハラと名乗っていた」

 

 ハサンさんの目が一層訝しげに細められる。

 ハッと息を呑んだ葉月さんが、驚いたように「ザハラって……」と呟いた。


「レオドール様によると、タウフィークは変化の術で姿を変えているらしい。髪を染めるくらい術を使わずともできるだろうし、それに、その女性の名前……」


 確認するようにハサンさんを見る葉月さん。

 話を振られたハサンさんは、苦々しい表情でゆっくりと頷いた。


「ああ。タウフィークの母親の名もザハラだ。つまり、タウフィークは組織の上層部にいるやつじゃなくて、女の方か」

 

「おそらく」


 一瞬考え込むように沈黙してから、なにかに気づいたハサンさんが、目を見開いて前のめりになった。


「いや、ちょっと待て。もしそうだとしたら、その上層部にいるアルミラージって誰だ」


 青ざめた顔で尋ねる彼に答えたのは、猫耳の少女だった。


「茶色の短髪で背は180センチくらい。自分の事を『拷問官』って呼んでいた。私が知っているのはそれだけよ」


「ハサン、心当たりは?」


 葉月さんが間髪入れずに問うが、ハサンさんは重々しいため息とともに首を横に振った。


「短い茶髪なんて候補が多すぎる。うちの一族、身長180越えなんてザラだし。他に特徴はないのか?」


「ええと、気を悪くしたら申し訳ないけれど……一族全員の所在について、ハサンはどのくらい把握しているの? 行方不明者は、本当にタウフィークだけ?」


 霊狐一族の元跡取りであった葉月さんが、まっすぐな瞳をハサンさんにぶつける。

 気圧されたように息を呑んだハサンさんは、自分を落ち着かせるように深呼吸してから、同じように真摯な眼差しを葉月さんに向けた。


「族長とラティーフとで毎日確認している。うちはこの町以外での居住は認めていないし、任務中に過ごす各地の拠点に誰が居るかも把握している。行方不明者はタウフィークのみだ」


 ゆっくりと確かめるように言うハサンさんからは、責任逃れをしているような雰囲気など微塵も感じられない。

 それ故に、手詰まりだと悟った4人は頭を垂れた。


「……それにしても、タウフィークさんはどこに連れて行かれたんですかね」


 私が気まずい空気を払拭するように言葉を発すると、暗い表情のハサンさんがわずかに顔を上げて「それなら」と口を開いた。


「うちの調べでは、ミフラブ渓谷に拠点があるって話だし、渓谷の中のどこかじゃないか?」


 ずいぶんと投げやりな物言いだ。

 ツッコミを入れようとした私は、しかし突如上がった戸惑いの声に言葉を飲み込む。


「待って、そんなところに拠点なんてないわよ」


 眉をひそめた少女に、ハサンさんがすっと目を細めた。


「だが、多数のあやかしが行き来していたと報告に上がっている。それと武器商人の拠点への来訪も目撃されている」


「たしかに一部の組員が出入りしていたけど、それは何かの企てによるものじゃないかって、ザハラが。それに武器や食料の取引は、実際に組員が現地に赴いて行われていた。拠点がバレるのはまずいんだって。私も行かされたから、間違いないわ」


 ふと、宿で食した湯豆腐が頭に浮かんだ。

 次いで、レオドール様から送られてきた不思議な地図を思い出す。


「あの、朔矢さんのお父さんも似たようなことを言っていませんでした? ほら、第一の門のところからルアドまで行く道の先で、組織が怪しい動きをしているとかなんとか」


 葉月さんは少し思考を巡らして、それから確信めいた表情で頷いた。


「あのあたりは金属製品が名産の町々ですので、武器の調達をしていたのかもしれません。澄々花さんの話と照らし合わせれば、たしかに合点がいきますね」


「……六番隊が俺に嘘をついたと言うのか」


 不機嫌丸出しの低い声が馬車の車輪の回る音に割って入ってきた。

 視線を向けると、赤い瞳が葉月さんを睨みつけていた。


「そうと決まったわけではないよ。ただ、1つの可能性としてあり得ると言いたいだけで」


「だが、何のために偽りの情報を流したんだ」


 ハサンさんは降参とばかりに手を上げると、疲れを滲ませた声で言った。


「それはわからないけど……」


 困ったように眉を下げつつ、葉月さんが言い淀む。

 分からないと言ったが、しかし彼の様子からして検討は着いているようだ。

 微妙な空気が漂う中、馬車がゆるやかに減速して停車した。

なんとかまとまったぁ( ˊᵕˋ ;)

謎を少しずつ明らかにするの、書いていて楽しいな!

次回も頑張ります!

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