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近づく終焉の音

 兄の行方についての新しい情報がないと分かると、ラティーフくんはすぐに踵を返した。

 目に見えて肩を落とす彼をみて、いかにタウフィークさんが愛されているかわかる。


「珍しいよな。あいつが兄のことであそこまで感情を出すのは」

 

「そうだね。ラティはタウフィークになにがあっても、なんでもないように振る舞うから。族長の息子としては頼もしいけれど、タウはいつも寂しがっていたよ」

 

 そう話すハサンさんと葉月さんは、気遣わしげな視線を向けつつも少し嬉しそうだ。

 その様子は、まるで弟を見守る兄のようで微笑ましくなる。


 ラティーフくんの姿が見えなくなると、ハサンさんは飲み物を客間のローテーブルに並べて、私と葉月さんにソファーに座るよう促した。


「それで……さっきは何故ラティーフに嘘をついたの?」

「やっぱり気づかれていたか」


 葉月さんの言葉を受けて、ハサンさんが苦笑交じりに頭を掻いた。

 少し逡巡してから、観念したようにため息をつく。

 そして、一度客間の出入り口を視認してから口を開いた。


「タウフィークの居場所が分からなかったのは本当だが、組織の拠点がおそらくミフラブ渓谷だという情報を得たんだ」


「それって、この町と隣町の境にそびえ立つ、あのとげとげしい谷のこと?」


「そうだ。町の巡回をしていた六番隊がいうには、そこに多数のあやかしが出入りしていたらしい。なんでも、種族は様々で、武器商人も行き来していたとか」


 そこまで言うと、ハサンさんは口を噤んだ。

 どこまで言うべきか迷っているといった感じで、私たちの様子を探っているのが分かった。

 その視線を黙って受けている葉月さんに習って、私もまっすぐ彼を見つめる。

 一瞬の沈黙ののち、赤い瞳が諦めを滲ませて細められた。


「……本当はあいつが帰ってくるまで待っているつもりだったんだが、いくらなんでも遅すぎる。別の任務についている俺の隊が戻り次第、すぐに突入するつもりだ」


「何か手伝えることは?」


 包み隠さず教えてもらって満足げな葉月さんが、間髪入れずに問う。

 しかし、ハサンさんは緩く首を振って席を立った。


「二人には他にやるべきことがあるんだろう。俺たちは大丈夫だから、そっちに集中してくれ」


 ごもっともだと思う私の横で、葉月さんが面白くなさそうな表情を浮かべている。

 仲間外れにされた気分なのかもしれない。

 子供みたいでちょっと可愛い。

 私は恋人の新たな一面に微笑ましく思いながら、立ち去るハサンさんの後ろ姿を見送った。


 それから私は、気を取り直した葉月さんに連れられて、寝泊まりする客室に向かった。

 広々とした部屋は、豪華絢爛な庭や広間とは違い、白を基調としたシンプルな内装だ。

 休む場所と活動する場の線引きをはっきりしているところが、なんとも守り屋らしい。


 日が傾いてきた夕方ごろ、涼しくなってきてから、私たちは再び町に繰り出すことにした。

 今日のうちに第三の門を閉じ、明日あらためてタウフィークさんの捜索に加わろうという魂胆だ。


 本当は一日でも早く全ての門を閉じるべきなのだが、第四の門がこの街からだいぶ離れていることを考えると、タウフィークさんを探せるのは今しかないのだ。

 直接会えなくてもいいから、せめて無事であることを確認したい。

 その一心での決定だった。

 

「でも大丈夫ですかね。第三の門のある隣町と、この町の境に拠点があるってことは、組織のひとたちが門の前で見張っている可能性が高いってことじゃないですか」


 大型馬車の中で揺られながら、私は小声で葉月さんに尋ねた。

 御者と私たち以外に乗っているひとはいなかったが念のためだ。


「ええ。今から向かう場所は、間違いなく今までで一番危険な場所です。もし門の場所が政府だけでなく組織にも知られているのだとしたら、十中八九待ち伏せされているでしょう」

 

 心臓がざわざわと落ち着かなくて、私は無意識に翡翠のペンダントを撫でた。

 葉月さんに贈られてから、すっかり癖になってしまった仕草だ。

 

「今更ですけど、刀の振り方を練習したほうが良いですよね。自己防衛のために」

「刀……あぁ、柊朔(しゅうさく)さんから頂いた懐刀ですね。すっかり忘れていました」


 葉月さんは「つい術に頼ってしまって」と苦笑しつつ、自分の懐を探った。

 きちんと仕舞われていることを確かめる葉月さんに、ふと疑問が沸いて首をかしげる。


「そういえば、葉月さんって剣術とかできるんですか?」


 出会ってしばらく経つが、彼が物理攻撃をしているところを見たことがない。

 さらに言うと、想像つかない。

 しかし、葉月さんは朗らかに笑って首肯した。


「できますよ。アルミラージ一族に引き取られてからなので、タウフィークに勝てたことはありませんけれど」


 何か言おうと口を開いたとき。

 突然、視界が大きく揺れて、馬車がギシギシと軋んだ。

 何が起きているのか理解する前に、ぐいっと葉月さんに体を引き寄せられる。

 カラスの一斉に飛び立つ羽音を聴きながら、私は葉月さんの腕の中でギュッと目を瞑った。

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