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それぞれの役割

「あの、やっぱり私が代わりに……」


 心配でオロオロしている葉月さんに必ず帰ってくるからと言い聞かせつつ、案内されるがまま従業員エリアに向かう。

 私たちの寝泊りしている階を通り過ぎ、さらに下へ降りていく。


 着いた先にはエンジンルームのほか、様々な機械室が並んでいた。

 浸水が始まっている様子は見られなかったが、バタバタと慌ただしいクルーたちの駆けていく方向からして、どうやら破損場所は船尾の方らしい。


 その反対側、船首の中央寄りに位置しているのが、特殊甲板部員のいる船外監視室だ。

 室内は巨大な水槽のようになっており、覗き込むと水の中で乗組員らしき男性がテキパキと仕事をしていた。


「オリバー、ちょっといいか?」


 船長の呼びかけに気づいて、オリバーと呼ばれた男性が顔を上げた。

 青みがかった黒髪とサファイアの瞳が特徴的な、顔立ちの整った青年だ。


 海藻でできた書物を脇に抱え、スイスイと軽やかに水面まで泳いでくる。

 きらりと光る尾ヒレに、私はある種の感動を覚えた。


(すごい。人魚って本当にいるんだ……)


 ずっと絵本やアニメで見てきたし、それこそ小さいころは人魚姫に憧れたこともあった。

 しかし、葉月さんを含め、今までたくさんの妖に出会ってきたが、これほど異世界を意識したことはない。


 私は少しだけ騒がしい心臓を落ち着かせるように、ふっと深呼吸をした。


 顔を水中から出した青年は、なぜか一瞬驚いたようにこちらを見て、すぐに顔を背けた。

 ごまかすようにひとつ咳ばらいして、改めて私たちに向き直る。


「お話は伺っております。それで……そちらがサポートしてくださる方ですね?」


「あぁ、薬師見習いの結奈さんだ。そしてその後ろにいるが、彼女の師匠である葉月先生」


「葉月先生と結奈さんですね。この度はご協力くださりありがとうございます」

 

 そう言って手を差し出す彼に、私と葉月さんも握手で応じる。


 挨拶が済むと、私は手渡された水着を持って更衣室に向かった。

 ビキニなどの遊泳用ではなく、ちゃんとしたウェットスーツだ。


 着替えを終えたころには、すでに葉月さんはいなかった。

 聞くところによると、医務室に怪我人が殺到したらしい。


 私は一人になってしまったことを心細く思いつつも、心の準備をする。

 心を落ち着けていると、ふいに船長からブレスレットを手渡された。


「人魚のウロコのブレスレットだ。これを着けていれば、30分は水中で呼吸ができる」


 そう言われて、私はまじまじと手の中のものを見た。

 キラキラと輝くウロコが、頑丈そうな金属製の輪にはめ込まれている。


 先日の不思議な雑貨屋さんに売っていたウロコを思い出して、つい疑いの目で見てしまう。


(……本当かなぁ)


「大丈夫。効果はきちんと確認済みです」


 私の様子に気が付いたオリバーさんが苦笑しつつ言った。

 にわかには信じられない話だが、しかしここで油を売っている暇はない。

 私は一つ頷くと、素直に腕に装着した。


 あらかた準備が終わると、今度はチャートや船の構造図を確認していく。

 専門的な話が続いて首を傾げる私の横で、指揮から戻って来た航海士が船長と真剣な面持ちで話を進めていた。


「あー、えっと、結奈さんでしたっけ」


 ふいに足元から声をかけられた。

 声の方に視線を向けると、オリバーさんが床に肘をついてこちらを見上げている。


「はい、薬師見習いの結奈といいます」


 しゃがんで目線に合わせると、オリバーさんはニッと人懐っこい笑みを浮かべた。


「それで、さっき一緒にいた師匠とどんな関係なんですか? 絶対ただの師弟じゃないですよね」


 敬語だから一歩引いた距離で接してくるかと思いきや、案外踏み込んでくるひとのようだ。

 しかし、不思議と嫌な感じはしない。

 私は笑顔で頷いて、「付き合っています」と答えた。


「やっぱり。でも残念です。彼、ちょっとタイプだったので」


 うふふと笑うオリバーさんに、私は一つ瞬きをした。

 驚こうとして、すんでのところで思いとどまる。


(彼って言った!? ……いや、まって。今の時代、好きな人が同姓って別に普通だよね。驚いたりしたら失礼だ)


 分かっていはいるものの、やっぱりビックリしてしまう。

 自分でも遅れているなぁと思うが、生まれて初めて出会ったのだから仕方ない。

 反応に困っている私に、オリバーさんは声を上げて笑った。


「まさかこれほど戸惑われるとは。緊張をほぐしてあげようと思ったのですが……すみません、逆効果でしたね」

「えっ、あ、緊張を……」


 どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 冗談だと分かって息を吐くと、なんだか余計な力が抜けた気がする。

 船長らの話し合いも終わったようで、いよいよ覚悟も決まった。


「あの、緊張ほぐれてきました。ありがとうございま──」 

「まあ、彼がタイプっていうのは本当なんだけど」


 お礼を言いかけていた私は、口を「ま」の形に開けたままポカンとしてしまう。

 次の瞬間、部屋中に私の驚いた声が響き渡った。

ウロコの効果が30分……。

長いのか短いのか、微妙なところですね(/. .\)

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