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トライ&エラー

 洋上生活も今日で四日目。

 到着まで一週間かかると聞いているので、今日でちょうど折り返しだ。

 気温は少しずつ上がっていき、今やすっかり春の陽気である。

 

 しかし、あの暇な日々はどこへやら、今の私と葉月さんにはバケーションを楽しむ余裕などなかった。


 風が出てきたせいで船酔いする乗客が増え、患者への対応や薬の補充で大忙し。

 たまに客足が途絶えるので、そういうときを見計らって食事をしたり、休息をとる。


 今がまさにその時間で、医務室を空にするわけにもいかないので、先に葉月さんが昼休憩に入った。

 お昼を過ぎたあたりから増えるだろうというのが、葉月さんの見解だ。


 見習いの私では対応しきれないので、自然と葉月さんの休憩時間は短くなる。


「歯がゆいなぁ。いっそのこと、本格的にこっちで薬師を目指そうかな」


 薬学書をペラペラとめくりながら、私はボソッと呟いた。


 薬師は現世でいう医者のような働きなので、当然試験のレベルも段違いだろう。

 けれど、師匠が教え上手なので、頑張ればいけるような気がする。

 

(……いや、気のせいか。まず、人間が常世で生活することが前代未聞だし)


 なかなか世の中とはうまくいかないものだ。

 私は浮かべていた空想を取り払うように頭を振って、薬棚の方に向かった。

 

「薬師になるのは難しいけど、薬学生にもできることはあるよね」


 そう自分に言い聞かせて、小瓶や薬草をテーブルに並べた。

 甘草(かんぞう)桂皮(けいひ)などの見慣れたものから、ラウファンなどの常世ならではの生薬も置く。


 棚の空いたスペースには、様々な生薬を組み合わせて作った薬液が、ビーカーの中で揺れていた。

 そのどれもが、葉月さんとともに熟考を重ねて失敗したものだ。


 目標は、少量のラウファンで大量の疲労回復薬を作り出すことにあった。


 薬師の定期往診が滞っている今、森の中で出会ったおじいさんのように、ただの神力不足で命を脅かされているひとは多い。

 

 この異常事態で起こった思わぬ二次災害に、薬師は早急に対処しなければならない。

 そう真剣な面持ちで話す葉月さんを見て、私も積極的に研究に取り組んでいた。

 

 しかし、これが中々うまくいかない。

 飲み合わせや副作用の有無を見ながら、絶妙な配分でつくり出した液剤や丸薬は、すでに何十にも及ぶ。

 なにか決定的なものが足りないのだ。

 

「……待って、思いついたかも」


 考え込んでいた私は、脳の端でなにかが光った気がして思わず声を上げた。

 もはや独り言の域を超えた声量で、ブツブツと閃きを逃さぬよう言葉にしていく。


「ラウファンには採取したひとの神力が入っているから……力を活性化させる薬草で神力を増やす……? いや、でも上手く作用するかな」


 うんうん言いながら、私は引き出しを開けて、真っ赤な花弁を手に取った。

 毒々しい色のそれは、コラソンと呼ばれるハーブだ。

 

「これを他の生薬と煎じて、その薬液にラウファンのエキスを加えて……最後に浅葱蝶に沁み込ませるっと……」


 配分を逐一記録しながら、新たな薬を作り上げる。

 薬漬けにした花弁をシャーレに移し、日の当たらない所に置く。

 作業が終わり、片付けに入ったころ、ドアの方から賑やかな声が近づいてきていることに気づいた。


「先生は狐の妖でしょう? 珍しいですよね。もしかして野狐ですか?」


「馬鹿ね。野狐は黄泉の隠れ里でひっそり暮らしているらしいじゃない。こんなところに来ないわよ。桃源郷の妖狐といったら、霊狐の方でしょう」


「でも霊狐一族は随分前に滅亡したじゃない」


 そんな話し声が聞こえてくる。


「いえ、私は気狐という妖です。ええと、桃源郷の端の方に住んでいるので、あまり知られていない一族でして……」


 続いて、聞きなれた葉月さんの声。

 会話をしながら医務室に入って来たのは、若い女の子数人を引き連れた葉月さんだった。


 ──なんかモヤッとする。

 いや、イラッとの間違いかもしれない。


(ちょっと葉月さんに近づきすぎじゃない!?)


 べったり師匠に引っ付いている女の子たちに、内心顔をしかめつつ、私は無理やり笑顔を作った。


「葉月さん、おかえりなさい。早かったですね」


「ただいま帰りました。……その、酔い止めをもらいにいらしたようです」


 困ったように笑顔を返す葉月さんに頷きながら、私はそそくさと薬を用意する。

 画期的な薬ができるかもしれないという興奮はどこかに消えてしまった。


 その夜、大きな揺れで目が覚めた。

 サイドテーブルに置いてあった薬瓶が転がって、慌てて拾いにベッドを出る。

 しかし、床に足をつけた途端、立っていられずしゃがみ込んでしまった。


「わわっ、なんでこんなにグラグラしてるの!?」


 なんとか瓶を拾い上げ、這って窓に近づく。

 カーテンをめくりあげると、私は暗がりにジッと目を凝らした。

 真っ暗で良く見えないが、どうやら海が荒れているらしい。

 

 ここで慌てていてもしょうがないので、ベッドに戻ろうとしたところで、ドアがノックされた。

 次いで、少し焦ったような葉月さんの声。

 私は手早く身なりを整えると、すぐにドアを開けた。

キリがいいようで悪いところで終わりました(  ̄▽ ̄)

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