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酒場にて

 海の見える波止場に、たくさんのお店が並んでいた。

 時間が時間なので、どの店内も真っ暗だが、これからが稼ぎ時な酒場だけは、温かな明かりと楽し気な音楽で溢れている。


 中に入って早々、美味しそうな香りと楽し気な声に迎えられた。

 ちょうど次の曲に移るところだったらしく、演奏者と思しき男性の声も聞こえる。


「次はこの地の伝統音楽だ。常連の酒飲みと、初めてチェントロネプを訪れるひとたちに捧げる。聴くも踊るも自由だ。楽しんでくれ」


 賑やかな室内に届くその声が、妙にくぐもって聞こえたので、気になって目を凝らす。

 次の瞬間、私は危うく吹き出しそうになった。


(えぇっ!? なんであのひと達、メガホン持っているの!?)


 小さなステージに上がった数名の演奏者が、そろって肩にメガホンをかけている。

 声がくぐもって聞こえたのは、どうやらメガホンを使って叫んでいたからのようだ。


「マイクを持っているなんて、ずいぶん本格的ですねぇ。有名な演奏家なのでしょうか」


 呆気にとられる私の横で、葉月さんが感心したように言う。


「えっ、マイク? あれ、メガホンですよね?」

「メガ……ホン……?」


 尋ねる私に一瞬キョトンとしてから、察しの良い葉月さんは顔を赤らめた。

 

「あの、もしかして、現世ではあれをマイクと呼ばないのでしょうか」


「はい。たしかにマイクと似たような機能を持ってはいますけど、あれはメガホンで……あっ、でも、常世と現世では勝手が違いますよね! 常世ではマイクって呼ばれているんですね!?」

 

 説明している途中でショックを受けている葉月さんに気づいて、慌てて弁明する。


 常世にあるほとんどの物が現世から来ていると聞く。

 それなら、情報を伝える過程で真実が歪んでしまうこともあるだろう。


 しょんぼりしている葉月さんを一生懸命(なぐさ)めていると、不意に私たちの背後に影が差した。

 振り返った私は、背後に立っていた女性店員に危うくぶつかりそうになって、慌てて一歩後退する。


「席は自由。メニューは各席に置いてあるから、決まったらベルを鳴らして知らせな」


 店員はそれだけ言うと、ふくよかな体を踊る客たちの合間に滑り込ませ、速やかに去っていった。


 この込み具合では仕方ないだろうが、少しそっけなさを感じてしまう。

 私と葉月さんは、一度顔を見合わせてから、素直に空いている席に座った。


 無事に注文を終えると、私は改めて店内を見回した。

 店の中は広く、木製のテーブルが一定の間隔で並んでいる。

 中央には低めの段差が設けられており、その上で楽器を持ったひとびとが思い思いに音楽を奏でていた。


 ステージの周りで曲に合わせて踊るひともいれば、ゆっくりと食事を楽しんでいるひともいる。

 そんな自由気ままな雰囲気に、私はホッとして肩の力を抜いた。

 

(なんか、すごく落ち着くなぁ。ここは政府の手が届かない場所だから、余計に)


 どっと疲れがきて、私はぼんやりとテーブルの木目を眺めた。

 周囲の喧騒(けんそう)はうるさいどころか心地よくて、もはやBGMのように耳をすり抜けていく。

 

 眠気はないが、寝ようと思えば眠れそうだ。

 しかし、そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。


「あれって薬箱……?」


 そんな声が近くから聞こえて、私はハッと意識を覚醒させる。

 向かいに座っていた葉月さんも、懐のお札にそっと手を伸ばす。


 二人そろって声のした方に目を向けると、一つとなりのテーブルに数名の男が座っていた。

 声はその中の誰かからのようだ。

 彼らは空のジョッキをいくつも机に転がせ、赤ら顔でこちらを凝視している。


「あんたら、もしかして……」


 目を細めたひとりの男が立ち上がった。

 男はそのまま引き寄せられるように私たちの方へ近づいてくる。

 一気に体が強ばるのを感じた。

21話はメガホンに乗っ取られました。

素敵紳士さんの話は次回に持ち越しです( ー̀εー́ )

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