プロローグ
「私を冒険に行かせてください」
16の誕生日俺は、父に一般的には10歳から冒険者登録をし、冒険者として活動することができる。冒険者とはモンスターを倒したり、ダンジョンを攻略したりする人間たちだ。主に冒険者ギルドで依頼を受け依頼を達成しお金を稼ぐ。目的のための資金溜めをするなんて人間もいる。
この世界に冒険者は珍しくはない。死と隣り合わせの職業だがそんなことは問題にはならない。冒険者になるようなものは皆、金銀財宝、美男美女を助けるそんな浪漫を胸に抱き冒険者ギルドの門を叩くのだから。
そんな感じで俺が普通の16歳なら何一つ問題なくこの願いは叶えられるのだが、
「何を言っているイアリ、王子のお前が冒険者になりたいだとぉ」
王子の俺が冒険者になれるはずもなく、
「その願いは叶えられん、お前は王家の人間、王家の人間が死と隣り合わせの職に就くことは許され無いのだ」
父親だが一国の王に意見を言っているんだ。怖いに決まってる、だが諦める訳にはいかない。それに俺は知っている。父様は俺に甘い。
男には勝負しなければいけない時があるんだ、それが今だ。
「5年間だけでいいのです。私には成し遂げなければいけないことがあるのです」
俺には成し遂げなければいけないことが、王子の任と同じかそれ以上に大切なことがあるのだから。
「今日はどうしたのだ?お前らしくもない、お前ならばわかるであろう」
王である父は、お前がわからないといった表情でしかし優しく語り掛けてくる。
「わかっています、それでもやらなければならないのです」
生まれてこの方親に反抗などしたこともない俺の初の反抗。正直かなりきつい。もうやだ、ベッド入って寝たい。本当に王子なのかわからなくなりそうなネガティブ思考に陥っていると、
「わかっていてなお、押し通そうとする理由はなんだ」
一度も反抗したことのない俺の唯一の反抗理由を父は聞いてくる。
「夢を見ました」
「ん?」
さっきまでの威厳がどこにいったのか、父は間抜けな声を発する。
こんな父は初めて見たぜ。
「夢を見ました。女性が悪魔に囚われている夢を、もう100回は見ました。その人を救うことが私の使命です。」
そうこれこそれが成し遂げなければいけない最重要ミッション。囚われの女の子を救う。
さて父様はどんな反応を?
「で、わかっていてなお、押し通そうとする理由はなんだ」
うんまさかの無視ですか。そうですか。ならばこちらも、
「夢を見ました。女性が悪魔に囚われている夢を、もう100回は見ました。その人を救うことが私の使命です。」
一言一句同じ言葉を繰り返す。
「聞き間違えじゃないんじゃな?」
間違いであって欲しいという強い願いを感じるが、ここは嘘を吐くことはできない。
「はい、もちろんです」
キッパリと言い切る。
「詳しく聞こう」
父は真剣な顔で問いかけてくる。
「その夢を初めて見たのは10歳の誕生日です、それから何度か同じ夢を見ていて、最近は毎日同じ夢を見ます」
「そこでこれは何かのメッセージなのではないかと考えるようになり、今に至ります。冒険に行きたいというのも、別に冒険者になりたいという訳ではなく、その人を助けることができればすぐにでも戻ってこようと思っているので、死と隣り合わせの冒険をするわけではありません。」
これは本当で、別に冒険をしたいわけではない。しかし長旅になるのでその分金が必要になり、冒険者になると都合が良いのだ。
「そうか、しかしその囚われの女性を救い出すのに5年もかかるのか?」
当然の疑問だ。
「はい、自分はそう考えています。場所はおそらく魔界ですので」
夢で見たのは間違いなく魔界だった。まあ魔界でも5年はかかんないけどね。
「魔界だと?」
父の顔が少し強張った。それもそうだ、魔界なんて魔神が統べるといわれる危険地帯なのだから。
「ですが父様、魔界といっても下級悪魔が生息するイニティウムの森付近だと思われるので、そこまで危険ではないかと」
「そうか、しかし5年は長すぎる、お前は優秀だが5年は大きい。王になるための勉学もあるのだ、せめて3年だ、これがわしのできる最大の譲歩だ」
「十分です。ありがとうございます父上」
ダメもとで5年っていったけど、三年も貰えちった。
ラッキーだぜ、やはり俺に甘いな父よ。
そんなこんなで俺は冒険に出ることを許された。
待っていてくれ囚われの女性よ、俺が必ず助け出してみせるぜ。