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落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~  作者: みなかみしょう
第一章『おちこぼれて新天地』

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9.初日から大変です(2)

 大変なことになった。

 今日は色々なことが起きる日だけど、これは極めつきだ。

 正直、どうしたらいいかわからない。頭を抱えている。


「さて、どうしたものか……」


 机の上に並んだ錬金具の数々を見て、私は何度目かわからない言葉を呟く。

 そこに並ぶのは十本ほどの各属性の錬金水。それと、金属に覆われた、一部が露出した小さなガラス玉。こちらは中をよく見ると属性に応じた光がちらついているのがわかる。

 フェニアさんに依頼されていた水、火、光の球である。

 ここにあるものは全部私が作った。一人で、ついさっき、錬金室で。レシピ自体は簡単だったのですぐに完成した。


 属性を扱うというのも、やってみればあっさりしたものだった。体が理解したというのだろうか、レシピに記された属性に従った魔力が自然と錬金杖から溢れ出てきた。


 きっと錬金水を飲むという行為は、これができるようになる「きっかけ」なのだろう。練習を重ねる内に突然、それまでできなかったことができるようになる。そんな経験はこれまで何度かある。


 問題は私に全部の属性を扱えたことだ。

 通常、属性錬金術は一人一属性。複数属性を一度に扱えるなんて聞いたことがない。

 これはどうしたことだろう。なんか私の体に問題があるのだろうか。


 水の球を手に持って、中の光を眺めながら考える。ちなみに錬金具としてはどれもちゃんと稼働する。さっき工房の設備で確認した。


 ……落ち着いて状況を整理してみよう。


 まず、私はリベッタさんに教わったように錬金水を飲んだ。試しに全属性の錬金水を体内に納めてみた。体に変化はあったけれど、すぐ治まった。

 その後、属性付きの錬金術ができるか検証のため、レシピを準備。地水火風の各錬金水の製造及び、依頼されていた錬金具の製造に成功した。


 つまり、予定通り私は属性付きの錬金術に成功したわけだ。万歳、やった。


 問題は、複数属性を扱えてしまったこと、その一点だ。

 これについては相談すれば解決するかも知れない。属性水の件のように特級錬金術師だけにしか知らされていない情報で『実は複数属性使えるのが普通です』みたいな話かも知れないし。


 相談相手の候補は二人。ハンナ先生とリベッタさんだ。そのうち、ハンナ先生とは手紙でのやりとりになるので時間がかかりすぎる。手紙が一往復するだけで二十日くらいかかるのは、私の精神衛生上良くない。

 だとすれば、相談すべきはリベッタさん。現状もっとも話しやすい特級錬金術師で、そもそもこの件の仕掛け人だ。


 よし、次にやるべきことが決まった。

 明日の昼間、リベッタさんに報告と相談だ。


 色々と作業したり、考えている内に窓の外は真っ暗になっていた。さすがに今から訪問するわけにはいかない。

 それになにより、現在進行形で私にとって大変なことが起きていることに気づいた。


「……おなかすいた。ねむい」


 そういえば、この街に来てから水とお茶と携行食くらいしか口にしていない。

 本当はフェニアさんの店に挨拶した後、どこかで食事したり、買い食いするつもりだったのだけれど。

 仕方ない、それどころじゃなかった。食事とか気にしてる場合じゃないくらいの出来事があった。今日この日、人生に二度目の変化があったのだから。

 我ながら浮き沈みが激しくてびっくりだ。


「お風呂の錬金具、動くかな……」


 誰とも無く呟くと、私は椅子から立ち上がる。多めに作った水の球と火の球を手にとって室外へ出る。お風呂は一階だ、錬金具を動かして入ろう。この町に来た時から入ってないのが今更ながら気になる。


 属性付きの錬金術に成功したおかげで自分の中で一段落ついたのだろうか。疲労と空腹と眠気で体の動きは遅いけれど、足取りは思った以上に軽かった。


 この後、水と携行食を食べてからお風呂に入り、暖まった体のまま寝室に向かった。足下が怪しい。あとちょっとこの行動が遅ければ、作業室でそのまま寝ていたかもしれない。


 ……あ、これは寝れる。


 ベッドに入った瞬間押し寄せた眠気に、私は一瞬で確信した。

 心地よい疲労感と、満ち足りた心境。その二つに包まれながら、私は久しぶりに安らかな眠りに誘われていった。

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