第5章 碁帝戦をするに於いて
囲碁部にも、勿論大会は在る。また、其処では各人の段級位、即ち囲碁の強さも認定して貰える。但し其の為には、自ら認定して欲しい段級位の程度を事前に申請せねばならない。此処で気をつけねばならないのが、申請段級位より高い段級位が認定される事は有るが、申請段級位より実力が低い場合は何も認定して貰えないと云うことだ。従って、部員各人の申請段級位は結構重要になってくる。そこで、申請段級位を決めるのに手っ取り早い方法として、内田先輩は総当たりによる部内リーグを提案した。僕は其れを碁帝戦と名付け、早速某表計算ソフトを用いて対戦表を作り、A4の用紙4枚に大きく印刷した。
次の日。僕の作った表は、部室の壁の真ん中にセロハンテープで貼られることになった。因みに此れを貼るときに気づいたのであるが、何故か此の部屋の壁には「森の妖精の香り」と書かれた芳香剤のステッカーが貼られて居る。僕はこういうものを見るとついつい、「此れを作った人は森の妖精の香りを実際に嗅いだことがあるのであろうか?」などと云うことを考えて仕舞う。
さて、碁帝戦初日、僕の相手は仁科さんと云うことになった。尚、今回の碁帝戦では、正確に段級位を測定せねばならないので、実力差をしっかりとはかるため手加減は禁止されている。正直大差がつくのは経験の差から明らかであったが、まあ致し方ない。
...だからって神様、これはあんまりじゃないですかね?...、なんて僕が思ったのは、予想以上に大差がついてしまったからだ。最終結果は僕が200丁度、仁科さんは-23、合計してコミを入れると229目半差で僕は圧勝して仕舞ったのだ。此処で囲碁をしたことがない人に向けて簡単に説明すると、囲碁とは碁石と呼ばれる石で囲った陣地の広さを競うゲームである。但し、自らの石は相手の石で四方を囲まれると取り除かれ、自分の陣地に埋められてしまう。即ち、陣地よりも多く石を取られると陣地は負の数になってしまうと云う訳だ。又、囲碁では先攻と後攻では先攻の方が有利なので、ハンデとして後攻には6目半(目とは陣地の広さの単位)を足すという規則も存在する。此れが先述したコミだ。因みに碁盤に置ける碁石の数は361。従って、200目差を超えると云うのはある種異常と言えるであろう。此れをいきなりやられれば、誰だって傷つくこと間違いない。
正直、やり過ぎたと思って深く反省している。許して下さい何でもしますから(何でもするとは言っていない)。