第1章 待望の新たな学び舎に於いて
非常に面倒な白附坂を登りきり、高校の校舎に辿り着いた。其処には、新たなクラス分け一覧表があった。僕と同じクラスになったのは、伊集院の他に、中学の時仲の良かった尾崎や梶、鹿野田、宮森などで、担任は古賀という優しそうな女教師であった。これは入学早々、なかなかいい出だしなのではないか、と僕は内心ホッとしていた。
さて、恒例の退屈な校長や来賓の御言葉を延々と聞かされる、面倒臭いだけの入学式や、よくわからない書類提出など、無味乾燥な雑務を済ませただけの1日目に対し、登校2日目は在校生による歓迎会が催された。歓迎会と言っても、体育館に全校生徒が集まり、在校生の先輩達が校内のあれこれを教えてくれる、といったものである。実は、僕はここで楽しみにしていた物が在る。部活紹介だ。というのも、僕は中学三年間、囲碁や鉄道旅行という趣味が有るにもかかわらず、其れ等が活かせる部活がなかった為、卓球部で1番下手な人間として放課後を非常に無為な時間として過ごしてしまったのである。まあ、女子には流石に負けなかったし、生徒会の企画だか何だかで各部活のホームページを作ったときくらいは少し貢献出来たのであるが。まあそういう訳で、この学校には囲碁部があると知っていた為、僕は部活紹介が始まるやいなや、囲碁部の出番を待って居たのである。
因みに余談になるかも知れないが、この歓迎会で気づいたこととして、この学校に入学して本当に良かったと思えることがあった。この学校は自由な校風とあって非常に面白いということだ。というのも、側から見たらそこそこの高偏差値校だということが信じられず、正直馬鹿なのではないかと思える程、みんなが好き勝手している。また、制服も無い。そんな自由さから、部活紹介も様々なものがあり、囲碁部以外のあまり興味の無い部活の部活紹介も、結構楽しく見ることができた。僕も自分で言うのもなんだが多少は変わった人間だという自覚はあるので、この校風は自分に非常に合っている気がする。そう思うと、大分気が楽になった。そう、気が楽になっていたはずだったのだ。然し、事件は起きた。
「次は、囲碁部の部活紹介です。囲碁部の皆さん、お願いします。」
其の案内放送を聞き、僕は待ちに待った囲碁部の紹介を見ようと顔を上げたのだ。上げて驚いた。これは正直言って予想外すぎる。と、いうのも、
馬鹿が、居たのだ。
いや、10人前後の部員が、原稿をスマホで見ながら喋っている、其処は、まあ囲碁部にしては人数が多少多いかも分からないが、何の問題もなかろう。其処に限っては。問題は、その十数人の前、つまり我々にとって手前で、唐突に碁盤と碁笥と碁石を搬入し、早碁、其れも無意味な手を連発して滅茶苦茶な早碁を打つ、明らかにうるさそうな人と、体の小さい頭のてっぺんが白髪の人。この二人、はっきり言って本当に何をやっているんだかと思うし、見ているだけで正直笑いがこみ上げてくる。
此れが彼等2人と囲碁部の先輩として出会った、其の瞬間である。そしてこの時、この二人が今年一年、いや其れ以降も、僕の人生を大きく(?)変える事になるのだということを、僕はまだ知らなかったのである。それどころか、思いもよらなかったのである。
因みにうるさそうな方は、このあと放送委員会の説明で委員長として再度登場し、「委員会を何かしたい人は放送委員」「何もしたくない人も放送委員」「サボりたい人は放送委員」というこれまた馬鹿で無茶苦茶な勧誘をしていた。本当に馬鹿ではなかろうか。
然し、実を言えば僕は知っていた。この人と僕は、初対面ではないことを。