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第7話『英雄の伝説』

 ケルニスに説明してもらいながら、歴史書を読んでいく。過去にこの世界に転生してきた男がいるらしい。その男はかつてこの世界を堕とそうと目論んだ大魔王を倒し、消えてしまったという。

 同じようにオレにも使命があるのだろうか。


「……この大魔王はどんなことをしたんだ?」

「大魔王ヴェルドは魔界から人間界に入り、一つの大陸を支配し始めたの。この地図を見て」


 ケルニスが机の上に地図を開く。部屋の壁にある地図よりもハッキリと書かれている。


「この、左下にある大陸が『アインスフォイア』よ。わかるかしら?」

「真ん中に湖がある大陸か」


 左下にあった大陸だ。他の大陸から離れているせいで魔王の侵略が遅れたのだろう。


「そう、その湖から大魔王が出てきたと言われているの。大魔王ヴェルドはその大陸に住んでいる亜人や人間、獣人を虐殺し、支配した」

「そいつを英雄が倒した、と」

「うん。あいつ、私の話何も聞かずに突っ込んで倒しちゃうんだもの、さすがの私も開いた口が塞がらなかったわ」

「え、単独で倒したのか?」

「ええ、彼一人よ。時空に歪みができたから見に行ってみたら人が空飛んでるんだもの、驚くでしょ」

「それは、すごいな……」


 人が空を飛ぶって、それも魔法かなにかだろうか。ホウキとか乗ってたりしない?

 話を聞く限り、その人はすでに戦いを経験している人ということだ。日本からの人じゃないのかもしれないな。


「強いなんてものじゃなかったわ。襲われている村にいた魔物を全滅させたと思ったらそのまま湖に直行。数分で大魔王を撃破。……今でもよく覚えているわ。何百年前だったか忘れたけれど」


 何百年前、ねぇ。女神というからには、長い時を生きているのだろう。下手したら何千年や何万年だ。


「ケルニスの歳はいくつなんだ?」

「ひ、み、つ」

「……」


 うわきっつ。歳考えてくれ。見た目は美人だけど。見た目は若いままで歳をとる、ね。どんな気持ちなのだろうか。


「あ、そうだ。ケルニスってオレが死んだこと知ってるんだよな?」

「日本で死んだことよね? 残念ながら死んだところは見てないわよ」

「そうじゃなくて、こっちの世界で一回死んだだろ?」

「え? なにそれ。私そんなの知らないわよ?」

「え?」


 ケルニスは前の世界、オレが死んだ世界のことを覚えていない?


「オレの魔眼って、死んだ時に時間が巻き戻る魔眼、だよな……?」

「私が見た限りは時間制御、時間を操ることが出来る魔眼よ。……死んだ瞬間に発動する能力、か。無いとは言いきれないわね」


 ということは、魔眼の能力のうちの一つが発動したということだ。死ななくても時間を巻き戻すことが出来るかもしれない。

 そのためには魔力というものを使いこなす必要がある。しかし、魔力の使い方などが記されている本を読んでも多分わからない。

 ケルニスに説明してもらおうか。いや、直接習った方が早いかもしれない。


「ケルニス、この後時間あるか?」

「少しなら……あ、そういえば貴方って日本から来たのよね? あの男と同じで」

「あの男って?」

「だから、さっき言った大魔王を倒した男」


 え、その人日本人だったのか。だとするとますます謎だ。日本人に空を飛べる戦闘民族はいない、最初から能力を使いこなすだなんて、明らかに異常だ。……インド人ならワープくらいできそうだな。

 まあ、その英雄についてもそのうち分かるだろう。


「それで、貴方が日本から来たことについてなんだけど……貴方、どんなふうにこの世界に来たの?」

「……自殺」

「……! 言いたくないかもしれないけれど、自殺の理由について聞かせてくれるかしら?」

「妹が……死んで……生きてても意味ねぇって、それで……」


 絞り出すように声を出した。何かわかるかもしれない、その思いだけで喉に空気を通した。


「妹さんは、どこで命を落としたの? 時間は?」

「……病院だ。時間か……冬の夜だな」


 この質問になんの意味があるというのか。あの日のことは思い出したくない。なのに、あの日の冬花の笑顔が忘れられない。


「やっぱり。じゃあ、病院に行く途中に変な女の人に会わなかった?」

「は? 病院には急いでたから真っ直ぐ……あっ」


 会っている。茶髪ロングの女性に。

 その時の女性の顔とケルニスの顔を重ねる。同じ顔だ。ということは、あの時の女性はケルニスということになる。


「そうよ、あの時私と貴方は会っている。顔が変わっていて気づかなかったけどね。私は時々日本に迷い込んだ魔物を駆除しているの。あの日もそうだった」

「じゃあ、冬花は魔物に……?」


 ケルニスが魔物を倒していれば、冬花は助かったかもしれない。なんで、なんで助けてくれなかったんだ。あの時オレが向かった先、病院に魔物がいるとわかっていたのに。


「魔物、ではなかったわ。あの日、魔王級の強さの魔族が日本にいたのよ。私一人じゃ何も出来ない、だから仲間を待っていたの。ごめんなさい、あの時私は貴方を見殺しにした。死んでしまうと思っていながら止めなかった」


 あの時、ケルニスが悲しそうな顔をしていたのはそのせいか。考えずに、憎んでしまったことに罪悪感を感じる。……もっと心に余裕を持たなければ。


「……いや、あの時ケルニスに止められていてもオレは病院に向かっていた。気にすんな。なあ、なんで冬花だけが狙われたんだ?」

「ありがとう。妹さんが狙われたのは……魔力を持っていたから、じゃないかしら? 貴方も魔力を持っているわ。日本に迷い込んだ魔物は魔力を持った人間を襲い魔力を得ようとするから」


 オレの家族全員が魔力を持っていたとしたら、親の死因も魔物の可能性がある。……考えすぎか。


「冬花……妹の胸には黒い傷があった。その傷を見たあと、ドス黒い声が聞こえた。「良い収穫をした」って」

「良い収穫……? 魔力の事かしら。そういえば、貴方は襲われなかったの?」

「ああ、何もされなかった」


 冬花を殺して、その魔族は帰って行った。オレには目もくれずに。何か目的があったのだろうか、それとも、もう魔力がいっぱいだっただけだろうか。

 どちらにせよ、あの時オレも殺してくれればよかったのに。突然死んだらパニックになるからか? あー、死んだように見せかけるには病院が最適なのか。つくづく運の悪い……。


「ありがとう。そしてごめんなさい。辛いこと思い出させちゃったわね」

「いい。むしろ、その魔族をぶっ殺してやろうとやる気が出たくらいだ」


 ただ妹を探して生きるつもりだったのだが、妹を殺した犯人がいると知ったからには予定変更だ。

 妹を探しながら、その魔族も探そう。目標追加だな。


「それじゃ、私はそろそろ仕事に行くわ」

「もう行くのか?」

「ええ、暇とはいえ、少しは仕事があるのよ。妹さんみたいな被害者を出さないために、行かなければならないの」

「そうか……頼む」

「さらば!」


 一瞬風が吹き、目を閉じた。瞬きをした瞬間にケルニスは視界から消えていた。……本当に女神なんだな、あいつ。

 そんなことを考えながら、夜遅くになる前に本を数冊借りようと再び本棚を漁るのだった。

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