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第6話『時の女神』

 与えられた仕事が終わり、昨日購入したパンを食べ、自由時間となった。

 奴隷街での仕事は本当に単純で、運ばれてきた食糧の運搬したり洗ったりする仕事や、店の掃除をする仕事などだった。

 正直、あまりキツいとは思わなかった。元の世界での重労働が、どれほど過酷だったか思い知らされたオレであった。


 なぜ文明レベルが低いこの世界の方が仕事が楽なのだろうか。普通、元の世界くらい文明レベルが上がっていたら色々と楽になるはずではないのだろうか。

 考えていてもキリがないので、情報を手に入れるために図書館に向かう。南東部の街ではかなりの大きさの図書館は、スレイヴィア魔法図書館というらしい。


 しばらく歩くと、大きな門が見えてくる。東の門はここのことだろうな、てことはこの近くに魔法図書館があるはず。

 門付近の建物を見ると、頭一つ大きい建物が目に入った。あれが図書館だろうか。


「でっか」


 図書館の目の前に立つと、その大きさに気圧される。図書館は確かに大きいイメージがあるが、この建物は別格だ。とりあえず中に入ろう。


「」入館料は要らないようだ。庶民に優しい図書館、素晴らしいじゃないか。


 図書館の中は、無数の棚で埋め尽くされていた。天井まで届く勢いの高さの棚には、本がぎっしりと並んでいた。


「本好きが来たら卒倒しそうだな」


 そんな感想を抱くくらいには、本の数が多いのだ。一生を掛けてでも読み切れる気がしない。


「歴史書は……どれだ?」


 広すぎて探し始めることすら躊躇ってしまう。無難に端から探していこうか。


「どうかなさいましたか?」


 背の低い女の子が話しかけてきた。ここで働いているのかな? 随分と若そうだけど。とりあえず歴史書の場所を聞こうか。


「えーと、歴史書ってのはどこにあるんだ?」

「歴史書でしたら目の前の棚がそうですよ、ここの棚は全て各地の歴史が記されている本ですから」

「そっか、ありがとう。……目の前かよ」


 なんて恥ずかしい。目の前の本が歴史書だったとは。

 近くのイスに座り、本を開く。そこにはこの世界の文字であろう記号が並んでいた。


「……あれ?」


 読める、見たこともないのに。

 確か、この本のタイトルは……奴隷の種類と扱い。

 何故だ、何故読める。この世界に来たついでに読めるようになったのだろうか、全員が日本語を話していることと関係がありそうだ。


「やっと見つけたわ」


 専門的な言葉が大量にある本に頭を抱えていると、目の前に茶髪ロングに真っ白な服を着た女の人が座り、話しかけてきた。え、誰。すごい綺麗な人。で、誰。あと誰。


「……誰だ、お前」

「貴方の正体を知る者、と言えばわかるかしら?」

「正体……ってことはオレがここに来たことを知っているのか!?」

「しっ、ここは図書館よ。少しは抑えなさい」


 思わず声が大きくなってしまった。図書館では静かにするという常識は、この世界でも適用されるらしい。


「わ、悪い。それで、お前は……?」

「女神……って言ってもよく分からないわよね。そうね、貴方の魔眼と同じ力の最上位に位置する存在よ」

「もっとわかりずらいな」


 そもそも魔眼ってなに。邪王真眼的な感じ? あれは中二病か。でも女神とか言ってるし、中二病的なことだよな。


「立場的には時を操る女神、かしらね。ティーンときた?」

「時を……? やっぱりあの時……」


 死んだ後、何故か広場に立っていたことを思い出した。痛みなんてないのに、あの時の感覚を思い出して、気がつかないうちに腹のあたりを手で抑えていた。


「多分、そう。貴方の魔眼よ。貴方の魔眼は時間制御(じかんせいぎょ)、私と同じ時を操る能力」

「魔眼、と言いましたよね。魔眼とはなんですか?」

「極稀に誕生する能力よ。魔眼使いは魔法では到達できない力を秘めた存在で、能力の発動時に右眼に魔力が集まり目が赤くなることから魔眼と呼ばれるようになったわ。ま、正確には特殊能力ね」

「右眼……」


 涙が出たから熱くなったのかと思っていたが、あの時、目が熱くなったのはオレの魔眼が発動していたからか。だから時を遡ってあの広場まで戻っていた、と。


「あ、自己紹介がまだだったわね。私は時の女神ケルニス、貴方は?」

「レイジだ」

「レイジ……貴方日本人?」

「そうだが。なんだ、なんか知ってるのか?」

「……いえ、その話は後にしましょう。長くなるから」


 気になる。日本を知っているのなら生前の、日本のオレも知っているかもしれない。……そういえば女神と言っていたな。女神ならば、妹がここに来ているかどうかも知っているのでは……?


「妹っ! オレの妹はこの世界にいるのか!?」

「落ち着いて。私は貴方が魔眼を使ったことに気づいて探しに来たの。貴方の妹さんがどうとかはわからないの」

「そう、か……」


 この女神様は、オレが死んで魔眼を使ったことで見つけ出してきたのだ。時の女神なのだから、全てを知っているものと思っていたのに。

 だけど、オレ以外にも転生者はいるかもしれない。まだ希望は捨てちゃいけない。


「そんなしんみりないで、貴方が日本から来た転生者なら、妹さんもこの世界に来た可能性が高いわ。気を取り直して、貴方のことについて話すわね」

「……ああ」

「まず、さっき言った転生者について。転生者は魔力回路が複雑じゃないから、魔眼使いになる確率が高いの。魔眼を持っているのはそのせいね。そしてもう一つ、転生には何かしらの理由がつく。でないと、転生なんてしないもの」

「意味もなく転生されたわけじゃないってことか」

「そうよ。もしかしたら、すごい大役があるかもしれないわね」


 すごい大役ってなんだろう。もしかして魔王を倒してこい、とかだろうか。いくら死に戻りができても、ただの人間にそんなことできるわけがない。


「それで、女神様はオレに何か用があって来たんだよな?」

「ケルニスでいいわ。特にはないけど、どうしても同じ能力が使えると気になるものなの。女神って暇なのよ?」


 用がないのに会いに来たってことか。でも、そのおかげで自分の持っている力を知れたし、よしとしよう。

 ……この人、暇なんだよな?


「ケルニス、この本読むの手伝ってくれない?」

「私暇じゃないんだけど?」

「自分で暇って言ってたじゃん」

「……まじで?」

「まじで」


 どうやらボロが出ていたようだ。そうか、女神って暇なのか。時の女神というからには、すごい人なのかと思っていたが、そうでもないのかもしれない。

 暇ならば、仕事を与えてやるのが優しさというものだ。オレは、この女神様をこき使うことに決めた。

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