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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女覚醒編

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第七話


「……もう、朝ですのね。」


 タチの悪い嵐のような騒動から一夜明け、ルクレツィア達と別れた後は王城の自室に戻り就寝したセレスティナ。


(……やはり、夢オチということはありませんでしたわね。)


 セレスティナとしては、転生前の記憶が蘇ったことや、乙女ゲームのような出来事の起こった世界で生きているなど、転生前の自分が見ている可笑しな夢だったと夢オチを期待していた。

 しかし、窓辺から降り注ぐ太陽の柔らかい光や小鳥のさえずりに目覚めた場所は、就寝する前と変わらぬセレスティナの私室だった。


(少なくとも、少女趣味のお姫様チックな内装でなかったことは救いだわ。)


 生まれ変わった前後での好みの違いがほとんど無かったことに、セレスティナは安堵のため息をつく。

 周囲を見渡せば、セレスティナ好みの柔らかい色で纏められ、可愛過ぎることのない上品な家具で揃えられた見慣れた私室が広がっている。


(……これからのことと、私自身の今の立場を整理する必要がありますわ。)


 薄い紗で囲われた天蓋付きの一人用とは思えない柔らかな寝台から身体を起こしたセレスティナは、白を基調とした机へと向かう。


(まず、私自身のこと……。

 第一王位継承者でありながら病弱な身ゆえに、異母弟であるライナスに今まで遠慮してましたわ。

 昨日の婚約破棄が起こるまでは、侯爵家出身の第一側妃(はは)を持つ(ライナス)が一番王位に近かった。

 他にも王位継承権を持つ者はいますけれど、王国で一、二を争う公爵家の令嬢との婚約も幼い頃より決められ、側室(はは)の実家の後押しもある彼が王になる可能性は高かった。

 私が王家の一族の中でも血の近い方を婿に迎え、女王として王位を受け継ぐという手もありますが、この世界での妊娠・出産はまさに命懸けのこと。

 それに耐えられるかも、次代を残せるかも分からぬ(セレスティナ)では余計な混乱を招きかねません。)


 だからこそ、ライナスとルクレツィアを婚約させて、第一側妃(ほしゅは)の影響を牽制した上での即位の流れに持って行きたかったのでしょうね、とセレスティナは王達の胸の内を推測する。

 王達の本音としては、出来れば保守派の血筋が濃いライナスを王位に据えたくは無かったのかもしれない。


 大陸内でも特に強い力を持つ大国、ベルフォード王国。

 ベルフォード王国だけの問題ではないが、数十年に渡り新たな開拓や事業が進むわけでもなく、経済は停滞、もしくは緩やかな衰退の兆しを見せ始めている。

 そんな国の状況を打破するために新たな改革案を推し進め、血筋や地位が低くとも有能な者を重用したい“改革派”と、昔ながらの方法で政を行えば十分であり、個人の能力よりも貴族としての血筋が一番重要であると考える“保守派”で意見は真っ二つに割れていた。


 保守派の筆頭とも言える侯爵家を血族に持つ(ライナス)と改革派の筆頭とも言える公爵家を血族に持つ王妃(ルクレツィア)

 改革派な現王達としては、ライナスが王位に継ぐまでにみっちりと最終指導をするつもりだったに違いない。

 逆に保守派の侯爵家の方もライナスへの影響力をさらに高めようと動いた可能性が高い。


 そんな謀略知略の渦中の中心だったはずのライナス。


 ライナスの思考を染め上げ、仲間に引き入れた方が次代の政治という盤上で、優位に一手を打つことが出来たはずだったのだ……昨夜までは。


(ですが、そんな陛下達の計画を根本からひっくり返した昨夜の一件。)


 ライナスはライナス自身が王位に継ぐための条件の一つと言える、陛下だけでなく、両派閥が認めた公爵令嬢との婚約を衆目の面前で破棄してしまった。

 しかも、不確かな証拠を基とした無実の公爵令嬢に対する非礼、非道のオンパレード。


(どうしようもありませんわね。

 こういったライナスの状況を“つんでる”と言うのでしたか……?)


 第二王位継承権を持ち、貴族内でも力を持つ侯爵家の後押しもあり、王位を継ぐという道が拓けていたライナスの起こした騒動は見過ごすには致命的すぎる。

 ライナス以外にも王位継承権を持つ者は他にもいるのだから、改革派な王達が保守派の血筋の王子(ライナス)を守ってまで王にする必要はないのだ。

 逆を言えば、改革派に属する第三、第四王位継承者に王位を継がせる方が都合が良い。


 そこまで考えてセレスティナは一度己の思考を止める。


(……私はあまりライナスの立場が悪くなっても悲しいとは感じませんのね。)


 一応なりとも弟ではあるライナスの失態に対し、セレスティナの心が痛むことは不思議なことにあまり無かった。


(前世の私にも兄妹はいました。

 彼らに対して感じていた情を、ライナスに対して感じないのは生まれ育った環境の違いなのでしょうか?)


 思い起こせばセレスティナがライナスと関わる機会は滅多になかった。

 何かの式典などの際に顔を合わせることがあっても、他者の目がないとき(侍女などはいたが)のライナスの態度はお世辞にも良いものではなかったのである。

 ……おそらく、そんなライナスの態度は第一側妃の影響が強かったのだろうと、セレスティナは推測する。

 言葉こそ多少は選んでいるつもりだったのだろうが、何処かセレスティナを見下し、嘲るような色は隠れていなかった。


(……まあ、気弱な私でしたら何も言わずに耐えるのでしょうが、私は御免ですわね。

 あんな外見だけの我儘な癇癪坊やに見下される理由もなければ、謂れもありませんもの。)


 記憶を思い出す前とは全く違う己の思考回路に、セレスティナはクスリと笑みをこぼした。


 そして、ある程度自身が置かれた立場に想いを馳せたセレスティナは、今後の自身の動きに関して思考を巡らせていく。


(ライナス達へのお仕置きについては陛下達の領分。

 ですが……あの程度の輩に記憶を思い出す前とはいえ、見下されて好き勝手言われたままで、全てが終わるのを黙って見ているなんて芸がありませんわ。

 第一、ライナス達の嫌らしい婚約破棄のやり方も、あんなアホ王子にこの国の行く末を託そうとしていた過去の自分も、とても、とても、腹立たしい。)


 セレスティナはにっこりと以前の彼女が浮かべることなどな無かった好戦的な笑みを浮かべる。

 そして、セレスティナは己自身が持つ立場、権限、資金など、使えそうな物を考え続け、生まれ育った王国のために出来ることを推測していく。


(ここは現実、病弱な身の上で、命も一つ限り。

 ですが、やって、やれぬことはないでしょう。

 やられたから、やり返す、なんてことは言いませんわ。

 ですが、私自身の出来ることを成し、その成果を持って見返すことは許されるでしょう。)


 頭の中で過去の記憶を掘り起こし、使えそうな物を取捨選択しながら、セレスティナは優雅に微笑む。

 その微笑みには、今にも消え入りそうな儚さなど微塵も無かった。


「ふふふ……。

 すでに男爵令嬢という予想外の存在(コマ)に盤上は荒らされてはいますが、私という存在(コマ)がさらに荒らしてはいけないという規則(ルール)はありませんわね。

 ……ここからは、遅まきながら私も参戦致しましょう。

 ただし、私が欲するものは王位ではありません。」


 生まれる前の記憶を持たなかったセレスティナは争わないことで国を守ろうとした。

 だが、生まれる前の記憶を思い出したセレスティナは別の方法で国を守り、己の心のままに行動すること決めた。


「私は、私自身がやりたいように、やらせて頂きますわ。」


 自身に満ち溢れた晴れやかな笑顔を浮かべたセレスティナの決意を知る者は、この時はまだ誰もいなかったのである。




※※※※※※※※※※




「失礼します〜。

 おはようございます、セレスティナ様!

 昨夜は色々と大変でしたが、お加減は如何ですか?」


 セレスティナが目覚め、今後の行動について考えを纏めてから暫く後に、侍女であるミオンが姿を現した。


「おはよう、ミオン。

 少しだけ体がだるいですけれど、よく眠れたお陰か熱は出ていないと思いますわ。」


 ミオンが来るまでの間に書き上げた数枚の手紙を机の上に残し、セレスティナはミオンへと向き直り、微笑みかける。


「良かったですぅ!

 セレスティナ様の体調が悪くなっちゃったらどうしようかと……!

 ではでは、朝食は少しだけでも召し上がれそうですか〜?」


 無理なら薬湯だけでも……!と、眉をハの字にして問いかけるミオンにセレスティナは一瞬だけ間を置いて答えた。


「……そうですわね、ミオン。

 一応、料理長へ相談したいのですが、野菜を細かく切って、柔らかく煮込んだスープは作れるかしら?

 あと、小さな具沢山ではないパンもあると嬉しいけれど、やっぱり難しいですよね。

 ですが、今日すぐには無理だと思うから、出来るならば明日以降お願いしたいと思っているの。

 私には朝から他の方々と同じ料理はちょっと辛くて……。」


 セレスティナの頭に浮かぶのは、過去に並べられた朝食の数々だった。


 分厚いハムと卵、濃厚なチーズが乗った大きめなパン。

 バターをたっぷりと使った野菜とハムの混ぜられたオムレツ。

 大ぶりの野菜と肉の入った濃厚な味付けのスープ。

 添えられた野菜にはオイルたっぷりの調味料がかけられ、一緒に芋のような揚げ物が並んでいる。

 そして、デザートには色とりどりのフルーツとパンに似た何かがあるが、それにはたっぷりのシロップのような物がかけられていた。


「私の我儘だということは十分に分かっているのですが……どうしても、食べられなくて。」


 思い浮かべただけでお腹一杯になりそうな料理に、セレスティナは申し訳なさそうに顔を曇らせる。


「野菜を細かく切った野菜のスープですか?

 ん、ん〜……一応ありますよう、セレスティナ様。」


「本当ですか、ミオン!」


 躊躇いがちに答えたミオンへとセレスティナは嬉しそうに笑う。


「でもでもぉ〜……その、え〜と……その感じの料理だと中級以下の使用人向けの料理内容になっちゃいますよう。」


 王女であるセレスティナへ使用人用の料理を提供して良いものなのか、ミオンは頭を悩ませる。


「そうですか……。

 でも、そういう内容の料理の方が私は食べられそうだと思って……。

 三食全部とは言いませんから、朝食だけでも駄目かしら?」


 俯き加減で悲しげに言うセレスティナのお願いごとを、ミオンはすぐに却下することが出来なかった。

 しばらくの間、うぅぅ……、と唸り声をあげて頭を抱え悩んでいたかと思うと、ガバリと顔を上げた。


「料理長に相談してみます〜!

 全く同じには出来ないでしょうから、多少は変わるかもしれないですけど……」


「ありがとう、ミオン!

 やっぱりミオンは頼りになりますわ!」


 ミオンの言葉にセレスティナは満面の笑顔を浮かべ、感謝の言葉を口にする。


「セレスティナ様のためなら、このミオン!

 火の中、水の中、凶悪な顔の料理長の生息地(ちゅうぼう)も怖くなんてないです〜!」


 セレスティナに頼られ、褒められたことに、有頂天となったミオンは今にも天に昇りそうな勢いで、喜びを全身で表現するのだった。





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