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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女覚醒編

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第四話


 世界が夜の帳に包まれて早数時間。

 ベルフィーユ学院で開催されている卒業の舞踏会の会場は、昼と見間違わんばかりの光が溢れていた。


 色とりどりのドレスがダンスホールに鮮やかな花のように咲き誇っている。


 老若男女の貴族達がそれぞれの話題に盛り上がり、情報交換を行なっている者達もいた。


……そんな貴族達の輪から抜け出す者がいる。


 上品な藍色のドレスを身に纏った、夜の闇に溶けることなく輝く白銀の髪の持ち主。

 他者の目を気にしているのか、決して早歩きすることなく優雅に赤い絨毯の上を歩き続けるセレスティナだった。


「……ミオン、いますわね。」


 人の気配が徐々に遠くなった頃、歩みを止めることなくセレスティナは小さく呟いた。


「はい!セレスティナ様!!

 ミオンは此処にいるのですよ〜!」


 そのセレスティナの小さな呟きに答えるように、明るい少女の声が響く。

 何も無かったはずの光の届かぬ仄暗い廊下の隅から溶け出るかのように、侍女服に身を包んだ一つおさげの少女が現れた。


「ミオン。」


 突如現れたミオンに驚くことなくセレスティナは当然のように名前を呼ぶ。


「は〜い、セレスティナ様!

 第一王子殿下の一件でのお詫びの品はセレスティナ様のお名前で、適当な物を見繕って手配済みです〜。

 あとあと、私が控えておきました騒動における第一王子達のアホ言集……じゃなかった発言集は蝋封をして陛下に提出済みで〜、第一王子殿下の言ってた証拠も第一騎士団長様がお持ちになったのを確認済みです〜!」


 ミオンは褒めて褒めて、と言うようにセレスティナへと向けて左右で色の違う紅と青の猫目に期待を込めて笑顔を浮かべる。

 その姿はまるで大好きな主人に褒めてもらいたい小型犬のようだった。


「うふふ……流石ね、ミオン。

 助かったわ、ありがとう。」


 そんな主人に忠実な賢い侍女の黒髪に似合う犬耳や、ブンブンと振り切れんばかりに動く尻尾の幻影がセレスティナには見えた気がした。


 そして、ミオンの言葉が終わる頃には、セレスティナのために用意されていた控え室へとたどり着く。

 そのまま躊躇うことなくミオンが控え室の扉を開き、セレスティナは控え室の中にある大きめの一人がけのソファへとゆったりと座った。


「セレスティナ様のお役に立てて嬉しいです~!

 ……ランちゃん、貴方からも何か伝えたいことがあるんでしょ~?

 隠れてないでさっさと出てきなよ。」


 セレスティナに続くように控え室へと入りながら、ミオンは誉め言葉に頬を染め、満面の笑みを浮かべた。

 しかし、セレスティナへと向けた嬉しくてたまらないと感じる言葉が終わると同時に、間延びしていた明るい声は鳴りを潜める。

 開かれたままの扉の影に隠れた人物へと向けられたミオンの声音は、同一人物が発したとは思えないほど冷淡だった。


「……ランスロット、貴方の姿を私に見せてくださらないの?」


 ミオンの言葉にセレスティナは微笑を浮かべ、己の入ってきた扉の影にいるであろう気心知れた護衛の騎士へと声をかける。


「……御前、失礼いたします……」


 セレスティナの言葉に答えるように一人の青年が扉の影より姿を現し、室内へと足音を立てることなく数歩進む。

 そんな青年の背後で静かに扉が閉まった。


「……申し訳ございません、殿下。

 我が愚弟の起こした不始末を貴女様に拭わせてしまうことになるなど……。

 殿下に会わせる顔がないと思っていましたが、謝罪だけでもさせて頂きたく恥を忍んで参りました。」


 現れた青年、ランスロットはセレスティナに会わせる顔がないと、それ以上近付くことも出来ずに扉の近くで跪き呟く。

 その場で深く頭を下げたことで、ランスロットの夕陽を連想させるひとつ結びの朱色の肩より少し長い髪がサラリと揺れる。


「愚弟の不始末は我が罪。

 如何様な責を負うことになろうとも………」


「ランスロット、顔を上げてください。」


 ランスロットの硬い声を断ち切るように、セレスティナは顔を上げるように告げる。

 セレスティナの言葉に一瞬の間をおいてランスロットは跪いたままゆっくりと顔をを上げた。


「今回の一件には、とても残念なことに私の弟も関わっています。

 あの者達への処遇に関して私が口を挟むことはありません。

 しかし、ただ一つ言えることは、あの愚か者のために優秀な騎士である貴方(ランスロット)と貴方の父である第三騎士団長を失いたいと私は思いません。」


 それはきっと陛下も同じでしょう、とセレスティナはランスロットに優しく言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「……それに、優秀な私の騎士である貴方のことです。

 名誉回復のために既に動き出しているのではありませんか?」


 だから私の陰に控えるように動き、部下に指示を出していたのでしょう、とセレスティナは悪戯な笑みを浮かべる。


「……流石はセレスティナ様。

 面目無い俺の情けない顔を御前に無様に晒し、謝罪の言葉を捧げるだけなど愚かしい真似は貴女の護衛騎士としてあり得ません。」


 セレスティナの悪戯な笑みに応えるように、ランスロットは苦しげだった表情を一変させ、ニイッと口の端を上げて笑う。


「ふふ……流石は私の護衛であり、騎士の中の騎士と言われる近衛騎士の一人ですわ。

 ランスロット、私が許します。

 人の気配が無いならば、ミオンのように普段通りに話してくださる?」


 ランスロットの浮かべた賢く、凶暴な獣に似た笑みを満足そうに見つめ、セレスティナは普段通りの口調に戻すように促した。

 近衛騎士とはセレスティナの護衛であるランスロットの所属する第一騎士団の中でも、王族の護衛を任される特に優秀な騎士達のことである。


「リョーカイです、ひーさま。

 あ~のおバカこと愚弟の言ってた男爵令嬢が襲われた一件について調べました。

 時間があんまり無かったんでさわりだけっすけどね。

 ……だがまあ、なんつーか、シェパール公爵令嬢が主犯にしちゃあお粗末すぎますね!」


 あの賢い公爵家のおじょー様がこんな下策を実行するとは思えませんしね、とランスロットは笑いながら言葉を続ける。


「あと、ウチの団長が回収した証拠の剣についてなんすけど、あのおじょー様が鼻で嗤うのも分かりますねー。

 シェパール公爵家の紋章である“双頭の鷹と剣”に似せてますけどね、見るからに偽物でした。

 双頭の鷹の足の指の数が本物なら四本のはずなのに、あれは三本でしたから。

 ……あのおバカな弟が気が付かなかったのも問題っすけど……まさか、ねえ……」


 うわあ、ありえねー、といった表情を浮かべたランスロットの反応にセレスティナは頭痛を覚えた。


「……つまり、あのアホナス……ではなく、ライナスは自国内で一、二を争う地位の公爵家の紋章すらうろ覚えで、証拠の裏を取ることなく自慢げに掲げていた、と?

 その上、あの場にいた高位貴族の子息達、誰一人として疑問に思わなかった、と言うことよね……。」


「そう言うことっすねえ……」


「うにゃあ……アホ過ぎて笑えないんですけど~」


 大国であるベルフォード王国の未来を担ったかもしれない、もう少しマシだと思っていた愚弟達があまりにお粗末だったことに、セレスティナ達三人は疲れたような、残念そうな、微妙な表情を浮かべてしまう。


「……彼らのことは陛下にゆだねましょう……。

 ランスロット、貴方はこのまま男爵令嬢が襲われた一件について調べてください。

 そして、偽の公爵家の紋章があると言うことは公爵家専属の職人以外が作成したということ。

 その人物を探し出して保護してください。

 ……男爵令嬢の父親やライナスはともかく……ライナスの母である第一側妃やその実家が動き出す可能性がありますから。」


 セレスティナは第一側妃やその実家である侯爵家について脳裏に思い浮かべる。

 その性格や野心も思い出したことで、こめかみを押さえ、小さくため息をつきながら指示を出す。


「ミオン、貴女はフェイツ男爵令嬢とその実家についてと、ベルフィーユ学院でのライナス達の行動を調べてください。

 ……おそらく……婚約者がいる身で誤解を受けるような行動はしていないと思いたいですが……あの様子を鑑みますに……」


 再び脳裏に浮かぶ乙女ゲームと呼ばれる物の甘そうな内容を想像し、現実問題ライナス達の様子から恥を晒しているだろうことを予測して、セレスティナは重苦しい疲労感を感じてしまう。


「リョーカイです、ひーさま。

 バッチリ手柄を立てて身内の尻拭いをさせて頂きます。

 ……まあ、いつまでレパードの名をアイツが名乗れるかは知りませんけどね。」


「はーい、セレスティナ様のお心を煩わせる邪魔なゴミどもを一掃できるように頑張りますぅー!

 そして……流石は私のミオンねって頭撫でてもらっちゃたりして…………きゃはーん!!」


 セレスティナの指示に対して二人はそれぞれに反応を返す。

 口元にニヒルな笑みを浮かべながらも、ランスロットの瞳は全く笑っていなかった。

 反対にやる気に満ちたミオンは何かを想像して、頬に両手を当てて嬉しそうに悶えている。


「……そう言えば、貴女達は私の変化に気が付いているはずなのにどうして何も言わないの?

 自分で言うのはなんですが、今までこんなお願いごとをしたことは無かったですし……」


 ミオンとランスロットの反応を見つめていたセレスティナだったが、卒業の舞踏会での己の言動が今までと全く違うことに疑問を持たないのだろうか、と不思議に感じてしまう。


「セレスティナ様はセレスティナ様に間違いありませんから。

 儚くて、繊細なセレスティナ様も、今の生まれ変わったみたいに凛とした強さを持った綺麗なセレスティナ様も、幼い私を助けてくれた優しいセレスティナ様に変わりありません!」


「んー、俺は前も、今のひーさまの感じも好きだし。

 俺の堅っ苦しいことが嫌いな性格を受け入れてくれるし、俺の趣味も否定しないでくれるから、細かいことはどーでもいいかなあ、って。」


 満面の笑みを浮かべるミオンと、ニヤッと笑いながら答えたランスロットに、セレスティナは一瞬だけキョトンとした表情を浮かべてしまう。

 しかし、二人の言葉の意味を脳内で噛み砕き、理解していくと徐々に笑いが込み上げてきた。


「ふ……ふふ……ふふふ!

 貴女達は変わってますわね!

 そうね、私は何一つとして違っていませんわ。

 ……ただ少し……そう、ただ少しだけ覚悟を決めただけですもの。」


 くすくすと笑いながらセレスティナは、今までの自分ならば浮かべることがなかった満面の華やかな自信に満ちた笑顔を浮かべた。


「ふふ……ミオン、ランスロット!

 これから、今まで以上に貴女達に頼ることが多くなると思いますの!

 どうかよろしくお願いしますわね。」


「「我が主の御心のままに」」


 満面の笑みを浮かべたセレスティナの言葉に応えるように、ミオンとランスロットは一瞬も躊躇うことなく自信に満ちた頼もしい表情を浮かべたのだった。






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