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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女始動編

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第十一話


 会議室の扉が開き、入室してきたのは蠱惑的な微笑みを称えたローゼンバーク侯爵令嬢オリヴィアと、研ぎ澄まされた才気を感じさせるエアリー商会会長ジャスミンだった。


「オリヴィア嬢、そしてジャスミン。急な呼び出しでごめんなさいね。」


 セレスティナは、にっこりと慈愛を湛えた微笑みを向ける。

 

「失礼致します、殿下。」


 オリヴィアとジャスミンは、揃って深々と優雅なカーテシーを取った。

 その完璧な所作は、二人の地位と教養の高さを物語っていた。


「王女殿下、この度はシャボンに関する重要な会議に参列することを許可して下さり誠にありがとうございます。」


 優雅な所作で微笑を称えたオリヴィアが口火を切る。


「ジャスミン・エアリー、参上いたしました。

 僭越ながら、私が王女殿下より承り、主導するシャボンに関する商いに問題があるとのこと。

 それに関する審議にご協力させて頂けること、誠にありがとうございます。」


 ジャスミンもそれに続き、淀みなく簡潔に述べた。


「オリヴィア、ジャスミン、この謁見で話している内容はあなた方と無関係では有りませんもの。

 当事者としての貴女方の意見も参考にした上で、より良い方法を見つけていきたいと思っていますのよ。」


 微笑みの仮面を外さないセレスティナの優しげな言葉。

 それはまるで、二人の商会会長にとって真綿で首を絞めるかのようだった。

 しかし、オリヴィアとジャスミンは、その真意を察しているかのように静かにその場に立っていた。


「それに付け加えて、商いに関しては浅学の身ゆえだからかしら?

 彼らが提出したお互いのシャボンに関する売り上げについて纏められた書類の数々に違和感を拭えませんの。」


 心底不思議そうなセレスティナの言葉に、ナレッド商会会長とダリオ商会会長はビクリと身体を震わせ、一瞬で顔から血の気が引いた。


「昨今、貴族と商人が金銭で繋がっての不正の数々が横行していると陛下も大層お嘆きになっています。

 ……立派な大商人のお二人やフォルト子爵に限っては無いとは思います。

 けれど、火のないところに煙は立たないと痛くもない腹を探られるのは不快でしょう?

 この場でしっかりと身の潔白を主張するいい機会だと思っていますわ。」


 彼らは自分たちの都合の良いように記述した書類の中身を、まさかこの場で問われるとは思っておらず動揺を隠せないでいた。


「あら?

 そう言えば、あなた達はお互いに面識はあるかしら?

 私から紹介を致しましょうか?」


「恐れながら殿下、紹介は必要ありませんわ。

 ……だって、お互いに面識はありますもの。」


 オリヴィアはセレスティナと視線を交わし、不敵な笑みを浮かべた。


「それならば良かったですわ。

 お互いに面識がある者同士、言葉を交わせばより良い方向に議論は進んでいくでしょうから。」


 にっこりと微笑み合うオリヴィアとセレスティナの姿に、フォルト子爵は面白そうに目を細め、大商人達は今更ながらに罠だったのだと気が付いた。

 彼らの顔には、焦りと屈辱の色が濃く浮かび始めた。


「おやおやおや……」


 まんまと小娘にしてやられたと高い矜持に傷をつけられた大商人達のイライラが増しかけた瞬間。

 聞こえた声音に、彼らは冷水をかけられたようにビクリと震える。

 その声は、場に満ちた緊張を切り裂く、低く鋭い響きを持っていた。


「このような場所でお会いするとは思いませんでしたよ、ダリオ商会とナレッド商会の会長さん方。」


 虎の如き獰猛さを称えたジャスミンの視線がダリオ商会会長とナレッド商会会長へと向く。

 その視線を受けてビクリッと身体を震わせ、まるで蛇に睨まれた蛙のように脂汗を流し、血色の良かった顔色を青くする二人。


「あらまあ……何も取って喰う訳じゃ無いのだから、そんなに怯えるのは止してくれないかい?」


 アタシ達の仲だろう?とニイッと形の良い唇の端を持ち上げて、壮絶な色気と毒をふんだんに含ませた笑みを浮かべるジャスミン。

 その笑みは、獲物をいたぶる肉食獣か、狡猾な蛇のような雰囲気を醸し出していた。

 彼女の視線は一切の逃げ道を許さない、獲物を定め切った狩人のそれだった。


「こ、これは、これは、エアリー商会さん……まさか貴女がいらっしゃるとは思いませんでしたから、少し驚いてしまいまして。

 まさか貴女のように美しい女性を前にして、怯えているなどあり得ませんよ……なあ、ナレッド商会さん。」


 ダリオ商会会長は、必死に平静を装おうとしたが声は上ずっていた。


「そ、そうですなあ、ダリオ商会さん。

 エアリー商会さんは王国で一、二を争う商会さんの主で、商人をしているのが勿体ないほどに美しい方ですからな。」


 ナレッド商会会長は、震える口元を隠すように無理に笑みを浮かべた。

 怯えるはずがない、と動揺している様子を押し隠し、意地で笑顔を作った二人。

 しかし、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。


「ふふふ……お二人の仰る通りですわね。

 ジャスミンはオリヴィア嬢に紹介されて、まだ付き合いの短いわたくしでも分かるほどの才知溢れる女性。

 そして……わたくしがオリヴィア嬢を通してシャボンの販売などをお願いした人物でもありますわ。」


 セレスティナが静かに微笑んだ直後、ジャスミンは一歩踏み出し、冷たい視線をダリオとナレッドに向けた。

 その一歩は、獲物との距離を詰める捕食者のようだった。


「私は駆け出しの頃、あなた方の汚れたやり方や嫌がらせの数々に何度も足を引っ張られました。

 下賤な女だからと嘲笑され、市場から排除されそうにもなりましたね。」


 ジャスミンの声は低く、しかし感情の熱を帯びていた。


「テメエらが私の商いを潰そうとしたあの時、私は誓った。

 いつか必ず、十倍にして返してやると。

 それが、今日この時だ。」


 獰猛な笑顔を浮かべたジャスミンは、セレスティナの方へと向きなおる。


「恐れながら殿下、私どもが調査した内容を先に申し上げてもよろしいでしょうか。」


「ええ、構いませんわ」


 セレスティナは静かに頷き、ジャスミンの次の言葉を促した。

 ジャスミンはセレスティナの許可を得て、力強い声で、断罪するように言い放った。


「根本的に彼らの商いのやり方が、私たちとは全く違うのです。」


 艶やかに笑ったジャスミンが再度一歩進み出た。


「この謁見の申し出を受け、ダリオとナレッド両商会より提出された書類を確認された際、殿下が即座にご指摘された件に関して。

 すでに詳細報告を殿下は受けられたと思います。

 私達の方でも、ダリオとナレッド両商会のシャボンに関する調査を行いました。

 その結果に関しては書面にて既に提出しております。」


「ええ、私だけでなく陛下も、宰相も、すでに目を通していますわ。」


「なっ?!

 そ、そのようなことは、聞いておりませぬ!」


 ダリオ商会会長は、絶望的な声で叫んだ。


「そ、そうです!このような騙し討ちのような真似はおかしいっ!」


 ナレッド商会会長も顔を真っ赤にして抗議した。


「騙し討ち……?

 第一王位継承権を持つ私の名前を掲げてのシャボン事業でしてよ?

 それは王族の名を掲げている時点で公務であり、公共事業の一環だと明白でしょう?

 その事業を一刻の長である王が把握せず、増してや政務に関連する宰相も把握していないと何故思うかの方が甚だ疑問でしてよ。」


 騙し討ちだと騒ぐ両商会の会長達に対し、セレスティナは冷ややかにピシャリと告げた。

 彼女の視線には、一切の情け容赦がなかった。


「ジャスミン、このフォルト子爵にも意見を求め、私なりに確めた事柄なのですが……。

 彼ら両商会が提出した『慈善事業』を謳う書類の数字と、実際の雇用者への賃金、及び取引の記録に大きな隔たりが見られます。

 これに関してあなたの率直な意見が知りたいわ」


「御意に殿下。

 彼らは、表向きは『貧民を救済している』と訴えておりますが、その実、長年にわたり不当な低い賃金で人々を酷使し、利益を最大限に得てきた。

 国へ提出する報告書を改竄し、その差額を己の懐へと入れる。

 所謂、不正な商いですわ。」


 セレスティナの言葉に、ジャスミンが水を得た魚のように勝ち誇った笑みを浮かべる。

 胡散臭い飄々とした笑顔でセレスティナへと同意を示したアシュレイ・フォルト子爵が付け加えた。


「しかも、その溜め込んだ金銭の一部をどなたかに熱心に譲渡されていたようですね。

 いわゆる『賄賂』というものですね」


 アシュレイは、その切れ長の目を三日月のように細めて嗤う。

 その仕草は、彼がこの状況を心底楽しんでいることを示していた。


「なっ……?!子爵っ!」


 ダリオ商会会長は、裏切りに直面し、信じられないという表情を浮かべた。


「まさか……儂達を!

 あの方を裏切るつもりですかな……!」


 ナレッド商会会長の声音には、怒りと焦りが混じっていた。

 その言葉に、ナレッド商会会長とダリオ商会会長はますます顔色を変え、王族の前であることも忘れて抗議の声をあげる。

 彼らの理性は、もはや保たれていなかった。


「裏切る……?

 それは何のことですか?

 私は王家に仕える忠実なる家臣。

 もっとも、私程度の小物ではあなた方の資金の流れついた先までは把握しておりませんよ?」


 肩をすくめ、心底困ったように苦笑するアシュレイへと二人の会長は言葉を失い、怒りと焦りから顔を赤黒く染めていく。

 彼らの全身から、悔恨と恐怖が滲み出ていた。


「あらあら…………フォルト子爵?

 それではまるで貴方自身は彼らの悪事をご存知無かったのようですが?」


 アシュレイが主導権を握りかけていた場に待ったをかける者がいた。

 それはジャスミンだ。

 彼女は口元に微かな笑みを湛えていた。


「殿下に彼らを紹介する前にことの真相に気が付くべきでした。

 全く持って己の不肖の至る限りです」


まるで役者のように、芝居がかった物言いで、心底申し訳なさそうな表情を浮かべたアシュレイ。

 しかし、その目には一片の反省の色も見えなかったのだった。



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