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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女始動編

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第九話

 

「殿下、この度はこのような機会を設けて下さり、心よりお礼申し上げます。」


 王城内にある幾つかの会議室の中でも一番小さく、簡素な会議室。

 一番小さく、簡素と言っても、一国の王城にふさわしい調度品や家具が揃えられ、収容人数も数十人規模で有る会議室に人影があった。


「殿下、この者達が(くだん)の者達で、それぞれダリオ商会、ナレッド商会の責任者達です。

 そして、私の背後に控えますのは商売について浅学な私の補助役を依頼しましたハワード商会会長です。 」


 謁見を申し込んで来た時と変わらず、どこか胡散臭い飄々とした雰囲気を纏ったアシュレイ・フォルト子爵が三人の商人達を順番に紹介する。

 アシュレイの紹介に合わせて頭を更に深く下げる三人の商人達。


 でっぷりとした太鼓腹、ツヤツヤと血色の良い顔、お世辞にも趣味が良いとは言えない葡萄色の服を着たダリオ商会会長。


 ダリオ商会会長程は無いが、それでも十分に丸い身体を持ち、目尻が下がる笑顔が印象的な宝石で出来たボタンなどが付いた黄土色の服のナレッド商会会長。


 そして、最後の一人は上記の二人とは正反対に細身で、神経質そうな顔つき、落ち着いた色合いの青い服を着たハワード商会会長。


「紹介をありがとう、フォルト子爵。

 初めまして、シャボンを取り扱う商会の皆様方。

 わたくしがセレスティナ・スノウ・ベルフォードですわ。」


 アシュレイの紹介した商人達を静かに見渡し、セレスティナが微笑を浮かべる。

 そんなセレスティナの背後には護衛であるアレクシェルとイザベラ、横にはミオンが控えていた。

 そして、室内には第二騎士団の護衛の騎士達が壁際に等間隔で並び、正式な謁見ということで書記官である文官達や魔道録音機など、正式に記録を残すための担当者達がいる。


「此度はフォルト子爵より、私の扱うシャボンのことで訴えたきことがあると聞きました。

 発言を許可しますので、あなた方の口から今一度訴えを聞かせて頂けるかしら?」


 儚く、物静かな印象を抱いてしまうセレスティナ自身の外見を意識した微笑。

 その微笑の裏でセレスティナはミオンよりもたらされていた商人達の情報を思い浮かべていた。


 この一件におけるフォルト子爵を通してセレスティナへと窮状を訴えた人物達であるシャボンを取り扱う商人達の中で一、二を争う大商人、ダリオ商会会長とナレッド商会会長。

 逆を言えば、シャボンの販売市場を牛耳り、それがもたらす利益の大半を得ている人物達でもある。

 そして、そんな二人の商人と対照的な存在がハワード商会会長だった。

 ダリオ商会会長達と比較して商家としての規模は小さく、良く見積もっても中級程度の規模の商人であるハワード商会。

 この一件における立ち位置も、フォルト子爵から商売について疎い己の補助として参加して欲しいと言う名目で打診され、この謁見の場に臨んでいた。


「月の女神の如き美貌と称えられる国一番の美姫、第一王女殿下に御目通り叶いましたこと、恐悦至極に存じます!

 この度は私どもの、ダリオ商会会長のガンツの声に耳を傾けて頂き、その慈悲深い御心に感謝するばかりで御座います!」


「このナレッド商会会長のドリューも、誠に第一王女殿下のようにお美しい神々が丹精込めて作り上げたような美貌の姫君にお会い出来て嬉しゅうございます!」


 そんなセレスティナの外見から受ける印象、今までに特に功績のない王女という情報も合わさり、ダリオ商会会長とナレッド商会会長が立て続けに口を開く。


「……お会い出来て光栄です、王女殿下。

 ハワード商会会長、ギオンと申します。」


 しかし、ハワード商会会長だけはセレスティナの言葉に含まれた何かを見極めるように必要以上に口を開くことは無かった。


「ふふふ……褒めて頂けて嬉しいですわ。

 商人としても立派で、素敵なあなた方のお話を後学のためにも是非お聞きしたいと思っておりますの。」


 口々に己の外見を褒め称えるダリオ商会会長とナレッド商会会長の言葉に、セレスティナは藤色のドレスに合わせた扇で口元を隠しながら微笑む。


「王女殿下のように麗しい姫君にそのように言って頂けるなど、嬉し過ぎて困ってしまいますなあ。」


 謁見の許可が降りた時より若く、美しいだけが取り柄の商売のイロハも、交渉の経験もない小娘と侮っているダリオとナレッド商会会長。

 彼らの訴えなど他の王族が相手ならば謁見に至ることもなく、一笑されて終わっている話だと理解しているがゆえに、この王女には付け入る隙があると考えていた。

 そして、実際に会って見れば、噂通りの繊細で大人しそうな外見、側近なのか王女よりも年下の少女達を従え、些細なお世辞(リップサービス)を真に受ける経験の無さ。

 フォルト子爵もそうだが、自分達が提出した書類に疑問を抱いている様子も無いことから、二人の商会会長は己達が手玉に取れる程度の存在だと高を括っていた。


「王女殿下にお願いが有って参りました。

 実は大変に言いにくいことなのですが……王女殿下が考案されました新しいシャボン。

 そちらが流行り出してからというもの、我らが取り扱うシャボンの販売利益が一気に下がってしまいました。」


「勘違いしないで頂きたいのですが、我らは王女殿下を責めるつもりは全く御座いません。

 商人、いえ、商売というのは客の求めるものを揃えてこそ。

 しかし……貴族の皆様方のノブレス・オブリージュという訳では有りませんが、利益が減ったことで我々が好意で雇っていた貧民街の者達を雇い続けることが困難となって来たのです。」


 心の底より申し訳ないと、苦悩しているのだという表情を浮かべたダリオ商会会長とナレッド商会会長。


「このままでは貧民街の者達を解雇することになるでしょう。

 そして、粗野で、何をするか分からない彼らを雇いたいという物好きは余りいないというのが現実です。」


「そんな彼らを放置していたらどんな恐ろしい事態になるか……。

 心優しく、聡明な王女殿下ならばお分かり頂けるでしょう。

 ゆえに、どうか、どうか、力なく、哀れな民をお救いになると思って、新しいシャボンの販売を中止して頂けないでしょうか……?」


 あくまで自分達のためではなく、力ない民のためなのだと語るダリオ商会会長とナレッド商会会長の言葉にセレスティナは悲しげに目を伏せる。


「そのような事態を巻き起こしていたなんて……わたくしは……。」


「王女殿下、どうかそのように悲しげな顔をされないで下さい。

 今ならばまだ十分に間に合いますから……それに、もし宜しければ王女殿下の新しいシャボンについても我らがしっかりと管理致しましょうか?」


「おお!

 そうすれば、益々恵まれない者達への支援になりますな!」


 悲しげなセレスティナの様子に己達の意見が、今後も利益を上げることが明白である金の卵が手に入るのではないかとダリオ商会会長とナレッド商会会長は畳み掛ける。

 如何でしょう?、恵まれぬ民のためだ、と自分達は良いことをしようとしているのだと笑顔で主張する二人。


「そうですわね……わたくしが直接関わるよりも遥かに商人の皆様に任せた方が新しいシャボンも民のために役に立つと言うことですね。」


 悲しげに伏せていた目を上げ、儚げに微笑むセレスティナの自分達の意見を肯定する言葉に、ダリオ商会会長とナレッド商会会長は欲を押し隠した笑みを浮かべる。


「では……わたくしが取り扱う新しいシャボンを商人の皆様に権利や作成方法を委譲するにあたりまして、わたくし以上に恵まれない民のため、あなた方が雇われている貧民街の民のために、その販売利益を使用して下さると言うことで宜しいでしょうか?」


「ええ、ええ!

 それはもうっ、商売人の誇りに掛けて誓いましょう!」


「そうですとも!

 大商人となった以上は、恵まれぬ者達への奉仕も役割だと心得ていますから!」


 二人の商会会長はニンマリと内心で笑う。

 セレスティナが新しいシャボンで得ている利益は、自分達が売っているシャボンと比べられぬ程に多い。

 この世間知らずの王女が、いや、王女を支援している強欲だと噂のあるローゼンバーク家が民のために利益の半分も当てるとは思え無かった。

 二人の商人達の脳裏には、世間知らずの王女から巻き上げた新しいシャボンのもたらす銀貨、金貨の山が浮かぶ。

 脳裏に浮かぶ眩い利益に心の中で笑いが止まらない。


「頼もしいお言葉嬉しゅう御座います。

 お二人の民を思いやる御心、このセレスティナ……感動致しました!」


 ダリオ商会会長とナレッド商会会長の思惑を疑う様子もない世間知らずと彼らの中で確信され、その烙印を押されたセレスティナが満面の笑みを浮かべる。


「わたくし、新しいシャボンの原材料の価格や従業員のお給金など、必要経費を除いた販売利益の大半、約七割ほどを国のため、民のために使用するように予算の一部に組み込んでおりますの。

 お二人はそれ以上に尽くしてくださいますのね……流石は大商人と呼ばれる方々ですわね。」


 ……だが、二人の商人が思い浮かべた利益は夢か、(まぼろし)でしか無かった。


「「……は?」」


 優雅な仕草で扇をパチリと閉じ、セレスティナは誰もが見惚れるような美しい微笑を浮かべる。

 そんな美しい微笑に一瞬意識を向けそうになるが、ダリオ商会会長とナレッド商会会長は気の抜けたような声を出す。

 一体目の前の小娘はなんと言ったのか、と己の耳を疑う内容を告げられたことで、すぐに反応を返すことが出来なかったのだ。


「ふふふ、わたくしが新しいシャボンを販売する価格を高めに設定させて頂いているのは、その利益を国のため、民のために注ぎ込むため。

 その旨を説明した上で多くの貴婦人方がその価格に納得して購入してくださるのですわ。」


 クスクスと優雅に、美しく、そしてどこか悪戯めいたセレスティナの笑顔に、王妃と面識のあるミオンとアレクシェルは濃い血の繋がりを確かに感じた。

 そして、まんまと王女の外見に惑わされ、良いように踊らされてしまったダリオ商会会長とナレッド商会会長の姿に、我関せずを貫いていたアシュレイは笑いを堪えるように口元を押さえている。

 同じく会話に混ざることなく、我関せずを貫いていたハワード商会会長は細い目を更に細め、己の勘に従って軽率な行動をしなかったことに人知れず安堵のため息を吐く。


「し、しかしっ……売り上げの七割もの金を我ら商人が手放すのは流石に無理があると……」


「そ、そうですな!

 それでは我らの商いが成り立たない……!

 だ、第一、そんな売り上げの大半をドブに捨てるような真似など、現実的では無いしっ、正気の沙汰とは思えな……」


 今まで侮っていた、世間知らずの小娘と内心では見下していた目の前の王女。

 その王女がダリオとナレッド商会会長、二人の商人の目には急に得体の知れないものとして写った。


 パシリっ、と鋭い音が響く。


 金の卵の生み出す利益を貧民共に渡してなるものか、と我知らず大きくなった声量で言葉を尽くそうとする二人の商会会長の言葉を遮るように響いたその音。


「お静かに、お二人とも。

 此処は王城……騎士や兵士の鍛錬では無いのですから、大きな声を出すのはよろしくありませんわ。」


 手に持っていた扇で反対の掌を叩き、大きくなった声を戒めたセレスティナ。

 会話の主導権はすでにセレスティナが握っていた。


「ぐっ……お言葉ですが、王女殿下。

 王女殿下の出された条件があんまりにも我ら商人の商いを追い詰めるような、そんな条件を出されるからではありませんか……!」


「ナレッド商会さんの言う通りで御座います!

 売り上げの七割を寄付金になど商売上がったりです!」


 セレスティナにピシャリと忠告されたことで、ウグウッと小さく呻いたナレッド商会会長は引き攣りかけた顔に何とか笑みを浮かべる。


「あら……?

 そうなのかしら、ミオン?

 わたくしがオリヴィア嬢を通してお願いした方々は快く協力してくださったわよね?」


「はい、王女殿下。

 確かにローゼンバーク侯爵令嬢様を通して販売を委託した方々は、同じ条件で快く同意を得ております。」


 違ったかしら、と小首を傾げて問うセレスティナへとミオンがしたり顔で答える。


「この謁見の後にお会いする予定となっておりますれば、すでに到着されているとかと。」


「この謁見で話している内容は彼らと無関係では有りませんし、彼らの意見も参考にしたいですわね。

 フォルト子爵、オリヴィア嬢達をこの場にお呼びしても構わないかしら?」


 肯定以外を許さない雰囲気を纏って微笑むセレスティナの声掛けに、ダリオ商会会長とナレッド商会会長は断って欲しいと視線だけでアシュレイへと訴える。

 そんな視線を一身に受けたアシュレイは安心させるように微笑む。

 任せておけと言わんばかりのアシュレイの笑みに、ダリオ商会会長達の気が少しだけ緩む。


「ええ、勿論構いません。

 私も是非お話をお聞きしたいです。」


 だが、アシュレイの口から飛び出したのはダリオ商会会長達を唖然とさせる言葉だった。

 一瞬言葉を失い、混乱した時間を無駄にすることなく、まるで事前に待機していたように会議室の扉が開く。

 その扉の向こう側にいた人物達へとセレスティナは、にっこりと微笑みを向けるのだった。





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