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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女始動編

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18/30

第四話

 いつも読んで頂きありがとうございます。


 大変申し訳ないのですが、感想の返事をすぐにお返しできない日々が続いております。

 更新を優先させて貰っている状況で、そのことが申し訳なく思いまして突然のことではありますが一旦感想欄を閉じさせて頂きました。

 頂いた感想の返信が全て終了しましたらまた開くつもりです。

 勝手なことで申し訳ないのですが、どうぞよろしくお願いします。

 

「このように貴方と向き合って言葉を交わすのは数年ぶりですわ。

 幼い頃はよく一緒に勉学に励み、課題についてお互いの意見を交わしましたね。」


「下らぬ感傷に浸った昔話をしたいならば他の輩を探せ。

 俺はお前の無駄話に付き合う時間など無い。」


 懐かしそうに微笑むセレスティナの言葉を切って捨てたのは、テーブルを挟んで向き合うように座った冷たい表情の第二騎士団長、ジェダイト・ヴォルフ・ベルフォードだった。



 つい先ほど、王の執務室において護衛を増やすことや、婚約について知らされたセレスティナ。

 あとは、若い二人に任せましょう、とばかりに王の執務室から退室を促されたセレスティナとジェダイトは、あらかじめ準備されていた中庭へと通された。

 その中庭は“王女の中庭”と呼ばれるセレスティナが王より与えられている場所であり、すでに人払いとお茶の準備がされていた。


「ふふふ……相変わらずですね、ジェダ。

 昔から言ってますけれど、その物言いだと誤解されてしまいますよ?

 “昔話をするよりも、お互いの現状について話がしたい”

 と、今の言葉はそう言うことですわよね。」


 王妃の好む華やかな大輪の薔薇が色鮮やかに咲き誇る“王妃の中庭”と対照的な、淡い色合いの小輪の薔薇や控えめだが可愛らしい花たちが咲くセレスティナ好みの中庭。


 そんな控えめで、可愛らしい花々も凍りつくような優しさを感じない、突き放すようなジェダイトの言葉。

 しかし、そんな冷たさしか感じないジェダイトの言葉がセレスティナは懐かしく感じてしまう。


 なぜならば、幼い頃から周囲に誤解されやすい冷たく、突き放すようなジェダイトの言葉の裏に隠された真意を読み取ることが出来るセレスティナには効果が無いからだ。

 それは、幼い時間を共有したセレスティナだからこそ出来ることだった。


「有象無象の(やから)に誤解されようが何の問題も無い。

 その程度のことで離れていく輩など、何の役に立つという?

 俺を理解しろなどとは言わん。

 俺を理解するのは俺自身と、俺が認めた者達だけで良い。

 …………違うか、セレス。」


 “ジェダ”と幼い頃の呼び方で呼び、己の言葉の意味を数年の月日が流れようとも、正確に理解するセレスティナにジェダイトは微かに唇の端を引き上げる。


「役に立つかどうか以前に、誤解されないことで円滑な人間関係が構築できますわよ。」


「ふん。

 俺達を利用し尽くそうと虎視眈々と狙う者や、言葉の真意も読み取れぬ無能な輩に媚びるつもりはない。

 そんな下らん戯言よりも、さっさと本題に入るぞ。」


 幼い頃からの捻くれた言葉しか発さない口は相変わらずですわ、と苦笑するセレスティナに対し、急かすような言葉を吐きながらもゆっくりとした動作で優雅に白磁のカップを口に運ぶジェダイト。

 急かすような言葉を吐きながらも、本当は己の気持ちが落ち着くのを待ってくれているのだと感じ、セレスティナはジェダイトの分かりにくい不器用な優しさが嬉しくて頬が緩んでしまう。


 しかし、セレスティナはいつまでも多忙な騎士団長(ジェダイト)を己の側に拘束しておくわけにはいかない、と心を引き締める。


「本音を語って欲しいのですが……ジェダは私との婚約をどのように感じておりますの?

 私と貴方の婚約、いえ婚姻ともなれば、私には私が王座に就くための一手としか思えてなりません。」


 セレスティナにとって従兄弟でもあるジェダイトとの婚約は、母である王妃の思惑ばかりがちらつくものでしか無かった。


「“王座に就くための一手”。

 まさにその通りだろう。

 先日の元第一王子の愚行をお前が収めて以降の政策の提案などの積極的な行動は聞き及んでいる。

 王妃は今は亡き第二側室を母に持つレグルス殿下も可愛がっているが、それ以上に己の血を継ぐお前を王位に就かせたくてたまらないのだろう。

 排除する機会を狙う第一側室(てんてき)元第一王子(むすこ)に気後れし、病弱で、気弱な、王になるには覚悟も足りぬ“欠陥品”が、ある日を境に王座は望まぬという難点はあるが自慢の“傑作”へと変貌を遂げた。

 お前が変貌した原因が呪いでも、奇跡でも、記憶障害でも、何でもいいが、王妃は内心狂喜乱舞しただろうな。

 ……セレス、お前が考えている以上に王妃のお前を女王にと望む意思は強い。」


「…………」


 淡々と推測を語るジェダイトの言葉に、セレスティナは両手で頭を抱え込みたくなってしまう。


「……ジェダはそれで良いのですか?

 仮に私と婚姻を結び、私が王座に就いた場合……貴方は王配という立場になりますが?」


「ふん、俺にとって甚だ迷惑な話でしか無いな。」


 己が推測していた王妃の考えとジェダイトが語った内容がほぼ同じことに微妙にダメージを受けたセレスティナの問い掛けに、躊躇うことなくジェダイトはキッパリと答える。


「では……!」


「だが」


 迷惑だとキッパリと答えたジェダイトへと、お互いの王座・王配への道を拒否するための共同戦線を張ろうと提案しようとしたセレスティナの言葉をジェダイトが遮った。


「お前との婚約は迷惑では無い。」


「え……?」


 射抜くような強い視線を真っ直ぐにセレスティナへと向けて発せられたジェダイトの言葉。

 セレスティナは予想外の言葉と、ジェダイトの獲物に狙いを定めるような強い視線に戸惑ってしまう。


「それは……どう言う……?」


 “婚約は迷惑では無い”。

 その言葉の意味をすぐに噛み砕き、理解することが出来なかったセレスティナは問い返そうとする。


「ふん……そのままの意味だ。」


 しかし、ジェダイトは戸惑うセレスティナに悪役めいた微笑だけを返し、多くを語ることなく颯爽と立ち上がった。


「では、我が婚約者殿。

 貴殿の御身は我が第二騎士団が責任持って護衛に当たることを約束する。

 私は騎士団の務めがあるゆえに、これにて退席させて頂こう。」


 立ち上がった時には浮かんでいた微笑も消え去り、氷のように冷たい美貌の(かんばせ)で慇懃無礼な言葉だけを残し、ジェダイトはセレスティナへと背を向け歩き出してしまう。


「…………」


 動揺したままのセレスティナはその背中を引き留めることも出来ずに、呆然と見送ってしまったのだった。





 カツ、カツ、カツ、と廊下を鳴らしながら王女の中庭を後にしたジェダイトは、己の仕事部屋がある第二騎士団の詰所に向けて歩いていた。


「……煩わしい。

 言いたいことがあるなら、無駄に視線で訴えずにはっきりと言え。」


 カツンっと一際大きな音を立てて歩みを止めたジェダイトは、数歩離れて己の背中を追ってくる部下へと不機嫌そうに声を掛けた。

 ジェダイトの言葉に答えるように、出来る限り存在感を消し去っていた人物が答える。


「……では、お言葉に甘えて。

 深窓の姫君と言っても過言では無い王女殿下へのあのような不敬と言われかねぬ言動は、あんまりでは有りませんか?」


 足を止めたジェダイトに追いついたのは、二人分の面積はありそうな広い肩幅に、一般的な成人男性よりも頭二つ、三つ分は高い背丈、岩のようにゴツゴツとした漢らしい顔立ちの騎士。


「テレンス、下らん杞憂だな。

 お前のいた位置では、全ての会話を読唇術で読み取れた訳ではあるまい。」


 チラリと不機嫌な感情を視線に乗せてテレンスを一瞥したジェダイトは、すぐに興味を失ったように再び歩き始める。


「杞憂とは言い切れないと思いますが?

 そうでなくともジェダイト様は誤解されやすいのですし、か弱き姫君に対してだけでは有りませぬが、お立場を考えますと慎重な言葉選びは重要なことだと思います。

 ……ただでさえ、ジェダイト様は王位を望む野心家などと言う根も葉もない噂が一人歩きしておりますし。

 それに、人払いをしていたとしても絶対とは言えませぬ。

 その上、元第一王子の一件で張り詰めた弓のように、いつ弾けるか分からぬ緊迫した雰囲気が漂っているのです。

 しかも、その一件にはジェダイト様の弟君も関わっていらっしゃる。

 貴方様の足を引っ張りたい者達にとってはまたとない好機。

 ジェダイト様にはいらぬ誤解を招かぬようにくれぐれも慎重な行動とお言葉選びをですね……」


 歩き始めたジェダイトの背中を追いかけるように、テレンスも歩きながら苦言を呈する。

 二十代半ばである己よりも年下のはずの、決して年相応に見えぬ顔から吐き出される保護者めいた言葉にジェダイトは眉を顰めてしまう。


 テレンス。

 ジェダイトに小言めいた言葉を言うことが出来る彼もまた騎士団に入る前からジェダイトに仕える懐刀、腹心中の腹心である第二騎士団の副団長だった。


「黙れ、テレンス・マードック。

 貴様は俺の母親か?

 俺が他者の目を気にして行動しようと、口さがない輩は適当なことを言って楽しむだけだ。

 そんな愚物の評価や言葉など、この俺が気にかける価値など有りはしない。

 加えて、いっそ憐れなほどに愚かなる元第一王子や(サミュエル)の失脚など興味の欠片も無い。

 第一、(アレ)如きの愚行で揺らぐような俺では無い。

 ふん……あの中庭の人払いには王の勅命で貴様も、いや、第二騎士団の主導の元で行なっていた。

 我が部下である貴様達が任務を疎かにすることなど有り得ん。

 ……ならば、あの場において他者の目や耳を気にする必要などありはしない。」


「ジェダイト様……」


 声を荒げることなく静かな二言を許さぬジェダイトの口調にテレンスは口を閉じるが、自分や第二騎士団を信頼していると分かる言葉に感激したように目を潤ませる。

 他者に誤解されやすい性格のジェダイトだが、実際は他者に厳しくする以上に己自身をより厳しく律し、権力や名声になど興味の欠片も無い、尊敬に値する人物であることをテレンスは知っていた。


 そのまま二人は無言で歩き続け、第二騎士団の詰所へと到着する。

 騎士たちが詰める部屋を通り過ぎ、飾り気のない廊下を進んで行けば、騎士団長の執務室の扉へとたどり着く。


「……一つだけ貴様に忠告しておいてやる。」


 騎士団の詰所内にある騎士団長の執務室の扉を開きながら、ジェダイトは不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「あいつを……王女を侮ることは許さん。

 病弱……?気弱……?

 なるほど、表面上は確かにそう見えるな。

 だが、あの女は今も、昔も、変わりはしない。

 心の奥底には何人も手折ることが出来ぬ、一本の太い信念(はしら)を持っている。

 他の女共と比較するのも烏滸がましいが、俺の苛烈な言葉に傷付き、人を殺めることで国を守る術しか知らぬ、この身を恐れて泣き喚く塵芥とは違う。」


 ジェダイトは閉まり始めた扉の向こう側にいる部下(テレンス)へと振り返り、目を細めて笑う。


「セレスティナ・スノウ・ベルフォードは、お前達が思っているよりも遥かに強い女だ。」


 己にも、他者にも厳しい、傲岸不遜の言動が似合う上司(ジェダイト)の有り得ぬ程の褒め言葉に呆気にとられ、テレンスは絶句してしまっている。


 己の滅多に言わぬ他者を褒める言葉に驚くテレンスから視線を外し、前を向いたジェダイトの背後で扉が閉まる音が響く。


「……だからこそ…………」


 扉が閉まり、テレンスの視界にも映ることが無かったジェダイトの表情……。

 それは部下が見れば卒倒するような優しさと熱情を孕んだもの。

 誰にも聞こえることの無かった小さく呟かれたジェダイトの愛しさを含んだ言葉は、静かな部屋の中で淡雪のように消えていったのだった……。





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