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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女覚醒編

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閑話三


(全くもって面倒なことになった……)


 謁見の間から退室し、帰路に着いたロナルド・アーガスト侯爵は馬車に揺られながら苦々しい思いを抱いていた。


 昨夜の己が後見人の一人として、将来の王になるはずだったがゆえに可愛がっていた孫である第一王子の失態。

 それを知らされた時は余りの愚か過ぎる内容に、アーガスト侯爵は二度、三度と部下へと確認してしまった。


(大人しくしておけば勝手に王位が転がり込むのだから、適当に公爵令嬢の相手をしておけば良かったものを。

 たかが男爵令嬢の、あのような分別も、教養もない、小娘のあるかも分からぬ色気に惑わされるとはな……。)


 苛立たしげに金縁の片眼鏡の縁を触り、心を落ち着けようとするアーガスト侯爵だったが、あまり効果を得ることは出来なかった。


(あの小娘を召し上げたいならば公爵令嬢との婚儀を済ませ、暫しの時を待ってから側室でも、妾妃にでもすれば良い。

 あとは、我らにとっても邪魔な公爵令嬢には王妃としての立場を無くさせるために、子を孕ませ無ければ良いだけのこと。

 それを……あの愚か者めが……。)


 バカの方が操りやすいと最低限の王としての教育がされていることを確認するだけで、進言してまで徹底した英才教育を施さなかったとはいえ、あまりに駄作すぎる仕上がりとなった第一王子へ苛立ちだけが募る。

 腐っても鯛とはいうが、王籍や王位継承権を剥奪された者などアーガスト侯爵にとって何の利用価値もないのだ。


 アーガスト侯爵には王城に呼び出される前から、王達(かいかくは)にとっては邪魔だったであろう(ほしゅは)の血を引く王子がこれを機に王位継承権と王族としての籍を剥奪されることは目に見えていた。

 だからこそ、最初は何とか王を宥めて唯一の己の血を引く王子から最低でも王籍だけは奪われないように交渉出来ないかと多少は思っていた。


 ……もっとも、謁見の間に入って来た王子の言動にその気も失せたが。


 しかし、周囲から人徳者として敬われている以上は多少の減刑を願う演技も必要か、と算段したことで、上手く無能な駒達を押し付けられる形になってしまった。

 本来ならば、あそこまで王達の思い通りにならないアーガスト侯爵にとっての一番の予定外の伏兵は、空気を読まな過ぎる小者(だんしゃく)という存在だった。

 そんな小者の影響もあり、まんまと押し付けられた無能な駒達の存在を思い出し、アーガスト侯爵は数十匹以上の苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。


(あの忌々しい武術狂いの(おうひ)にしてやられるとは……!

 あのような無能共の罪の自覚も、更生も、私の知ったことではない。

 問題は押し付けられた事実がある以上はあやつらが騒動を起こせば、我が身に降りかかるという点のみ。

 だが、腹立たしいことに何かしらの償いをさせずに幽閉することも出来んが、愚かな真似をする確率が高いゆえに野放しにも出来ぬ。)


 ギリギリと奥歯を噛みしめるアーガスト侯爵の表情は、謁見の間で見せた人の良さそうな笑顔を浮かべた人物と同一とは思えぬものだった。


(……まあ、良い。

 男爵家の小娘と王弟の倅は適当な監視の厳しい教会に放り込めばいい。

 オリントスとレパードの小僧共は平民として相応しく兵士見習いと下級魔導師見習いとして其々の場所に見張り付きで放り込む。

 リンジャーの小僧はどうするか……?

 一応廃嫡になってはいるが名まで失った訳ではないからな……。

 リンジャーの出方次第か。

 そして、ライナスだけは我が手元に引き寄せ、いつの日か大きな功績を立てるための下準備を、とでも言い聞かせて、下らん真似をさせぬようにせねばなるまいて。

 ……それに、王達(あやつら)の狙いがわかっておる以上は、決してその思い通りにならぬように言動に細心の注意を払わねばならん。)


 そこまで考えたアーガスト侯爵は己の身の内の奥の奥で燻り続け、時として燃え盛る業火となる野心、野望の炎を感じ取り低い声で笑う。


 アーガスト侯爵はいつだって己の思い通りにならぬ人生という盤上を、今まで周囲の駒達を利用し尽くして生き抜いて来たのだ。

 だからこそ、今の状況を切り抜けるための最上の一手を打つために、他の駒をどのように動かし、利用するか、思考を巡らせていく。


(……まずは、失った次期王位継承権を持つ若者(こま)を手に入れる必要がある。

 第一王位継承権を持つ王女は声を掛けるだけ無駄というもの。

 ならば、残るは側室であった既に死んだ子爵令嬢を母に持つ、後ろ盾のない第二王子か、王弟の長男である第五王位継承権を持つ第二騎士団長のどちらか。

 ……第二王子の方は、母親と本人へ我が娘が嫌がらせをした事実がある。

 いざとなれば、娘を切り捨てればこちらに付くか?

 いや、難しかろうな。

 私ならば、今まで侮辱し、危害を加えた者達の味方になった振りをして一番重要な局面で裏切る。)


 己が操り人形にするつもりの王位継承権を持つ者を取り込もうと考えるが、第一側室である嫉妬深く、矜持だけが高い娘の行動が原因で一人目の候補が頓挫したことを忌々しく感じる。


(もう一人は改革派に属する王弟の長男だが、あちらの方が良いか?

 見るからに矜持が高く、野心家な性格に見える、能力も一級品のあの男。

 仲間に引き入れることは可能でも、あの男が大人しく操り人形となることはなかろう。)


 新しい己の操り人形を手に入れることすら思い通りにならない現実に、アーガスト侯爵は今すぐにライナスや娘を縊り殺したくなった。

 あの愚か過ぎる者達さえいなければ、あと数年もすればアーガスト侯爵の思い通りの未来の形を描けたのかもしれないのだ。


 脳裏で何度も邪魔な身内に対し殺意を向けても消えることのない苛立ちに、アーガスト侯爵は大きく深呼吸を繰り返す。


 深呼吸のおかげか少しだけ平穏を取り戻したアーガスト侯爵は、王達に狸と揶揄される性格の滲み出た笑みを浮かべた。


(予想外の出来事に儘ならぬ我が野望。

 しかし、簡単に叶うような野望では詰まらぬ。

我が人生全てを賭けての国盗りならば、残りの人生を賭けるだけの価値はあろう。

 私が死ぬか、それとも……。)


 己の行く末が破滅か、栄光か……。

 予想のつかない結末を栄光へと近付けるために血の繋がった無能な身内を排除することになっても力を尽くす。


 だが、その先にある結末が例え破滅でもアーガスト侯爵は決して後悔することはないと断言できた。


(盤上の一手、一手を確実に進め、予想外の駒の出現と邪魔者の排除に勤しまねばなるまい。

 ……我が野望を叶え、栄光と権力の全てを我が手に……!)


 昏く、冷たく、激しく燃え盛る野望の炎が滲み出た顔を隠すことなく、アーガスト侯爵は決して善人には見えぬ笑みを浮かべ続ける。


 ………だが、アーガスト侯爵はまだ知らなかった。

 すでにアーガスト侯爵の言う盤上には異物が一つ混ざり込み……さらに新たな打ち手が参加しようとしていることを。


 幸か、不幸か、アーガスト侯爵はまだ知らなかったのだった………。





※※※※※※※※※※






(どうして!

 どうして!!

 どうしてっ!!!

 どうしてっ私がこんな目に合わなきゃいけないのよっ!?

 私はみんなに愛される主人公(ヒロイン)のはずでしょう!?

 それが何で死ぬまで教会に入れなんて言われなくちゃならないのっ!!)


 王都の貴族街の端にあるフェイツ元男爵家の屋敷にある、一番日当たりの良いピンク色を主体に纏められた自室内でステラは苛々と歩き回っていた。


 謁見の間から退室すると同時に、ステラは無理やりライナス達から引き離されるように父親共々馬車に押し込められ、男爵家へと強制的に送り届けられたのだ。


(ああぁぁぁ、もうっ!)


 苛立ちが頂点に達したステラはベッドへと飛び込むように横になる。

 ステラの体重だけでなく、飛び込んだ勢いまで受け止めることになったベッドはギシギシッと悲鳴のような音を鳴らす。


 しばらくベッドの上でうつ伏せでジタバタしていたステラだったが、少しは苛立ちが収まったのか仰向けになり天井を睨みつける。


「……元々悪役令嬢の嫌がらせは微妙だったけど、ものすごくストーリーが可笑しくなったのはあの女が現れてからよね?」


 主人公を愛する攻略者(ライナス)達には決して見せることのない、眉間に皺に寄った険しい表情をステラは浮かべて一人の女性を脳裏に思い浮かべる。


(あの女って確かライナス様のストーリーで病死したとかっていうテロップが流れて終わりの奴よね?

 それが何でライナス様が悪役令嬢を断罪して、(ヒロイン)を選ぶ一番の山場で邪魔してくんのよ!

 テロップでしか現れない脇役なんて、さっさと病死でも、なんでも、すればいいのにっ!!)


 可愛らしく、控えめな笑顔を見せていたはずのステラの顔は、如実に気持ちを写し出して歪んでしまっている。


 それにすら気が付かず、ステラは脳裏に己の知っている運命(ストーリー)を思い出していく。



 ステラが全てを思い出したのは、平民だった母親が病死した時だった。


 幼くして最愛の母を亡くし、呆然と涙を流していたステラの脳内に濁流か、鉄砲水のように蘇った“主人公(ステラ)”になる前の記憶。

 十代半ばで高校という所に通っていた少女は、“恋する(リュミエール)〜光り輝く運命の物語”という乙女ゲームが大好きだった。


 乙女ゲームの中の主人公は健気で、可愛くて、沢山の見目麗しい異性に愛され、大切にされ、女の子達が憧れるシンデレラのように幸せとなる。


 しかも、“恋する(リュミエール)〜光り輝く運命の物語〜”の続編ではベルフィーユ学院卒業後が舞台となる。

 卒業後の主人公(ヒロイン)が滅多に現れることのない治癒魔法を操ることの出来る光魔法の使い手ということが発覚し、たくさんの課題と修練を見え麗しい攻略者達と協力して達成し、ベルフォード王国の国民全てに敬愛され、尊敬される“光巫子”と呼ばれる存在となるのだ。



「……なのに、どうしてよ!?」


 前世の記憶を取り戻してから、何度も脳裏に思い出して刻み込んだストーリー通りに行くはずの世界が、本来あるべきストーリーを大きく外れてしまった。


 そのことに、ステラは己が主人公である世界に裏切られたように感じ、余計に腹立たしく感じてしまうのだ。


(あの女……転生者なのかな?

 でも、テロップだけで登場する何の役割もない脇役が記憶を取り戻してからどうすんのよ?

 記憶を取り戻すのが脇役女じゃなくて、命を脅かされる危険の高い悪役令嬢か、その取り巻きならまだ分かるわ。

 悪役令嬢が婚約破棄をされた時に前世の記憶を取り戻して、主人公(ヒロイン)と攻略者達にざまぁする小説が流行ってたし……。

 え……やだっ、もしかして、それなわけ!?)


 ステラは苛立たしげに爪を噛んで今の状況を整理しようと考えるが、情報が足りなさ過ぎてどうして良いのか分からなかった。


(でも、私はざまぁされるなんてごめんよ!

 こうなったら……続編に出てくる“光巫子”を確実に目指すしかないわ!

 時間軸はよく分かんないけど、多分そう遠くないうちに何か動きがあるはず。

 そうしたら、私がとおっても貴重な光の魔法を操る才能があるってことが分かって、状況は一変されちゃうのよ!

 そして、私に無礼を働いたあの女も、王も、みーんな頭を下げて擦り寄って来るでしょうね。)


 なんて良いことを思い付いたのかしら!、とステラは苛立ちに歪んでいた顔に楽しそうな笑みを浮かべる。


(“光巫子”は国一番の治癒魔法の使い手。

 しかも、前の“光巫子”だった人が死んで、それから誰も選ばれてない……。

 “光巫子”になるためには、王国に代々伝わる宝珠に選ばれること。

 選ばれる条件が、光魔法の使い手で、清らかな心と強い覚悟や信念を持つ者。

 うんっ! ヒロインの私にぴったりじゃない!)


 苦境を脱するための一発逆転の方法を思い付いたステラは、教会生活も少しだけの我慢だと自分に言い聞かせる。


「うふふ! でも、でもぉ……宝珠に選ばれる条件に愛される可愛いヒロイン、とかも入れて欲しかったなあ。

 そうしたら、ますます私にぴったりだったのに!

 あっ! 続編に出てくる新しい三人の攻略対象者も楽しみかも!

 私的には第二騎士団長のサミュエル様のお兄さんが一押しかなっ!」


 一発逆転の方法を思い付きステラは安心したのか、きゃあきゃあ、と赤く染まった頬を押さえて嬉し恥ずかしそうにベッドの上でゴロゴロと悶えてしまう。


 そして、近い将来に広がる自分が主役(ヒロイン)の薔薇色の世界を夢想し、それが必ず叶うと信じて疑うことなく心からの笑みを浮かべるのだった。






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