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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女覚醒編

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第十話


 処罰を告げたレオナルドの言葉に、誰一人として声を発することなく謁見の間が静まり返る。


 だが、沈黙に包まれた謁見の間に緊迫した空気を動かすように一人の声が響く。


「恐れながらよろしいですかな、陛下?」


 金縁の片眼鏡の縁をクイっと上げながら、柔和な笑みを浮かべて声をあげたのは第一王子の祖父であるアーガスト侯爵ロナルドだった。


「構わぬ、発言を許そう。

 他の者も何かあれば申せ。」


「有り難き幸せ。」


 鷹揚に頷いたレオナルドへと軽く一礼したアーガスト侯爵は悲しげに己の考えを述べ始めた。


「陛下、此度のシェパール公爵令嬢への彼らの仕打ちは確かに非道うございます。

 王位継承権を剥奪した上に王籍よりの除外も致し方無きことと重々承知しております。

 命を奪わぬことが、せめてもの温情だということも理解しております。

 しかしながら、殿下は私にとって大切な娘が産んだ唯一の孫。

 貴族の一人として許されぬことやも知れませんが、やはり庇いたくなるのも親族の情というものなのでしょう。

 どうか、まだ年若き者がなされたことと、挽回の機会を与えては頂けないでしょうか?」


「おじい……アーガスト侯爵……」


 若者の未来を摘み取るのは悲しゅうございます、と語るアーガスト侯爵へとライナスは縋るように視線を向けた。


「アーガスト侯爵、そなたは公衆の面前で無実の公爵令嬢を侮辱し、危害を加えた者達を許せと述べていると理解してよろしいか?

 もしもそうであるならば、それは大きな誤りで有り、問題だと言うことを忠告致しましょう。」


 本音は己の血筋を持つ(おうぞく)を失いたくないだけだろう、と言葉の裏に潜ませて、グウェンダルはアーガスト侯爵へと鋭く、冷たい眼差しを向ける。


「そのようなことは申しておりませんぞ、宰相殿。

 多くの好奇の目に晒され、傷ついたであろう令嬢の心を思えば、胸が張り裂けそうな気持ちです。

 しかし、若者は誘惑に負けやすく、間違いを犯しやすい。

 犯した罪を責めることは容易く、間違いを正し、成長を促すことは難しい。

 年若いからこそ、罪を理解させ、償わせ、正道へと導くことも重要だと申しているのです。」


 グウェンダルの鋭い視線をものともせず、アーガスト侯爵は感情を読ませない微笑を浮かべて言い返す。


「お、恐れながら、わ、私もアーガスト侯爵に賛成でございます!

 そ、それに、些か罰が重すぎる気が致します。

 む、娘もシェパール公爵令嬢様へ悪意を持っていた訳ではなく、かな、悲しい誤解や擦れ違いの結果の悲劇ではないか、と……」


「貴殿はことの重要性を理解されていないようですな!

 公衆の面前であれほど侮辱し、謂われ無き罪で責め立てておいて、悪意を持っていなければ何をしても良い、と?」


 グウェンダルはアーガスト侯爵へと向けていた視線をオドオドと自分の考えを告げたフェイツ男爵へと向ける。

 鋭く、冷たい視線を正面から受け止めることになったフェイツ男爵は、ヒイッと小さな悲鳴をあげて小太りな身体を小さく縮めた。


 父親を庇うと言うよりは、自身の考えを主張したかったのか、ライナスの背後でルイスに押し止められたステラが声を上げようとして失敗してしまう。


「これこれ、宰相殿。

 そなたの恐ろしい視線を向けると失神してしまいそうな御仁へと酷ですぞ。」


「オリントス筆頭魔導師殿。」


 ひょっひょっひょっ、とその場に似合わぬ笑い声をあげ、長く白い髭を触りながら、さらに眉間にしわを寄せたグウェンダルを諌めるのは、筆頭宮廷魔導師サフィールだった。


「ふむ……若さゆえの過ちと言ってしまえばちいっとばかし聞こえは良いかもしれぬが、罪は罪。

 まして、この度は陛下のお決めになった婚約を一方的で、道理の通らぬ理由で王子殿下が破棄を宣言する、公衆の面前で無実の令嬢を多勢で責め立てるなど前代未聞の事柄を起こしておりますのう。

 それを若さゆえの過ちなどと、その程度の言葉で片付けて良いとは思いませぬがの。

 もっとも、我が後継を勝手に名乗っておった痴れ者が一人混じっておりますが、其奴はすでにオリントス家とは何の関わりの無き者。

 庇う必要もなく、捨て置いて下さって構いませんぞ。」


「……お、お爺様……」


 わしの後継は幼き頃よりちゃーんと鍛え上げておりまする、と告げたサフィールへ、己こそが賢者の後継だと自負していたダレンが呆然とした表情を浮かべる。


「私もオリントス筆頭魔導師に賛成でございます。

 一応なりとも王族の、しかも王位継承権を持つ、神に仕える者が真実を調べようともせず、一方の言葉だけを受け入れ、判断するなど嘆かわしい限りです。

 あの者に王位継承権など持つ価値はありませぬ。

 本来ならば、王族から除籍し、一人の神官見習いとして山奥で神に仕える道を進めることすら生温いと思います。」


「そんな……お父様……」


 青い瞳に苦悩の色を滲ませ、懺悔するように告げたクリストフへとサミュエルは見捨てられ、絶望感を漂わせた表情を浮かべてしまう。


「私も遅くに出来た子ゆえに甘やかし過ぎたのでしょう。

 今までも叱り、嗜めていたつもりでしたが、全ては親の欲目か、あくまでつもりはつもりでしか無かったということ。

 本来であれば、我がリンジャー家も爵位降格、もしくは改易蟄居、息子も処刑されても可笑しくないところを、息子の廃嫡のみでお許し頂き、陛下と宰相閣下の温情に感謝しております。」


「父上……」


 レオナルドとグウェンダルへと深く頭を下げるリンジャー伯爵の姿に、ルイスは信じられないと言った表情を浮かべる。


「己も、いえ……己こそが一番恥じ入るべきでしょう。

 栄えあるベルフォード王国の騎士団長の役職を陛下に賜っている我が身内より、罪なきか弱き婦女子を傷つける者が出ようとは……!

 即刻、騎士団長を辞任し、その愚か者を罰し、息の根を止めた上で、この素っ首をはねてお詫びせねばなりませぬのにっ!

 このような息子一人満足に育てることの出来ぬ愚か者を失いたくないと、有り難きお言葉を賜るなど、この身に過ぎたるお言葉です!

 斯くなる上は、全力で我らが国王陛下のため、国のために我が命だけでなく、我が一族全ての命を捧げ、忠義の限りを尽くしまする!」


「……ひっ……」


 愚か者を弑する、と言う言葉とともに、訓練では一度も向けられたことのない父親の凄まじい殺気を浴びせられたフレドリックがガタガタと身体を震わせる。


 そんなライナス達への厳しい意見が多く出る中で、少しでもその雰囲気を和らげようとアーガスト侯爵が辛そうな表情で口を開く。


「……そうですな。

 皆様の身内であるがゆえに余計に許せぬ気持ちも痛いほど分かります。

 しかし……だからこそ、親であり、血を分けた肉親である我らが見捨てることは彼らのために成らぬのではと思ったのです。

 ……私の考えは甘過ぎたのやもしれませぬな。

 もう一度だけでも、挽回する機会を与えることも、支え、導くことも、大人の重大な役割かと考えてしまったのですが…………。」


 血を分けた者を失うことはお互い辛いことでございます、とアーガスト侯爵は苦しげな表情を浮かべる。


「ですが……」


「わ、私も導くことに賛成でございます!

 罪を自覚して、償うことも、侯爵様の言う通り重要なことだと思います!」


 一度言葉を切り、何か言いかけたアーガスト侯爵の声に被せるように、娘を守ろうと必死なフェイツ男爵が声をあげ、首を縦に激しく降って同意の意を示す。

 遮られた本人であるアーガスト侯爵は片眉をピクリと動かすが、フェイツ男爵に構うよりも先に己の考えを正確に周囲へ伝えるために口を開こうとする。


「陛下、わたくしは感動いたしましたわ!」


 だが、アーガスト侯爵が改めて口を開こうとした時、それよりも一拍早く緊迫した謁見の間に似合わぬ軽やかな声が響いた。

 その声をあげたのは、胸の前で両手を組み、頬を薄紅色に染めて微笑む王妃、エリザベートだった。


「王妃よ、感動したとは如何に?」


「はい、陛下。

 わたくし、アーガスト侯爵の若者の未来を信じる強い心に感動致しましたの!」


 何を感動したのか、と問うレオナルドへと美しい微笑を浮かべたエリザベートが嬉しげに語る。


「ここまで罪を犯し、普通ならば有り得ぬほどに重ね続けた若い彼らの未来を信じることが出来る、人徳者の鏡と言える侯爵ですもの。

 きっと若い彼らの罪を自覚させ、支え、正道に導いてくださると思いますわ。」


 彼ら、というエリザベートの言葉にアーガスト侯爵の金縁の片眼鏡の奥にある目元がピクリと動く。

 エリザベートの言葉を遮る訳にもいかず、その真意を確かめようと機会を図って口を開きかけたアーガスト侯爵より先に、レオナルドが口を開いた。


「ふむ……処罰を公式に発表する必要はあるが、それから先の彼らの身柄を誰かに預け、罪を理解させ、更生させる役割を与えることも重要ということか。」


 エリザベートの意見を聞き、脳内で考えをまとめる様に閉眼したレオナルドはすぐに開眼し、玉座の肘置きをピシャリと一度叩く。


「良かろう!

 アーガスト侯爵の減刑の願いを受け入れ、処罰を受けた者達全員の身柄をロナルド・アーガスト侯爵へと一任することとする。

 また、第一王子の王籍よりの除籍の件のみ公式には発表せず、十分に反省し、何か大きな功績を挙げることが出来た暁には……な」


 良い考えを思いついた、と満足気な笑顔のレオナルドはアーガスト侯爵に対して勅命を発した。


「……謹んでお受け致します。」


 レオナルドからの直々の勅命にアーガスト侯爵は本音を顔に出すこともなく、全く嫌がる素振りも見せずに受け入れた。


 そんなアーガスト侯爵へとライナス達は救いの光を見つけ、縋るような、希望を見出し、期待のこもった眼差しを向ける。


「陛下」


「許せ、宰相よ。

 余も王であると同時に人の親だと言うことよ。」


 グウェンダルの普段と変わらぬ声音の中に、少しだけ咎めるような気配を感じてレオナルドは苦笑した。

 人の親だと漏らすレオナルドへと、父上……、と小さくライナスが呟く。


「では、これにて此度の一件に関する詮議は終了とする。」


 異論を認めぬレオナルドの解散に言葉に対し、その場に集まった貴族達は一斉に頭を下げたのだった。





※※※※※※※※※※





「ふふふ、これでアーガスト侯爵の首に大きな鈴が付きましたね。

 ある意味で、フェイツ元男爵が良い仕事をして下さいました。」


 謁見の間から離れ、王の私室へと戻り、グウェンダルとアスランの三人となって、ポツリとアスランが微笑みながら呟いた。


「確かにな。

 周囲に仁徳ある貴族の鏡と思わせている侯爵が本音はどうであれ、簡単に己の血を引く王子を見捨てる行動を取ることは出来まい。

 侯爵の立場的には一度は庇ったと言う姿勢を見せた上で、それでも減刑が叶わぬほどの罪だったという姿勢をとりたかったのであろう。

 しかし、それを真に受けた男爵に足を引っ張られてしまうとは、な。」


 アスランの言葉に謁見の間でのやり取りを思い浮かべ、レオナルドは苦笑してしまう。

 最初からレオナルドは立場上どうしても一度は庇わなければならない侯爵の立ち位置を利用し、ライナス達の保護者にしてしまうつもりだったのだ。


 そうすれば……ライナス達が勝手に失態を重ね、その責任を保守派の筆頭である侯爵が背負わねばならぬと言うことが目に見えていたのだから。


「陛下、本当によろしかったのですか?」


第一王子(アレ)のことならばもう良い。

 公爵令嬢の一件に追加して謁見の間での度重なる失態……アレを息子とは思わぬ。

 それに、あの時も言ったがこの国を腐らせる膿を出し切るための役に立てばアレも喜ぶだろう。」


 アスランとの会話を静かに聞いていたグウェンダルは息子を捨て駒にすることを本当に良いのか、とレオナルドへと改めて問い掛ける。

 宰相としてではなく、王へでもなく、一人の友人を気遣ってくれるグウェンダルへとレオナルドは苦笑を浮かべてしまう。


「冷徹非道の黒公爵の二つ名を持つ其方らしくもない。

 生かしておけば、アレを含むあの者達がこのまま大人しくしている訳が無い。

 必ず何か騒動を再び起こし、(アーガスト)侯爵の失態の一つになるだろうな。

 ……王国のためにそれを利用しない理由はないと思うがな。」


 だからこそ、最後の最後で肉親の情と王族に戻れるかもしれない、という有りもしない希望を彼らに与えたのだ。

 そして、彼らの起こす騒動は鈴の持ち主となった狸侯爵、ひいては保守派という派閥を解体するための切っ掛けとなるのだから。


 そのためにも手札は多い方が良い、とレオナルドはアスランへと視線を向ける。


「フェイツ男爵令嬢に関わる襲撃の一件はランスロットに調査を命じています。

 第一王子達が証拠と主張していた紋章の制作者も鋭意探索中です。

 あと追加の報告ですが、わざと改易せずに泳がせているフェイツ男爵、いえ準男爵に元々不正の疑いが有りましたので影の者に先行して潜入調査を命じていました。」


「フェイツ準男爵に関しては私の方でも国に提出された領地の出資報告書について疑問を抱く部分が有りましたので、齟齬のある部分を抜粋し此方に纏めております。

 また、我が娘、シェパール公爵令嬢より第一王女殿下を通して、元第一王子殿下、並びにその側近候補達の不貞の証拠が届いております。」


 叩けば簡単に出るホコリや、証拠の数々にレオナルドは呆れてしまう。

 狸侯爵もきっと預かることになった彼らのことで、頭を悩ませることになると思えば、少しだけいい気味だとレオナルドは思った。


「……庇うことなどせず、物理的に首を切った方が早かった、と近いうちに狸侯爵が後悔すると思うのは余だけなのだろうか……?」


 政敵のこととはいえ、思わず遠い目をしてしまうレオナルドへと、グウェンダルとアスランは顔を見合わせ、深々と頷き、肯定の意を示すのだった……。





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