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脇役王女の王国奇譚〜乙女ゲーム? いいえ、現実(リアル)ですわ~  作者: ぶるどっく
*脇役王女覚醒編

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第一話


「…………実際に目の当たりにしますと興醒めするものなのですね。」


 眼下で繰り広げられる光景を目にした一人の十代後半の女性がポツリ、と心中を漏らしてしまう。

 その小さな呟きは、一階のホールで騒ぐ者達の喧騒に掻き消された。


 小さな呟きを漏らした女性、セレスティナは一気に蘇った記憶の奔流に軽い眩暈を覚えながらも、頭の中を素早く整理していく。


「(……そう……私は、セレスティナ。

 セレスティナ・スノウ・ベルフォード。

 このベルフォード王国の第一王女。

 ……そして……全く歓迎できないことに、所謂輪廻転生というものを記憶付きでしておりますわね。

 しかも、面倒なことにおそらく……この展開を鑑みますに何かの“乙女ゲーム”と呼ばれている物に似た世界でしょうか?)」


 女性、セレスティナは己の脳裏に溢れ出た記憶と目の前で繰り広げられる光景を冷静に分析した上で小さなため息を漏らしてしまう。


 セレスティナがいるこの場所。

 それはベルフォード王国にある貴族達の子息・令嬢が集い、学び、切磋琢磨する場所。

 王国の未来を背負っていく貴族や騎士を育てる学び舎、王立ベルフィーユ学院である。

 その学院の一角には季節の折々に開かれる式典や催し物を恙無く終えることが出来るための広さと設備を備えた大広間があった。

 セレスティナがいるのはこの広間にあるダンスホールへと続く大理石製の階段の上部。

 王族や来賓達が使用する控え室から続く場所である。

 来賓である己(王妃を生母に持つ第一王位継承者)の入場を待たずして始まった愚弟……、ではなく第一王子(側室を生母に持つ第二王位継承者)の茶番、もとい喜劇に怒りを通り越して笑いすら浮かばない。


「……ミオン、わたくしはこの場を収めます。

 貴女は私がこの場を収めるまでの一部始終を書き記して紙面上に残して。

 護衛の騎士の一人は今すぐに第一王子が陛下のお認めになった正式な婚約者である公爵令嬢に対しての礼を欠いたこの出来事を報告してくださるかしら?」


 セレスティナは側に控えていた少女、ミオンの名を呼び、指示を出した。

 ミオンと呼ばれた丈の長い紺色の侍女服に身を包んでいる猫目の少女は、セレスティナの言葉に笑顔で“是”と応えて何処からともなく筆記用具と紙を取り出す。

 ミオンに続くようにセレスティナの護衛として側に控えていた騎士の一人が簡略した礼をとり、命令を遂行するために王城に向けて走り出した。


 ベルフィーユ学院の卒業を祝う舞踏会に出席するためだけに来たはずのセレスティナ。

 全く笑えない展開を眼下で繰り広げる道化と言う名の愚弟を含む少年達の言動に、繊細なレースをふんだんに使っている手袋の中にある美しい意匠の扇子を音が鳴るほどに握り締める。

 卒業の舞踏会には一部の保護者達、即ち海千山千の貴族達も参加しているのだ。

 セレスティナは様々な理由から月の女神と称えられることもある王妃から受け継いだ儚げな美貌の(かんばせ)を曇らせる。

 セレスティナの脳裏には、己が死ぬ直前まで仲良くしていた親友の言動が蘇っていた。

 乙女ゲームが大好きだった彼女(しんゆう)がはまっていたゲームの一つにセレスティナの生まれ変わった世界は酷似しているのだ。

 しかし、残念なことにセレスティナは彼女の話のほとんどを覚えていなかった。

 唯一朧気に覚えているのは、“セレスティナ”という存在はゲームの中で脇役であり、詳細な設定すら与えられていないということ。

 さらに言うならば、攻略キャラのルートによっては都合よく病死したり、名前すら出てこない存在だということである。

 乙女ゲームの中では脇役に過ぎない“セレスティナ”。

 しかし、現実(リアル)ではそのようなことは許されないし、アラフォーのOLだった過去の自分の記憶と生き方が脇役という逃げ道に駆け込むことを許さなかった。

 記憶が蘇ったことで心も、意志も変化したセレスティナの視線の先では相変わらずの茶番が繰り広げられていた。


「ルクレツィア・メイ・シェパール!

 公爵令嬢の身でありながら、男爵令嬢ステラ・フェイツに対する数々の嫌がらせと命を失いかねなかった危険行為を行うようなお前との婚約を今この場を持って破棄する!

 そして、此処にいるステラ・フェイツ男爵令嬢と婚約する!」


 母親譲りの亜麻色の髪を揺らし、青い瞳に愛しい相手を傷つけようとした相手への怒りを燃やしながら力強く宣誓する第一王子、ライナス・フラン・ベルフォード。


 その背に庇い、愛しげな眼差しを王子、ライナスが送るのはコーラルピンクの髪に、涙で若草色の瞳を潤ませた小動物のような外見の少女、ステラ・フェイツ男爵令嬢。


 そして……その怒りの眼差しを向けるのはライナスの目の前に無理やり押さえつけられ、美しく整えられていた深紅の髪とドレスを乱した公爵令嬢、ルクレツィアだった。


「……殿下のおっしゃる意味を測りかねますわ。

 わたくしはその者に対して殿下がおっしゃたような真似をする必要はありません。

 まして、このような屈辱を受けねばならぬ理由もございませんわ。」


 ルクレツィアは騎士団長の子息や王宮魔導師の孫に中腰の状態で押さえつけられる身体の痛みに気の強そうな美しい顔を歪ませながらも、はっきりと否定の言葉を発する。

 その公爵令嬢に対する、いや、一人の16歳といううら若い乙女に対する仕打ちとは思えぬ対応に、良識のある貴族達は眉を顰める。


「此の期に及んでもまだしらを切り通すつもりかっ!

 ステラに対し私に近づくな、身の程をわきまえろ等と多勢で詰め寄ったばかりか、ステラの持ち物を盗み取り隠した!

 その上っ、私の心がステラに向いていることに嫉妬した貴様はステラの命を奪わんとならず者達を雇い、襲わせたっ!」


 罪を認めず否定の言葉を紡ぐルクレツィアに、益々怒りを燃やしたライナスは畳み掛けるように罪状を告げていく。

 決して怯むことのないルクレツィアに対して怒りの眼差しを向けるのはライナスだけでは無かった。

 ルクレツィアの身体を押さえ付ける騎士団長の子息や宮廷魔導師の孫、ライナスとステラの背後に控えるように立つ神官長の子息や伯爵子息も秀麗な顔を歪め敵意を向けている。

 ライナスへ対して否定の言葉を紡いだことで、更に華奢なルクレツィアの身体を苛むように締め付ける子息達の力に抗うように黄金の瞳に冷ややかな光を灯す。


「大勢の皆様達の目の前で、このような真似をなさるならば……何かはっきりと私の罪を証明する“物”が有るのですか?」


 そのような証拠の品など有りはしない、と射るような眼差しでライナスとステラを見つめるルクレツィア。

 そんな強い意志を宿した眼差しに一瞬怯みそうになったライナスと、その視線も恐ろしいとばかりに身を竦ませてライナスの背にすがるステラ。


「……証拠は有るっ!」


 ルクレツィアの眼差しに怯みかけたライナスだったが、己の背に縋り、微かに震えるステラの存在に気を持ち直す。


「ステラを襲ったならず者達を生きて捕らえることは出来なかったが、その身にシェパール公爵家の家紋の付いた剣を所持していた!」


 これが証拠だっ!、とライナスは鬼の首を取ったかのように高らかに剣を掲げる。


「……喜劇にもなりませんわね。

 そのような剣が証拠とおっしゃる方がわたくしの婚約者だったとは甚だ遺憾にございますわ。」


 証拠だという剣を見つめ、それに付いた家紋を確認したルクレツィアはすぐに興味を失ったかのように視線を外しため息をつく。


「王族である私に対し無礼なっ!」


 強い意志が翳り、呆れと侮蔑の混じったルクレツィアの眼差しに頭に血が上ったライナスは怒りに任せて歩を進めようとする。


「…………。」


 数歩しか離れていない押さえつけられて身動きの付かないルクレツィアは、怒るライナスを反らすこと無く冷え切った瞳で見つめ続ける。


「ダメです、ライナス様っ!」

「………!?

 ……ステラ、何故止めるんだ?」


 怒りのままに行動しようとしたライナスを背後より抱きしめるように止めたのは、その背中に庇われていたステラだった。


「優しいライナス様が私などのために誰かを傷付ける姿を見たくありません!

 それにきっと私がルクレツィア様の御気に触るようなことをしてしまったのですわ。」


 だから、だから………、と上目遣いに涙で潤んだ瞳をライナスへと向けるステラ。


「……ステラは本当に聖女のように優しく、清らかな心の持ち主だな。

 ステラの優しさに免じてお前の一族郎等を罪に問わぬ。

 心よりステラへ感謝し、この場で謝罪せよ。」


 その後のことは追って沙汰する、とステラの優しさに感動し、怒りを抑えたライナスがルクレツィアに吐き捨てるように告げる。


 さっさと頭を下げて赦しを乞え、と ルクレツィアの両側を固め、押さえつける子息達がギリギリと更に力を込めた。

 強い男の力に痣が残るでしょうね、と場違いなことを頭の隅で考えながらルクレツィアは美しい微笑を浮かべる。


「わたくしはベルフォード王国の誇り高き公爵家の血を継ぐ者。

 身に覚えのない言われなき罪を認め、婚約者のある殿方を奪わんとするような方に偽りでも下げる頭はございませんわ!」


 華やかで、美しいルクレツィアの微笑に一瞬心を奪われたライナスや周囲で事の成り行きを見守っていた貴族達。


「……ひどいです、ルクレツィア様……。」

「……っ?!

 貴様っ!!黙れっっ!!!」


 はらはら、と大きな瞳から涙を流すステラのか細い声に正気を取り戻したライナスは怒りに秀麗な顔を赤く染め、その手に持っていた証拠の剣でルクレツィアの身体を打ち付けようと振り被った。


 誰もがルクレツィアの華奢な身体に鞘に納められた無骨な剣が振り下ろされる、と目を背ける。


 …… しかし、その場の緊迫した空気を切り裂くようにバキィィッッ、と激しい音が響き渡ったのだった。




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