止まった明日に住まう君へ
「や、元気してた?」
「もっちろん! 元気だったよ!」
何の変哲もない古風な家、和風なお屋敷。
僕は二年ぶりにその家へ足を運んだ。
ここは僕の家じゃない、大切な人の家だ。
僕は君の前に座って話しかけた。
「ごめんね、中々来れなくて。最近仕事が立て込んでてさ……もう疲れたよ」
「そうなんだ、ちゃんと休まなきゃだめだよ? 倒れたりしたら私怒るからね?」
「そだ、今日はお前の好きなお菓子買ってきたぞ」
「わーい!! お饅頭だ! サンキュー!」
僕は創業数十年の和菓子屋でかつて君と食べた饅頭の箱を取り出して君の前に置いた。
ここの和菓子屋にも数年ぶりに立ち寄った、相変わらずの古びた和菓子屋だったがそこにいるおばあちゃんは今も元気そうだった。
「そういや、お前と付き合ったのもこんな冬の日だったっけ」
「そうだね。いやー懐かしいなー……まさか告白されるなんて思ってなかったからビックリしたんだよ?」
「生まれた時からの幼馴染に告白するのって結構勇気いるんだからな? 忘れるなよ?」
「当たり前でしょ、嬉しかったんだから」
僕は君と晴れて付き合えた時のことを遠い過去のように思い出して話していた。
今思えば本当にどうして付き合ってくれたのだろうかと思う、君は男女問わず人気だったから。
高校二年生の冬、今から十年前の出来事。
「思い出したんだけど、お前確か成人式の日に寝坊しかけたよな」
「やめて! それ黒歴史なんだから!」
「俺が迎えに行かなきゃどうなっていたことか……お前は昔からたまにドジ踏むからな」
「あっはは………ごめん」
「でもあん時のお前は今まで以上に綺麗だったよ……ほんと、もう一度見たかったな……」
「………それはその、ごめんね」
「まぁ、そんなこと言っても仕方ないんだけど」
僕は自分の言葉に半ば呆れながら、写真に写る君へのフォローを入れた。
君が病でこの世を去ってからもう数年が経つ。
正直僕も、まさか君が死ぬなんて思いもしなかった。
まだ若かったのに、成人式を迎えたばかりだったのに。
君は子供の頃から病弱だったな、と、僕は笑顔が眩しい写真の君に話しかけた。
勿論、返事はない。
僕が一方的に話しかけているだけだ。
でも僕にとっては、それだけで―――――――
「じゃ、そろそろ帰るよ」
「あっという間だったね、なんか」
「また来月、来るよ」
「うん。じゃあね!」
「じゃあな」
外は雪が降っていた。
縁側から雪駄を履いておもむろに外に出て顔を上げると、雪が目じりを伝って頬を濡らした。
君の明日はもう進まない、止まったままだ。
だからこそ、僕が君を飽きさせないために、毎日を生きる。
さて、次はもっと、ちゃんとした土産話を持ってこなければ。
帰り道、僕は降り積もった雪の道を確かに踏みしめて歩いた。
頬を伝う水滴は、しょっぱかった。