退廃世界の調律師
お酒を飲んで寝る生活に疲れたので、いっちょ小説を書いてみました。
世間はハロウィンらしいけど、明日もお仕事です。
プログラマーやってますが、その影響が少し出ているのかもしれません。
駄文ですが、読んでもらえると嬉しいです。
よどんだ池の中を、小さな文字の羅列が虹色に光りながらかけぬけていく。
それが通ったあとの水は、まるで岩清水のように澄みきり、そしてあっというまに、広がっていく。
光が池の最奥に潜る様子を、多くの人たちが見守っていた。
「ああ、これからが見ものだ」
誰かが言った。
その言葉に、周りの、特に子どもたちが池の中を一斉に覗き込んだ。
その瞬間、澄み切った池の真ん中に光があつまり、細長い光が、とぐろを巻きながら池の上の空をめがけて飛び出した。
子どもたちは驚き顎を大きく下げながら、目を丸くする。
わあっという歓声に答えるように池の周りを一周し、その光はある男のもとに静かに降り立った。
「ΕπΘ」
男はそうつぶやくと、左腕に巻いたガラス質の腕輪に、光は収束していった。
「いやはや、調律師殿の穢れ祓いは、いつ見ても美しいですなあ。」
白い髭をなでながら、調律師と呼ばれた男の横に立っていた老人が笑う。
「これが僕らの仕事ですから。」
「とにかく、今年一年の穢れを浄化していただき、わしら村のものも来年生きていけるのですから、村長として感謝はたえませぬ。」
男が頭をかきながら、照れくさそうにしていると、ようやく顎を直した子どもたちがよってくる。
「おじさんすごーい!」「もう一回やって!」と頭が追いつかないほど騒ぎ立てる子どもたちの対応に追われながら、村長に困った顔を向けた。
「僕はまだ18歳なのですが······。本当にこの村は平和でいいですね」
「ええ。この平和が永く続けばいいのですが、やれやれ。」
村長がため息をつきながら言った。
その様子に、男、いや青年は子供の一人の頭をなでながらいう。
「ここ数年、世界中で穢れがひどくなっていると聞きます。凶暴した獣の討伐依頼も増えているとか······」
穢れは、生き物の不安や恐怖から生まれるとされている。ここのところ、世界で戦争や貧困、それによる人々の負の気持ちが増えている。
人から生まれた穢れは特にひどく、獣を異型にかえたり、人の心を惑わし、その地の環境まで変えてしまう。
昨年来たときよりも穢れが増えているこの村が、いつかそれに飲み込まれてしまうのではないか、と彼は不安に思いつつ、笑顔を作った。
「さて、僕はもう行きます。他の村に人手が足りないそうです」
その言葉に、村長と周りの大人たちが、興奮耐えやまない子どもたちを手で静止する。
「ではお元気で。また来年もこの平和な村でお待ちしております」
さようなら、という言葉をうけながら、青年はこの場所に背を向けた。
それを浄化してまわる、調律師の人数が圧倒的に足りないとも思いながら。
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彼は村のあった森を抜け、草の生えていない土の道に出た。硬い場所がほとんどなので、ここを多くの人が歩いているのだろう。
背中に背負っていたカバンから地図を取り出し、太陽の位置を確認する。
体を回転しながら地図の向きを確認して、ちょうどこの道を日の沈む方向に歩けばいいことがわかると、道を西に歩き始めた。
(次の村も、無事だといいんだけど······)
あの村で長居をしすぎたので、陽はまぶたの高さまで来ている。
(急がなければいけない。術を使うか)
「βζΘιη」
静かに唱えると、薄暗くなった道の真ん中を中心に光が集まった。
これで夜道も安心と先を急ぐ。
この術は、術者の近くの道を照らすというもので、人の歩いていた残留思念のようなものを照らしているという説が有力視されている。
ガサッ
(獣か!?)
夜の獣は、相手次第では命取りとなる。特にこの術を使っている最中は、相手に姿が丸見えだ。
静かに交代しつつ距離を置こうとした瞬間、腕輪から強い波動を感じた。
「ここで穢れか。」
調律師が扱う腕輪は、穢れに反応するようにできている。
穢れを放っておくと、大きくなるので、浄化をしなければならない。
(この先の村は、別の調律師もいるらしいから、しならくは、きっとまだ大丈夫だろう)
今向かっている村は、二人出ないと浄化できない規模だと聞いている。
しかし、ここで小さな穢れを放っておくことで、他の村に被害が出るかもしれない。
他の調律師でも現状維持はできると思い、草むらに駆け出した。
「Γγθ」
穢れに向けて、浄化の光を放つ。
(小さいからか、狙いが付けにくい!)
地上に生まれた穢れは、動くだけでなく、周りの障害物で簡単に見えなくなってしまう。
連続で光を放つが、うまく避けられる。
彼が熟練の調律師であったならば、このような方法は取らなかっただろうか。
例の村に行く仕事が頭から離れず、彼は急いでしまっていた。
連続で放つ光の一つが、穢れのはるか手前で消え去った。
(なんてことだ······)
先程浄化した村の池で見せた、(希望を感じさせる意図もあった)必要以上の浄化術式。休憩を挟まず道を急いだ愚行。
光の消滅は、術者の精神力の低下をあらわしていた。
顔が青ざめていく中、穢れの反撃が始まった。
うまくいなしていくが、体が追いついていかない。精神力の低下により、集中することができないのだ。
「ぐっ!」
とうとう、彼の右足首を穢れがかすめた。
(ここで死ぬなら、道連れにしてやる)
覚悟を決め、地面に肘をつき、腕輪を外し、左手とともに地面に押し付け叫ぶ。
「γεβΑδθξ!」
術を唱え終わったときと、穢れが彼のもとに飛び上がってきたのは同時だった。
大きな光が彼の左手を中心に広がっていく。腕輪が砕ける音とともに、彼の手に行く辺もの残骸が突き刺さる。
そして、何も見ることができなくなった。
彼には実際見えていないのだが、この光に包まれた世界で、穢れが茶色い粉をふきながら散っていった。
激痛が走る中、彼は何とも幸運だった。
光が地面に収束していく。
彼はかろうじて生きていた。
(目が……みえない……が……やった……のか?)
白い世界が彼の視界を覆う中、左手と足以上の痛みが来ないことから、自分が穢れを浄化できたのだと悟った。
しばらくそのままでいたが、心臓の鼓動が落ち着くと同時に、視界がぼんやりと戻ってきた。
手探りでまわりに障害物のないことを調べ、彼はゆっくりと立ち上がる。
あたりはすっかり暗くなっているが、少し前に発動した術の影響か、道らしきものが点々と光に照らされている。
(急がないと……)
生への欲と、調律師としての使命感を動力として、薄い光の点をたどって歩いていく。
周りの暗さゆえに、通常よりも薄くなった光だけが頼りとなる。
(なんだか、足に草がまとわりつくような)
それもそのはず、道だと思っていた場所とは別の方向に進んでいるからだ。
この術が残留思念によって光るという説は、普段誰も歩かないような遺跡や古道も薄く光るという現象からきている。
彼が頼りにする光は、おそらくはるか昔に道だった場所だと推測される。
そして、その道の先に、今を生きる人間たちは住んでいないのだ。
「なんて……ことだ……」
道の末端にたどり着いた彼は、音を立てて膝をついた。
おそらく太古の建造物であった場所なのだろう。
目の前には、光沢を持った柱が一つあるだけだった。
希望を失ったことで、彼は自身の右足首から、赤い液体が流れ出るのを感じた。
思い出したように、しびれるような、それでいて何か体の中で砂がこすれるような痛みを感じ、体が地面に倒れる。
(ここでおわりか……)
粘り気のある水たまりができる中、はっと柱を見つめた。
(昔の人々は、死のない世界を実現したと言われている。なにか……なにかないか!?)
薄赤色に汚れた右手で柱にはいよる。
何とか柱に手をつくと、冷たい鉄のような感触とともに、頭に何かが浮かび上がってきた。
――セイタイ動力源をカク認―――
―――スリープ――モードか―ラ―復旧しマス――
理解が追い付かず、何も考えれないまま、彼は手を柱からはなすまいとだけしている。
――患ジャの損傷をカク認――
――ノ―――をトウヨします―――
何かが体に入る感触と、中からしびれる感触を感じながら、彼は意識を手放した。
その後も、何かが彼の頭に働きかけていたのだが、それが何なのか、いつか知ることになる。
調律師は、思った方もいるかもしれませんが、世界が終わった後のプログラマーです。
SFチックな、世界が滅んだあとの雰囲気が好きです。見たことないけど。
そうそう。短編を上げると楽しいよって言われたので、本当に久しぶりに書いてみました。
お酒を飲みながらなので、変な表現があったら、お酒を飲んで忘れてください。
あと、続きません。